不調
「土曜日は悪かったわね。遊んでたところを邪魔しちゃって」
月曜日の昼休み、以前暁君と会った裏庭で寛いでいたら、暁君が現れた。
彼も、ここにはよく出没するようだ。
「全くだ………。あの後、奏に根掘り葉掘りお前のことを聞かれたんだぞ」
「え……私、何か不自然なところあったかしら?」
心配になって聞いたというのに、暁君は何故か深い溜息を吐いていた。
「いや、無かったよ。ああ、無かったさ」
「なら、良いけど」
「良くねえよ。お前の魔法で記憶を消すとかできないのか?」
「ああ、それ無理」
「……魔法も万能じゃねえんだな」
ポツリと呟いた言葉に、思わず苦笑いを浮かべる。
「確かに万能ではないけれども……そもそも、今私、魔法がちゃんと使えないのよね」
「どういうこと?」
「私もこの前お祖母様のところで気を取り込むまで気がつかなかったけれども……今の私は妙に気が枯渇しているのよ。まるで大規模な魔法を行使したか、何十年と気を補充していなかったかのように。そんな状態では、魔法は使えないわ。……分かりやすく言うと、空腹過ぎて飢えているところに、全力で運動をしろというようなものなのよ。そもそも動けないってこと」
「この前ばあちゃんの家で補充してただろう?」
「あれでなんとか日常生活が送れるようになったレベルよ。もっとも、すぐにでもまた補充しないとそれも危ういってぐらいね。だから今の私は、この前暁君に見せた初級魔法がやっと使えるっていうレベルなのよ」
この前暁君と街で会った後、なんだか知らない人にたくさん声をかけられた。
面倒だったから姿をくらまそうと魔法を使おうとしたところ、全く魔法が発動しなかった。
帰る前に様々な魔法を試してみたが、やっぱり初級しか扱えなかった。
魔法使いの名が廃る……と涙したものだ。
「ふーん、なるほど」
「というわけで、今日、早速お祖母様のところにお伺いするわ」
「まあ、ばあちゃんは歓迎するだろうな」
「本当にありがたいわ。何故かこの世界、本当に漂う気が薄くて困っているのよ」
「よく分かんねえけど……高山で空気が薄いのと同じ?」
「そんな感じね。あ、そうだ。暁君、もうご飯
は食べた?」
「食べたけど?」
「そっかー……これ、どうしようかな」
持ち上げた弁当は、中身が殆ど詰まっているため重い。
いい加減、具合が悪いということだけでは家族に説明ができない。なにせ、帰ってから全く家のご飯に手をつけることができていないのだから。
いくら姉にしか関心がない我が家でも、そろそろ疑念を持たれてもおかしくないぐらい。
かといって、捨てるのは勿体無い。
「弁当?お前、飯食わないのか?」
「食べない、じゃなくて、食べられないのよ。なんだか、身体が拒否してしまって。あっちでは、普通に食べられたんだけどねえ……」
「なんか、色々大変なんだな。こっちの世界は、お前にとって生き難い場所ななのか」
彼の言葉が的を射過ぎていて、思わず苦笑いを浮かべた。
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