II. Change

2. Bullying Eradication Committee

 俺の我慢もそろそろ限界になっていた。BECの詳しい説明もなく、1週間以上何もしない状況が続くのはさすがに耐えられない。


 もしかしたら、これも松木戸先輩が俺を試す策略の内かもしれないとも感じる。天の邪鬼として相手の術中にはまるのは不本意だが、敢えて俺は高速タイピング中の先輩に話かけた。


「松木戸先輩。いじめ撲滅の依頼はメールで来るんですか?」


 タイピング音が止まった。パソコン画面から目線を切らずに先輩は答えた。


「1週間と10分15秒」


 タイピング音が再開した。答えになってないし、意味不明だ。


「東雲が自己紹介の後、委員会の活動に関する会話をするまでの時間だ」

「……」

「別に、テメェが悪いって言ってねェぞ?」


 微笑みながら更に付け加えた。いや、遠回しに悪いって言ってるだろ。


「1週間も活動内容を言わねぇで、放っといたからな。東雲の社交性、BECの活動へのモチベーションを測ろうとした」


 試されていた事実に俺はイラッとした。社交性が低くて悪かったな。俺は人見知りなんだよ。


「……そうですか。何もしないで帰るだけの、期待出来ない生徒が入ってきて残念だって言いたいんですね?」

「違ェな。むしろ逆だ」


 少し優しめな口調に変わったが、相変わらずのヤンキー口調だ。


「テメェが2年生ならオレが去年した演説は知ってんだろうし、くだらねェ噂も耳にしてんだろ? 様子を伺うのは当たりめェだ。自分を客観視してBECとしては残念って思ってるトコから、活動に対してはモチベーションがあるとオレは推測した」

「……」


 『テメェ』って、何年振りに人から言われたんだろう。見下されてるような感じがして更にイライラする。


「普通じゃねェ部分を挙げんなら、イライラしてんのに先輩に敬語をちゃんと使うところから、ある程度は礼儀を重んじるヤツだと感じる。だが、もっと楽に喋っていいぞ? あとはオレがいる委員会に入ったのは普通じゃねェかもしれねェな? 色んな噂を聞いてるはずだが、自分の目で松木戸奨がどんな人間か見極めようとしてやがる。そこは普通じゃねェが好感が持てるな」


 先輩がこっちを見てニッと笑い、やっとタイピング音が止まった。もっと強面な人だと思っていたけど、こんなに笑う人だったのか……笑っても恐いけどな。それに捻くれ者の俺は、このくらいのやり取りで分かったような言い方をされると余計否定したくなる。


「……それで、俺を分かったつもりですか?」

「んな訳ねェよ。そういう一面が見れたって話だ」

「俺は自分の意思でこの委員会を選びました。自らいじめに関わろうとするのは、普通じゃないかもしれません。でも、普通が嫌いな俺には本望です。みんなと同じ行動をするのも、誰かが敷いたレールに乗っているのも嫌いです。天の邪鬼ですから」


 気を使うのも疲れてきた。金髪ヤンキー擬きの真意を探るのも面倒になったので、思ってる事を全部言ってやる事にする。


「1週間経ったので、この際はっきり言います。BECを設立しなければいけない程、諏訪園高校にいじめが存在するとは思ってません。いじめはなくさないといけないと思ってこの委員会に入ったのに、LL教室にただいるだけじゃないですか? もっと校内パトロールとか情報収集をするべきだと思います。……そして、俺はアンタのいじめ撲滅に対する信念みたいなのに惹かれてBECに入りましたが、人として信用するには至ってません」


