VI. Confront The Past

16. An Irrational Disbandment

 ゴールデンウィークも終わり、平日月曜日の放課後。いつもの4人のメンバーでLL教室にいる。例によって松木戸先輩はノートパソコンでタイピング、俺はスマホで今ハマっているゲームアプリ、美月は発声練習、綾乃先輩はダンスの練習をしている。この状況もいつの間にかいつも通りになっているが、気付けば俺が千歩ちゃんの件に関わり始めてから、だいたい1ヶ月になる。あの時のBECは2人だけだったし、活動もせずただ教室にいるだけで1日が終わっていた。辞めても良いと思っていた当時の俺は、今日まで続けられるとは予想してなかった。

 松木戸先輩の事もある程度分かってきた。BECに入る前の印象では、芯を曲げない部分は尊敬できるけど、やり方が強引で問題があると思っていた。色々な問題を解決してきた今を振り返れば、いじめをなくす為に校内で1番最善を尽くしていると言えるし、俺が持っていた先輩への不信感はほとんど払拭された。ひとまず松木戸奨という人物が分かってきて、俺はBECの活動に対しての不安もなくなった。これから新しいいじめやSOBを見つけても、あの人がいれば必ず解決できるとも思える。……認めたくないけど。


「ゴールデンウィーク過ぎてばっかでSOBっぽい案件もねーし、今日は自由解散にするか?」


 放課後になって集まってから30分くらい経った頃、高速タイピングの手を止めた松木戸先輩が切り出した。


「この時期って、そういうもんなんですか?」

「そーだな。新学年になった環境が落ち着いてきて、人間関係も落ち着いてくる。そこにゴールデンウィークが来て、SOBの要素が減る時期だ」


 自由解散なんて初めてだ。


「もう帰っていいんですかっ☆ 綾乃先輩、自由解散ですって!」

「え? 何?……解散?」


 ダンス中の綾乃先輩は、青いチェック柄のリボンでツインテールにした美月に肩を叩かれてワイヤレスイヤホンを外した。聞こえてなかったみたいなので、俺が補足する。


「SOBがないので、自由解散だそうです」

「あら、そう? でも、ここに残ろうかしら。新曲のダンスを練習しときたいし。案外この教室って人目も気にせず集中できるのよね。練君はどうするの?」

「久しぶりの学校で疲れたので、帰ろうかと思います」

「皆さん! これが『若者の老化』です! とくとご覧ください!」

「ご覧させるな。そんなの見て楽しい人いないだろ」

「いるんだな~。あたしがっ☆」


 お前と絡むと余計に老化する。


「それじゃー、今日は自由解散だ」

「やった~☆」

『ガララッ!』


 美月は素早く私物をカバンにまとめて、勢いよく教室を飛び出そうとすると、LL教室前の方の扉が突然開いた。


「BECの諸君! 通達に来た」


 黒髪が全体的に長髪でも短髪でもないが前髪だけ長く、その隙間から長方形の銀枠眼鏡が見えている男子生徒。制服ブレザーのボタンは全て閉じて、高級ブランドのロゴが入った金色のネクタイをしている。身長はだいたい180センチくらいで、松木戸先輩と体格を比較すると少しだけ細身。俺はこの人を知っている。諏訪園高校現生徒会長の久方ひさかたまことだ。


「どーでもいいがノックぐらいしろよ、久方」

「これは失敬。最強のボクとした事が」


 自分の一人称に『最強の』と付けるのが口癖らしい。去年の演説の時もそうだった。俺はこういうナルシストが嫌いだ。自分を強いとか言っちゃってる奴は大体弱いし、満足してるから伸びしろもない。上には上がいるし、どうせ自分の事が分かってないから最強とか勘違いしてるんだろ。


「で、会長さんよ。何の用だ? こっちは解散するところだったんだが」

「解散? まさにその件なのだ!」


 ……は?


