勇者になりました

それからも、私は戦い続けた。

人は段々と劣勢から、優勢へと転じていった。


……あと少しで、魔王に到達する。

そんな時だった。


私は、とある老人に出会った。

自分が仙人だという、老人に。


「なんとまあ、変われば変わるもんだ。修羅か何かと思っておった女子が、このように落ち着くとは」


出会い頭にそう言われ、面を食らったのは今でもよく覚えている。


老人は、私の存在を知ってから時折私のことを観察していたらしい。

というのも、私は仙人の素質である仙骨を備えていたらしく、自分の後継にしたいと。


けれども彼が初めて私を見つけ頃は、ちょうど力に酔いしれていた時で、どうせ修行したところで仙人になれぬだろうと切り出さなかった。

ただ、その仙骨が稀に見る逸材であった為、ちょくちょく様子を見ていたそうだ。


仙人の修行は短くとも数十年、長いと数百年に及ぶ。

仙人となれば、仙術を扱うことができるようになり、そして寿命も五百年ほどに延びるとのことだった。


けれども、その申し出を私は断った。

数十年・数百年の修行は、人の世界から離れて行うのだ……その間に、魔王軍や魔物たちによってどれだけの人が犠牲になるのだろうかと考えると、とてもではないが受けることはできなかった。


そして、私は変わらず戦い続け。

遂に、魔王を倒すことに成功した。


この世界とも、お別れか……と少しばかりの感傷と充実感を感じつつ、私は還る時を待った。


けれども、待てども暮らせども景色は変わらない。


一体どういうことだと、その場にいても仕方ないのでアルデル国に戻って王に問いただした。


……結局のところ、魔王を倒すと帰れるというのは嘘だった。

確かに……魔王を倒した時に、膨大な魔力なんて私は感じていない。

召喚に必要な莫大な魔力は、世界に漂うそれを数百年かけて集めたものだったのだ。

理論上また数百年待てば魔力は溜まるので帰ることも可能かもしれないが……人の身で待てる筈もなく。

人を救った英雄として、アルデル国に住めば良いと王は言った。


七年も暮らしていたので、あの世界に幾ばくかの愛着があった。

何より七年も地球から離れていたのだ……帰ったところで、どうなるのか分からない。

学校にも通っていない、下手すれば失踪扱いで死んだことになっているかもしれないのだ。


そうして結局、私はアルデル国に残った。

……始めは、まだ良かった。

英雄として扱われることには、救えなかった面々が思い出されて正直居心地が悪かったけれども。

魔王の危機に怯えなくて良いと、人々の喜ぶ様が見ることができたから。


けれども、段々と人はかつての危機を忘れていく。

そうしていくにつれ、私という存在を、ある者は利用しようと近づき、ある者は強大な力を持つ存在として恐れ排斥しようと動いた。


魔王という共通の敵がいなくなり、人と人との諍いが徐々に表に現れる。

私という存在は、その渦中に立たされることになった。


その間に、色々と人の汚いところを見て。

人と距離を置きたいと、どこかに雲隠れしようかと考え始めた頃。

再び、かつて私を誘った仙人に会ったのだ。

勿論、迷うことなく老人について行った。


そうして、仙人修行を開始した。

数十年かかると言われた仙人修行を、僅か数年で修めて。

一端の仙人として祠を持たせて貰って、世俗に関わらず、のんびりと暮らし始めた。

こういう暮らしも良いな、と自分の生活に満足をしていた。


……だと、いうのに。


何故か再び召喚された時の強い光を感じたかと思えば、こうして元の世界に戻っていたのだ。


感慨深いが、正直喜びも薄い。

今更何で……?という疑問が一番大きかった。


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