 1週間溜まっていた事を言ってやった。所詮高校の委員会だ。これくらいで関係が壊れるくらいならBECを辞めるだけだし、そもそも壊す程の関係すら出来てない。


「ハハハッ、本当にはっきり言ったな! そりゃ信用できねェよな。……言いてェのはそれだけか?」


 松木戸先輩の眼光に威圧された。けど、どうでもいい。俺はこの程度でブレる性格じゃない。


「他はありません」

「分かった。んじゃ、テメェの疑問に答えてやる」


 『テメェの疑問に答えてやる』って、言う必要あるか? 学校の先輩だからまだマシだけど、これ以上無いくらい上から目線な言い方にはイラッとする。


「まず東雲が自己紹介から1週間と10分15秒経って初めの質問だが、いじめ撲滅の依頼はメールでも来るようになっている。各方面の許可を得てBECのサイトを作ってあって、掲示板に依頼を書いたり情報提供を受ける。掲示板に書きたくねェ奴はメールアドレスを載せてっから、そこにメールする」


 いちいち『1週間と10分15秒』って付けるなよ。


「俺はBECのサイトなんて知りません。全校生徒が知っているべきじゃないですか?」

「誰でも簡単にアクセス出来ちまうと、情報の信憑性が弱まる。あくまで諏訪高の生徒でパスワードがねーとアクセス出来ねーようにしてある。サイトの公表を全校生徒にするつもりは、今はねェな」

「それなら、どうやってアドレスとパスワードを知るんですか? いじめられてる生徒が使えないと意味がないと思います」

「4つ方法がある。直接このLL教室に依頼しに来る。BECか生徒会のメンバー、教師に直接教わる。インフルエンザとかの病気以外の理由で欠席を1週間続けるとBECの委員長、つまりオレの判断で自宅宛にハガキを送る」

「……」


 意外に親切な対応に俺が関心していると、先輩はホワイトボードに黒水性ペンで書き始めながら続けた。


「んで4つ目は諏訪園高校の教師か生徒会、BECになる事だな。つぅ訳で東雲にも、サイトのアドレスとパスワードを教える」

「そりゃどうも。やっと一員ってことですか」


 先輩の偉そうな言い方(実際自分より年上で偉いけど)に怒りを覚えつつ、スマホでログインしてみた。確かに諏訪園高校BECのサイトがあった。


「あとの疑問は、いじめがそんなにあるはずじゃないっつぅのと、パトロールがいるかって話か? 情報収集についてはサイトの存在で解決したよな?」

「いえ、SNSの情報だけだと十分ではないと思います。都合の良い話しか書かなかったり、直接本人と喋ってみないと分からない内容だって多い筈です」


 先輩の表情が、なぜか少し緩んだ気がした。


「そりゃパトロールの必要性と結びつくな。東雲が言うように、直接本人と喋んのが最良の情報収集だ。人が持つ真実や本音は、声に出したり文字にする以外の部分にある」


 全てがそうだと言えないけど、一理はある。自分の知らない人間に真実や本音を語るのは難しい。更に先輩は続けた。


「パトロールの必要性についての答えは、BECの拠点がLL教室だからだ。前の方のカーテンを閉めろ」


 いつもの俺なら『断る』と言いたいところだが、話が進まなそうだったのでやめた。先輩の頼み方にイライラしつつも、俺は西日の強くなった教室前方半分の窓の黒いカーテンを閉めた。


 その間先輩は教卓側の白いスクリーンを天井から出し、自分のノートパソコンをプロジェクターに繋いだ。


「準備はいいか? 点けるぞ」


 映し出されたのは、プロジェクターに16分割された、校内あらゆる場所の様子だった。防犯カメラみたいな物だろうか。


「先生らとPTAの許可を得て設置した。『犯罪を防ぐ防犯カメラ』っつーより、いじめを防ぐカメラだから防Bぼうビーカメラだな」


 ネーミングセンス悪っ。


「名前はオレが勝手に今付けたが」

「……たった16ヶ所で網羅出来てるんですか?」

「正確には32ヶ所だ」


 先輩は画面を切り替えるともう16ヶ所表示された。そして同じ画面を、俺が座る席のパソコンにも映し出してみせた。LL教室内のパソコンは遠隔で電源入れられる事実は初めて知った。