「君達には残念だが、本日限りでBECは解散してもらう」

「そーか。……覆る可能性はあんのか?」


 唐突過ぎて俺は言葉が出ない。なんで松木戸先輩は冷静なんだ?


「0%だ。これは生徒会だけでなく、先生方の判断もある」

「……仕方ねーな。分かった」

「え?」


 強引な生徒会長と素直過ぎる松木戸先輩に俺は声が漏れた。もっと他に、本来言うべき事があるはずだ。


「では諸君! 最強のボクは失礼する」


 俺の反応を無視して、生徒会長がキビキビとした歩調で教室を出ようとしている。


「――ちょ、ちょっと待ってください! 俺は納得できません。BECが無くなる理由は何ですか?」

「すまないが、最強のボクは忙しい。訳を訊きたいのなら、生徒会室に来てくれるだろうか? 仕事をしながら話すことを認めてもらえるならね」


 そう言い残して、生徒会長はキビキビと早歩きで去っていった。松木戸先輩は荷物を片づけてから立ち上がり、周りを見渡しながらこう言った。


「つーわけで解散だ。今までありがとうな。綾乃はここまでよくついて来てくれた」

「貴方、何様のつもり? 私は自分の意志でいただけよ。いつになったら人を敬う事を学ぶのかしら?」

「ははは。学んではいるが、敬おーとか一生思わねーだろーな」


 そんな事はどうでもいい。


「新倉はあんま関われなかったな。バンド、頑張れよ」

「頑張りますけどっ、本当に解散ですか? 急すぎるんですけどっ!」

「……まー、色々あるんだよ」


 色々? じゃあそれを話せよ。


「東雲もありがとうな。テメーがいなかったら、この1ヶ月苦しかった」


 まるでこれから転校でもして、いなくなるかの様な口調。


「お礼なんてどうでもいいです。美月も言う通り、理由を分かっているなら教えてください。BECのメンバーは知る義務があると思います」

「主にオレが悪いんだろーな。なんかのやり方を間違ったか、防Bカメラが問題になったか、とかじゃねーのか?」

「『とかじゃねーのか?』って、理由も分からずに解散を受け入れてるんですか!」

「分かんねーけど、だいたい分かるだろ。それに、覆る可能性がねーって言われた以上は足掻いても意味ねーだろ?」


 松木戸先輩は私物をまとめたスクールバックを両腕に通して、LL教室を出ようと歩き始めた。


「俺は納得できません! BECから解散を宣言したのならともかく、いきなり生徒会長が来て『解散してもらう』『分かった』なんて会話おかしいです! なんで選挙演説の時みたいに反論しないんですか!」


 自分が天の邪鬼だからとか、そんな浅い考えで引き止めてるんじゃない。BECがこの学校に必要なのは明白だ。それは今まで解決してきた人たちの顔を思い返せば分かる事だ。いじめ撲滅委員会が委員会で1番大事とさえ今は思う。俺はいつの間にか、この委員会が自分の高校にある事を誇りに思える様になっていたんだ。


