思い出しましょう
私が叫んですぐに、部屋の扉が開いた。
「優香、一体どうしたの?」
現れたのは、私の母親。
懐かしさを感じつつ、マジマジと彼女を見つめる。
……やっぱり、私の記憶にある姿と変わりがない。
まさか、本当に……五十年前の召喚された日に戻ってきたということか。
「ごめんなさい。転寝をしていたら、夢見が悪くて。つい、叫んでしまいました」
私の言葉に、母親は呆れたように息を吐いた。
「全く……寝てる暇があるのなら、勉強なさい。香織のようにとは言わないけれども、せめて香織が恥ずかしくないようになりなさい」
「はい。申し訳ありませんでした」
母親が部屋から出て行ったところで、再度自分の姿を確認する。
母親が部屋に入ってきた瞬間、念の為魔法で自らの姿を変えた。
十五の頃の自分の姿に。
半信半疑だったけど、魔法をかけておいて良かったと息を吐く。
こんな姿で現れたら、不審者として警察に突き出されてしまうもの。
私はさっと、魔法を解く。自らの姿を変える魔法は、まるで薄いラップに全身を包んだような纏わりつく感じがあって、あまり居心地の良いものではないからだ。
とはいえ、また夕食時には魔法をかけなければならないけれど。
それにしても、十五の頃の姿ってこんな感じだったっけ……?と、再度自らに魔法を掛けつつ首を傾げる。
何せ、五十年以上も昔のことだ。しかも、召喚された後は訓練でいつも疲れ果てて、鏡を見る余裕なんて全くなかったし。
私は部屋の中を再度物色し、かつての写真を探す。
……中々、見つからない。
それもそうか、と探すのを一旦諦めてベットに寝転がった。
私は自分の容姿が大嫌いだった。
何せ、私を除く家族の皆が美形揃い。
オマケに才色兼備は彼らの為にあるのだという程の能力。
その中で平々凡々な私は異質であったし、家族もそれを露骨に出していた。
それが私の中の劣等感を刺激して……益々自分の殻に閉じこもるようになっていた。
あちらでは容姿のことよりも、まずは生きることが先決だったから、いつの間にかそんな劣等感は気にならなくなっていたけれども。
ギルドでそれなりの地位を確立して余裕が出た頃、周りを見て唖然としたものだった。
何せ、流石ファンタジーの世界……今まで家族ほど美形の者はいないと思っていたが、そのレベルはゴロゴロいたのだ。
……その頃には、容姿よりも実力を重視していた為に、再び劣等感に苛まれることがなかったのは幸いだった。
ほぼ単独で依頼についていたが、たまにパーティーを組む時には、そうでないと仲間が危険に陥るからね。
それはともかく、今母親を見た時に、こんなものだったかな?と失礼なことまで思ってしまった。
「……あ。卒業アルバム」
私は、クローゼットの奥からそれを取り出した。
あんまり見たくなくて、でも捨てることはできなくて、奥に仕舞い込んだそれ。
それで、かつての姿を探す。
……本当に、写真嫌いだったんだな。個別の自分の写真を黒塗りしている。
なんて、他人事のように考えつつページを捲った。様々な写真を見るが、とにかく私は写っていない。
徹底的過ぎて、自分でも驚くほどだ。
どれだけコンプレックスに思っていたのだか。
その時は深刻でも、時が経てばどうでも良くなるという奴だ。
自分で過去の自分の必死さに、私は思わず笑ってしまった。
変われば変わるもんだ、と。
「……あ!」
やっと見つけたのは、写真中央からかなり離れたところにいた自分。
それをじっと見つめ、かつての姿を瞳に焼き付ける。
……よし、この姿をイメージしてもう一度魔法をかけるか。
「……優香!ご飯よ!」
ちょうどそのタイミングで、母親よりお声がかかる。
私は返事をしつつ魔法をかけてから、部屋を出た。
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