勉強をしましょう

部屋に戻った私は、魔法を解き瞑想に入る。


仙人は食事を必要としない。

その代わりに、世界に漂う気を自身に取り入れるのだ。

食事を口にするのは、あくまで楽しむ為。

勿論、食事からも必要な栄養を取り入れることはできるのだけれども、気を取り込む方がお気軽なのだ。

祠に引きこもっていて、外に出るのは稀だったからなあ。

偶に外に出た時には、お金で買うこともあったけれども、街は遠かったので大抵はサバイバル。

勇者時代の経験が、とても活きた生活だった。



数分数十分、そのまま瞑想を続けた。

……けれども、気を上手く取り込めない。

というか、この世界に漂う気が薄すぎる!


どうしよう……食事も取れない、気を取り込むこともできない。

このままじゃ、魔法も仙術も使えなくなる。

それ以前に、確実に飢える。

都会のど真ん中で、まさかこんな心配をすることになろうとは。


五十年の生活は、伊達ではない。

もう、完全に習慣は向こうのものになっているのだ。

不都合が色々出てきて、正直面倒になってきた。


……そもそも私、皆と寿命が違うのだけど……どうしようか。

戸籍とか、戸籍とか。


ぼんやりと、寝そべりながら考える。

けれども考えても、当然結論は出ない。


意図せずとも、この世界に帰ってきてしまったのは変えようのない事実……とにかくまずは生活できるように環境を整えないと。


……休みに入ったら食糧を調達しよう。それから、気が補充できる場所も探さないと。


そう決心し、再び部屋の中をウロウロ見回す。

未だ、慣れない。慣れるしかないけど。

そういえば、明日も平日。当然、学校がある。


……学校!


私はその単語にガバリと起き上がった。


慌てて、カバンの中から教科書類を取り出す。

何せ、五十年も前の話。勉強なんて記憶の彼方だ。それどころか、日本語すら怪しい。


いかんせん、向こうは全く別の言語だったのだから。

話すのは日本語だというのに、読み書きは全く異なるそれ。おかげで向こうに行った当初は大変苦労した。結局、覚える必要はないということで、魔術語だけを叩き込まれた。

魔術語はこっちでいう古文のようなもので、一般の人が読み書きするものとは全く異なるもの。

その歪な教えのせいで、放逐された後ギルドの他に就ける職業がなかったのだが。


翌日の時間割を確認し、それらの教科書に目を通す。なんとか記憶を掘り起こしつつ、頭に叩き込もうと必死にその晩はずっと読み漁った。


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