「……悪りぃーな東雲。生徒会だけでなく教師の決定っつーのは、覆すのは難しーな」


 松木戸先輩が謝った。どんな時でも徹底的に謝らない松木戸先輩に、初めて謝られた。


「いつも謝らないくせにどうしたんですか! 俺は別に謝って欲しいんじゃありません! 活動継続の為に戦いましょうって言ってるんです!」

「……勝手にしろ。どーせ無駄だがな」


 そう言い残して、松木戸先輩は扉を閉めて行ってしまった。その態度に、俺は思わず右手こぶしの腹で自分の机を叩きながら叫んだ。


「あぁクソッ! 何謝ってんだよ!」

「あれ、嘘よ」


 綾乃先輩は冷静に分析していた。


「嘘?」

「そうね、何となくだけど。本音はBECを続けたいのだと思うわ」

「あたしもそう思いましたっ。『勝手にしろ』って言った時の顔が」


 俺にはそう見えなかった。


「だったら何で会長に反論しないんですか? 『自分に後ろめたい事があるなら、ちゃんと向き合え』っていつも言ってるくせに」

「奨自身、向き合いきれてない事があるのかもしれないわね。今回の原因もそうなのかも」


 どんな理由があったって、BECが無くなる理由になる訳がない。


「とにかく、俺は生徒会長の所にいきます」

「あたしも行く。納得できないし」

「私も行きたいのだけど、新曲のダンスを練習したいのよ。今日の夜ユニ×ユニで打ち合わせもあるのよね。……ごめんなさい」

「……いえ、仕方ないですよ」


 俺は少しイラッとした。もちろん綾乃先輩はストイックで、アイドル活動に余念がないのも分かっている。だけど俺は、綾乃先輩はBECなんてどうだっていいと思ってるんじゃないかと感じた。



―*―*―*―


 俺と美月は諏訪園高校の最上階4階、生徒会室の前まで来た。よく考えると、生徒会室に来るのは初めてだ。


「行くぞ」

「……うん」


 俺はノックしようとした手を止めた。……震え? なんで緊張するんだ? 自分の心臓の鼓動が早くなっている事にも気が付いた。BECの存続、自分のプライド、これから起きうるいじめ、初めて来る教室で発動する人見知り、色んな感情がごちゃ混ぜになって整理しきれてないのかもしれない。


「レン。いったん深呼吸しようっ」

「ああ」


 俺達2人は生徒会室の扉の前で、横並びで深呼吸をした。


「……ライブ前とかでもね。無意識のうちに浅い呼吸になって、ちゃんと呼吸できてなかったりするの。それでも歌い始めちゃえばエンジンかかってくるんだけど、特に1曲目とかブレスが上手くいかなかったりするんだよね。掴みが大事なのは分かってるのにさ」

「へぇ、美月も緊張したりするのか? 見てるとそうは見えないけどな」

「見せないようにしてるの。見せたらガッカリさせちゃうでしょ? ライブ前なのに、『お客さんいっぱい来てくれてるかな〜』とか、『楽しんでもらえるかな〜』とか、『ちゃんと歌えるかな〜』とか考える。直前に考えても仕方のない事を考えて、不安な気持ちで一杯になるの」


 この緊張も、仕方ない事を考える不安が原因って事か。


「でも、答えは単純っ☆ やれる事を精一杯やるしかないのっ。色々考えすぎて、いつもやれてる事ができなくなっちゃダメなんだよっ。今もそうでしょ? あたし達にできるのは、生徒会長に理由を聞いて交渉するだけ。それだけに集中しないとダメっ。感情的になったら、いつも冷静にできる会話ができなくなって、交渉が難しくなっちゃうかもしれないでしょ?」

「ああ……まぁ、そうだな」


 なんだこの頼れる幼馴染は。真面目モードな美月には惚れてしまいそうになる。


「……行くか」

「うんっ!」

『コンコン』

「はい!」


 生徒会室の中から、聞き覚えのある声の返事がした。


『ガラッ――』

「おお、レンと美月! 待ってたよ!」

「煌士! そういえば、お前生徒会か」

「ひどっ! 忘れるなよ!」


 初めて見る諏訪園高校の生徒会室。向かって正面奥にある大きめで横長の机に、久方誠が座っている。生徒会長の机から向かって垂直に、この部屋の中心に3人ずつ座れる長机が2つ、向かい合わせで縦になっている。入口から見て会長はこちら向き、他の生徒会メンバーは横向きに座っている。会長と煌士を入れて男子が4人、女子が3人いるようだ。1人1台目の前にデスクトップパソコンがあり、パソコン室にあるような良い椅子に座っている。……中学時代の生徒会は全員パイプ椅子だったのに。入口から向かって生徒会室左側には、色々張り紙や書き込みがあるホワイトボードがある。右側は物がたくさん入りそうな棚と本棚にがあるが、余分なスペースがないくらいの状態で、入りきらない物が入っているのか付近の床に段ボールがいくつか積んである。カーテンが開いていて日差しも入っている。……でも何て言うか、入っている光ほど明るい雰囲気ではない部屋だ。


