黒歴史を語りましょう
討伐系の依頼は恐ろしいので、採取系の依頼を複数受けまくった。
……けれども、どんな依頼にも危険はつきもの。
三ヶ月ぐらい経って慣れてきた頃故の油断に、私は足元を掬われて危うく魔物に殺されそうになった。
そして、その時に勇者の力に目覚めたのだ。
臨死体験をして力に目覚めるなんて、正に物語のお約束。
素早さも力もそして魔力も、凡そ人が到底持ち得ないようなそれらを手に入れて。
剣の腕は冴え渡り、魔術は呼吸をするかのごとく扱えるようになっていた。
力に酔った私は、討伐系の依頼を次々と受けるようになって。
加入してから一年もしないうちに、ギルドでそれなりの地位を確立するようになっていた。
その頃には、人と戦うことに忌避感を感じることもなくなっていた。
噂を聞きつけた王国の者が、私を再度勇者として魔王の討伐を依頼したいと申し出てきた。
私はそれを、受けた。
日本に帰りたいと願う気持ちはその頃既に薄れていたが、破格の報酬に受けない手はないと。
再び城に入った時に感じた目線。かつてとは異なるそれに、私は酔いしれた。
人に認められるとは、なんと甘美なことか!
地球でも、私は人に認められたことなどなかった。家族にはみそっかす扱いをされ、学校でも同じような感じであった。
初めて人に認められ、世界はこうも変わるのかと、嬉しくて仕方なかったのだ。
依頼を受けた私は、淡々と作業のように魔物を狩り、魔王軍を壊滅させていく。
私の戦った跡は嘘でも誇張でもなく、地形が変わっていた。
魔物と魔族の血に全身が濡れていて。
あの頃の私は、最早戦いを求める鬼のような存在であっただろう。
そんな私に、転機が訪れた。
私は、魔王軍に占領された街を奪回する為にその街に向かった。
けれども街の人々たちは私が到着する前に、魔王軍の統治に耐えかね、自ら蜂起し戦いを挑んでいた。
……当然、被害は尋常ではなかった。
戦いに参加した人も、戦いに参加していなかった人たちまで。
私が到着した時は、ちょうど争いが激化していた時。
私の数百メートル先……街と森の境で、逃げ遅れた小さな子どもに魔族の放った魔術が当たったのだ。
その子が倒れていく様は、まるでスローモーションの動画のように私の目に焼き付いた。
その子の母親らしき女性が呆然とその横に立っていた。
魔術があちらこちらから放たれ、いつ自身に当たってもおかしくない、その場で。
呆然としていた彼女は、やがてポロポロと泣き叫び、その子どもを抱きしめていた。
あの世界では、何でもない光景。
たくさんの人が、魔族に魔物に、そして人に、そうして命を断たれていたのだから。
私自身何度も事後の光景はこの目で見ていた。
けれども、あの時だった。
人が死ぬのは、悲しいことなんだと……そんな、当たり前のことを思い出したのは。
私は戦いに参戦し、すぐに魔王軍を壊滅させた。
いつもなら、それで終わったとばかりに立ち去っていたのだけれども……その時は、違った。
暫くその街に留まり、亡くなった人たちの葬いを手伝った。
同時に、来るのが遅くなってしまって申し訳ないと一人一人に謝った。
私がもう少し早く到着していれば、あの幼い子は死なずに済んだかもしれない。
あの母親は、身を切られるような絶望を味わうことなどなかったかもしれない。
そう思うと、やり切れない想いが私の胸を占めた。
けれども誰も、私を責めなかった。
それどころか、来てくれてありがとうと御礼を言われる始末。
あの幼子の母親ですら、私に涙を流しつつ手を握って感謝の言葉をくれたのだ。
私は、その時久しぶりに泣いた。
力に酔いしれるばかりであった自分を、恥じた。
そして、早く魔王を倒そうと改めて誓ったのだ。
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