コスプレです
結局、予習復習をしているうちに、朝をむかえた。
今の身体では、一晩寝なかったところで特に不都合はない。
窓を開けて太陽の光を感じて、一息を吐いた。
その後、学校に行く為に制服に着替える。
高校の制服を着るのは、こそばゆい。
……ある意味、コスプレだからだ。
着てみると、丈は丁度良いのだけれども、ぶかぶかだった。
懐かしさに制服を着てみたが……魔法でどうせ姿を変えるのだし、私服で行ってしまおうか。
そんな訳で、私は結局私服のまま魔法で姿と服を制服に変えて出た。
……因みに、魔法を解いたら異世界感がとても良く出た私服だ。本当に、早く服を調達しなければ。
半世紀ぶりの学校に興奮を感じつつ、私は軽い足取りで歩いて行った。
記憶に残っているのは、この通学路を進むのが嫌で嫌で堪らなかったということ。
けれども五十年経てば何のその、むしろ何でもない過去が輝いて思えて、楽しみにすら思えてくるから不思議だ。
かつてより進む速さが速かったからか、それとも単純に歩く距離が異世界での普段のそれよりも格段に短かったからか……ともかく、あっという間に学校に着いた。
家族と対面した時と同じく感動しつつ、中へと入る。キョロキョロと不審者のように辺りを見回しつつ、教室へとむかった。
……そういえば、学校の作りって覚えていない。そもそも学校に通い始めて、五ヶ月……夏休みを挟んでいるので実質四ヶ月時間しか通っていないというのに、五十年経っているのだから仕方がないといえば仕方がないか。
……そんなことを考えていたら、案の定道に迷った。並んでいるのは、理科実験室やら移動して受ける教室ばかり。
まあ、良い……少し早めに着いたのだし。そう思いつつ、探検気分で学校内を歩き回った。
結局、教室に辿り着いたのは始業五分前だった。無事辿り着いたことにホッと一息つきつつ、机を探す。
……そもそも、私の机ってどこだっけ?と、私は扉のところで固まった。
教室の位置すら覚えていなかったというのに、机の位置なんて覚えている訳がない。
尋ねようにも、『私の席ってどこだっけ?』なんて聞けない。
皆にとっては、私が召喚された次の日なのだ……前日まで普通に座っていた席が分からないなんて聞いたら、完全に不審に思われてしまうだろう。
扉のところで、席を観察する。誰も座っていなかったり、荷物が置いていない席は三つ。……到着が始業ギリギリで良かった……なんて思いつつ、その席を見比べた。
確率三分の一。全くどれか分からない。
ええい、ままよ……!と、私は窓際の席に座った。
瞬間、ざわりと辺りが騒がしくなった……ような気がする。
席を間違えた?と慌てつつ、私は隣の席の子に声をかけた。
「あのー……」
「何だよ?」
隣に座っていたのは、男の子だった。……顔を見ても、大変申し訳ないことに名前は全く思い出せない。
「私、席間違ってる?」
「寝ぼけてんのかよ。水池はもう一個前だろ」
その子は不審そうな表情を浮かべつつも、教えてくれた。
「……寝ぼけていたみたい。ありがとう」
私はそう言って、前の席に座った。
カバンを机の横にかけつつ、辺りを見回す。
……名前を思い出す人が、全くいない。
五ヶ月しかいなかったからというよりも、記憶の中の私はいつも一人だったから、そこが理由だろう。
始業ギリギリ前になって、扉が開いたかと思うと駆け込みで男の子が一人入ってきた。
彼が扉に姿を現した途端、教室が色めき立つ。
あれか……いわゆる、人気者というやつか。
彼は、声をかけてきたクラスメイトに挨拶を返しつつ、私の後ろの席に座る。
……なるほど、私が席を間違えた時に騒がしくなったのはこれか、と一人納得した。
彼は、席に着くと私が席を聞いた子と楽しそうな話し始める。
その光景に、ますます教室の中が騒がしくなっていた。
主に、女性のざわめきで。
彼が教室に入ってから一分も経たないうちに、教師が入室した。
そのまま、朝のホームルームが始まる。
出席確認の間、耳をすませて名前と顔が一致するよう必死に覚え直した。
全てを覚えたとは言えないが、全く覚えていないよりマシだろう……そんなことを思いつつ。
そして、ホームルームが終わり、ついに授業が開始した。
前夜かなり心配したけれども、むしろ心配して予習復習したおかげか、何とか授業についていくことはできた。
改めて授業を受けてみると、勉強って面白い……!の一言に尽きる。
あの頃は何でこんなこと勉強しなければならないんだ、と思っていたけれども。
今となっては、そもそも勉強をすることができる環境って素晴らしいな、というところから感動だ。
特に私の興味がそそられたのは、理系だった。
流石、この世界は文明が発達しているだけのことはある。
社会に出てどう必要になるのかは分からないが……勉強し、原理原則を学ぶということは非常に重要だ。
異世界に召喚されてすぐ愕然としたのは、自分がその道具の使い方を知っていても、どう作られているのかは全く理解していなかったということだった。
例えば、電気。電気で動く道具なんかの使い方は分かっているが、そもそもどう発電されていて、それがどのようにして送電されているかなんて、テストの為にだけ勉強していたせいで、全く記憶に残っていなかった。
物語の中で出てくるような、発明をして一発当てるというのは、こちらで余程頭に叩き込んでいないと無理だということを、痛いほどの実感している。
もう異世界に行くこともないだろうが、折角あんな経験をして学ぶことの必要性が身に染みたのだ……こんな勉強するのに整った環境にいることができる今、利用しないのは勿体無い。
そんな訳で、かなり必死に真面目に授業を受けた。
午前の授業が全て終ったところで、昼休み。
姉がお弁当を持って行く日には私にもあるので、今日は弁当を持参している。
とはいえ、昨日の感じじゃ食べられないんじゃないかな……と心配しつつも口にしたら、案の定一口食べて断念。
せめて僅かでも良いから気を補充しようと、私は弁当を仕舞って外へと出た。
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