「クスクス……」

「ふふっ……」


 俺と煌士のやり取りで、何人かが笑っているのが見えた。会長のパソコン画面は机に対して斜め向きにおいてあり、生徒会長の体の向きもにそっちに向いている。会長はさっき言っていた仕事があるのか、無反応にひたすらタイピングを続けている。その姿を見た俺は、LL教室の松木戸先輩の姿と少し重なった。


「レンと美月、事情は知ってる?」


 入口前で煌士が小声で確認した。


「いや、理由を聞きに来た」


 俺も小声で返した。


「……分かった。辛いだろうけど、しっかりね」

「……」


 煌士は事情を知っているみたいだ。なんで生徒会は知っててBECには知らせが無いんだよ? そこに対して俺は怒りを覚えた。


「レンっ! できる事に集中っ☆」


 美月の小声に、俺は我に返った。


「……さんきゅ」

「いいえっ☆」


 俺達が少し笑顔になったのを見て、煌士が入口から生徒会長に呼びかけた。


「久方会長。BECの2年生、東雲練君と新倉美月さんが来ました」

「おお、来たか。大事な話だから扉を閉めてくれ」


 俺達は中に入って、美月が扉を閉めた。


「重ねて言うけれども、パソコンを見ながらお話しをする無礼を許してくれ給え。最強のボクはやる事が多くてね」

「……いえ」

「君達も座って話した方が良いかい? 確か椅子が――」

「平気です。立ったままで構いません」


 人見知りのせいか、あまりここに長居したくない。反射的に答えてしまった。


「そうか。……まぁ、それもよい」


 煌士は1番手前側左、空いていた自分の席に座った。俺達は左から俺、美月の順に入口前に立った。


「それでBECの2年生。何が訊きたい?」

「1番知りたいのは解散の理由です。どんな理由でも、俺達には知る権利があるはずです。もう1つは存続の可能性について。今後の学校生活において、いじめを無くす取り組みは必要なはずです。今まで救えた生徒がどれだけいるか、会長は知ってますか?」

「……なるほど。君はBECを大事に思っているのだね?」


 ここで初めて生徒会長の手が止まり、目だけが俺の方を向いた。だが、すぐ目線を元の状態に戻してタイピングを続けた。


「BECの中にいる君が、いじめ撲滅の必要性をしっかり主張する事ができるのであれば、存続という道はあるのかもしれない」

「本当ですか! だったら――」

「ただし! そう簡単にはいかない。生徒会だけでなく先生方も説得しなくてはいけない。BECという名前も変える必要がある」

「なんで名前を変えるんですか?」

「問題が発覚した委員会の名前を、残しておく訳にいかないからだ」

「……だから、その問題は何なんですか! 俺達の何がいけないんですか! いじめを撲滅する事は、みんなの望みじゃないんですか!!」


 俺は怒鳴った。何度聞いても明確な答えが返ってこない事に我慢の限界だった。会長のタイピングがまた止まったが、画面を見つめたまますぐ言葉が返ってこない。美月から『冷静に』という感じで、肩をポンと叩かれた。


「……すいません。大声を出して」

「いや、良いんだ。君は悪くない。躊躇ちゅうちょした最強のボクが悪い。最強も心が揺らぐのだな」


 動揺しているらしいが口調は淡々としてる上に、最強のぶち込みに余念がない。しかし、気付くと煌士含めた生徒会の面々は、少し俯いて重苦しい雰囲気だった。――ただ1人、俺が怒鳴っても表情を変えないで話す生徒会長を除いて。


