現状を確認しましょう

そもそも、五十年以上経ってから戻ってきたのだ。一体この世界はどうなっているのだろうか……と、まず窓を開ける。


……多分、変わりない。

記憶が薄れ過ぎていて細部まで思い出せないが、恐らくこんな感じであった筈。


漫画に出てくるような未来都市みたいになっていると思ったのだけど。

案外、技術の発展はなかったようだ。


それとも一周回ってかつての様相に戻したのだろうか?所謂、懐古主義?


窓の外の景色を眺めることを止め、私は室内を見渡す。

私の昔の部屋と同じ……だ。

それも、多分なのだが。


机などの家具の位置も、記憶にあるそれと変わりがない。

もしかして失踪した娘を想って、そのままにしておいてくれたのか?

いや……あの親がそんなことを本当にしてくれるのだろうか?

あんまり家族に対して良い思い出がないので、ついつい疑ってしまう。


次に全身の姿見で、自らの姿を確認する。

……鏡に映っているのは、白銀色の長い髪を垂らした二十四歳の私。

白銀色の髪は、仙人の証。

仙術修行を修めた時に、元の黒髪からこの色になったのだ。

因みに、二十四歳の姿のままなのも仙人となったからだ。

多分、この姿のままあと四百年はいるだろう。

決して、魔法で姿を変えている訳ではない。


……やっぱり、異世界での出来事は夢ではない、筈。


「……あ、魔法を使えば良いのか」


早速私は、掌を上に向けて魔法を放つ。

小さな水玉が私の掌の上に浮いていた。

問題なく、魔法も使えた。


魔術を昇華し真理を得て魔の法を司る者……それが、魔法使い。

魔の法を使うとなると、頭の中で思い浮かべるだけで魔の力を行使することができる。

長ったらしい詠唱は必要ない。

勇者の力に目覚めたと同時に、私は魔術師から魔法使いになった。

私が今無詠唱で魔の力を行使したのも、それが理由だ。


それはともかく、やはり私は異世界にいたのだ。これは、間違いない。


次に疑問に思うのが、記憶と変わらないこの部屋だが……本当に五十年経っているのだろうか?

記憶自体が定かではないが、あまりに違和感がなさ過ぎる。


自分の部屋ではないかもしれないそこを、私は手当たり次第物色し始めた。

……今は、西暦何年なのだろうか。


ふと、机の中にあった携帯を手に取る。

懐かしい……とそれを撫でた。


あの世界では機械の発達が地球よりもかなり遅れていた。

魔術なんていう摩訶不思議なものがあったから、必要なかったのかもしれないが。


ボタンを、押してみた。

電源がついた……!と、まるで初めて携帯に触る人かのように、感動する。


いの一番に、待ち受けの日付を確認した。


「………は?」


忘れもしないその日付は、まさしく私が召喚されたそれと同じ。


「はあぁぁぁあ?」


思わず、その場で叫んだ。

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