「昨日の日曜15時頃、1本の電話が学校に来た」


 生徒会長はタイピングの手を止めて、体をこちら向きになった。両肘を机に突いて両手を組み、口の前に添えた。


「諏訪園警察署から自殺関与罪の容疑で、ウチの生徒の松木戸奨を事情聴取するという内容だった」

『――え?』


 俺と美月は同じような声を出した。……会長は何を言ってるんだ? 愕然と、茫然と、ショックとで、何が何だか分からない。


「君は3年前、諏訪園区で中学生の自殺があったの知ってるかい?」


 ……3年前。俺が中2の時。


「確か中学3年の男子生徒が、自宅で首つりを……」


 当時は他人事に思えなかった。ずっと地元のニュースでやってるのを見ていた。


「死んだ生徒と松木戸、そして最強のボクは当時諏訪園西中の3年生だった」


 同じ中学だったのか。


「俺の記憶が正しければ、2人の男子生徒が捕まって少年院に行ったって聞きました」

「その通りだ。その後懲役刑が言い渡されて、少年刑務所に収容された。それで事態が終息したはずだった。――昨日警察から連絡があるまでは。何日か前、懲役中の少年1人が松木戸奨も共犯だと言い始めた。それで当時の同級生に対し、警察が聞き取りを始めた」

「久方先輩も聞かれたんですか?」

「無論、最強のボクも聞かれたよ。せっかくのゴールデンウィークが台無しさ」


 迷惑そうな態度で、会長は続けた。


「最強のボクは『分からない』と答えた。彼らとはあまり関わりがなかったからね。当時の松木戸は現役バリバリのヤンキーだったから友達も少なかった。……今も少ないか」

「懲役中の人が言い出した事は本当に事実なんですか?」

「それも本人達じゃないと分からないが、4人がよくつるんでいたのは最強のボクも見た事がある。自殺間際の事は分からない。だが今回聞き取りをされた同級生の中に、自殺前日に死んだ子と2人で公園にいる松木戸を見たという証言があったらしい」


 自殺前日に2人で?……俺は何を信じれば良いんだ? やっと松木戸先輩の事を信頼できると思える様になってきたはずなのに。


「でも会長っ。懲役してる少年が、松木戸先輩を巻き込もうとしてる可能性もあるって事ですよねっ? 友達を自殺に追い込む様な人だったら、BECを作ったりしないと思いますっ☆」

「自殺に追い込んだからこそ、償いとしてBECをやってる可能性もある。どちらにせよ、本人しか分からない」


 美月の前向きな意見に会長が水を差した。俺が話を続ける。


「松木戸先輩本人は何て言ってるんですか?」

「警察や先生方、最強のボクも訊いたが、一貫して無罪を主張している」

「そうなんですね! それなら――」

「が、最強のボクにはこうも言った。『オレはいじめてないし共犯もしてねーが、殺したよーなもんかもな……』と」

「……どういう事ですか?」

「訊ねたが、答えてはくれなかった」


 やっぱり共犯じみた事をやったって事か? あの松木戸先輩が? いじめをなくす事に真っ直ぐなあの人が?


「生徒会として知り得る事はここまでだ。他に何か質問は?」


 生徒会長の体の向きがパソコンに向かい、またタイピングが始まった。


「……もう、大丈夫です」

「いいのか? BEC存続の話はどうする? 君が委員長をやるのであれば考えなくもないぞ?」

「今は、ちょっと……」


 冷静に考える事ができない。


「そうか? あまり気に病むなよ2年生」


 依然として淡々と話す会長の言葉に返す事も出来ず、俺達は生徒会室を出た。扉を閉めようとした時、煌士も出てきた。


「レン、平気かい?」

「……」

「レンってばっ! 煌士が言ってるよっ!」


 分かってる。頭の中がぐちゃぐちゃすぎて何も言えないんだ。


「ゴメン。ちょっと考える……」

「レンは良い奴だから心配だよ。あまり1人で考え込まないでね?」

「……」


 心配そうな顔の煌士は生徒会室の中に戻っていった。俺と美月はゆっくりとしたペースで階段を降り始めた。……ゆっくりじゃないと、俺は歩けなくなっていた。

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