「俺が言ってるのは数の問題というより、精度の問題というか――」

「撮ってる場所をよく見てみろ」


 男女トイレ入り口付近、屋上、教室のベランダ、体育館裏、体育館倉庫の中、部室棟各部屋、各階廊下の掃除用具入れ前など……理解した。


「人目があまりない、いじめが起こりやすい場所にピンポイントで設置しているんですね?」

「そうだ。これだけじゃ足りねェとも思うが、無ェよりマシだ。いちいちパトロールしなくていいだろ? ちなみにこの映像は、LL教室でじゃねェと見れねェように厳重に管理してる」


 許可を取っているとはいえ、生徒が知らない所にカメラを設置しているのは良いとは思えなかった。それに根本的な疑問が残っている。


「ここまでカメラを付けなくてはいけない程、いじめがあるとは思いません。俺は中学や高校で過ごして、1度もいじめを見たことがないです。先輩はその経験が多いとしても、毎日LL教室に集まる必要はないと思います」


 先輩はプロジェクターと俺の席のカメラ映像を消して、教卓側のカーテンを開けながら口をゆっくりと開いた。


「……オレはいじめを何度も見てきた。BECが設立する前から関わってきた」


 俺も教室の真ん中側から順にカーテンを開けた。2人でカーテンを全て開け終えると、オレンジ色の光が再び教室に入ってきて、窓側の机とパソコンがオレンジ色になった。教卓に戻りながら松木戸先輩が続けた。


「テメェの疑問を解くんなら、どれがいじめで、どこまでが排除すべき問題で、どれが事実無根かっつう話をしねェとな……」


 先輩は立ったまま生徒の座席側から教卓に寄りかかり、俺をじっと見つめだした。……再び訪れた沈黙。ここまで偉そうに語っていた先輩が、突然沈黙した。


 そして俺を見極めるかのような目で見てくる。その瞳はとても真っ直ぐで、睨んでる訳でもなく力強い。友達同士であれば『お前、ついにそういう趣味になったか!』とか言って茶化すところだけど、そんな仲の良い関係じゃない。


「……」


 教室内に男2人きりで見つめ合っているが大丈夫か?……今まで良く見てなかったから気付かなかったが、先輩は目付きが悪いがなかなかのイケメンだと気付いた。今の教室の光加減であれば雑誌の表紙とかに載るほど、かなりの良い絵になると思う――って、俺もそんな趣味になったのか? いや、断固として違う! というか、雑誌に載るならその金髪何とかしやがれ!……載らないか。


 そんなくだらない思考をしていると、先輩が真っ直ぐ俺を見たまま口を開いた。


「東雲。テメーはさっき、『いじめはなくさないといけないと思ってこの委員会に入った』つったな? その言葉、信じていいか?」

「もちろんです。いじめを肯定する理由が俺にはありません。解決の力になれるなら、喜んで引き受けます」

「『自らいじめに関わろうとするのは、普通じゃないかもしれません』とも言ったな? いじめに関わると、テメェの世界観が普通じゃなくなっちまうかもしれねェ。場合によっちゃとんでもない苦痛を受ける可能性もある。それでも、絶対後悔しないって言えるのか?」

「当然です。何度も言いますが、俺は普通が嫌いなんです。誰も経験できてないことができるなんて、人としての格が上がったみたいで格好良いじゃないですか? 人より後悔が多くなるとしても、それだけ成長できるチャンスとも言えますしね。もちろん、ただの遊び半分でBECに入った訳でもありません。いじめがたくさん存在するなら、全力で撲滅したいのは捻くれるべきじゃないですから」


 俺の返事を聞き終えた先輩は、ようやくガラの悪い視線を逸らしてくれた。


「……分かった。人の負の気持ちに触れんのは想像以上に辛いこともあるだろう。――覚悟しとけ。格好良いかはテメェで勝手に判断しろ」


 辛さくらい想定してなければ、そもそもBECに入らないだろうに。


「回答の続きだ。いじめの線引きについてだが、どんな案件ならBECが介入すんのか挙げてみろ」

「えーっと、例えば集団で暴力行為をしていたり、お金を盗られたりですか? 後は不登校の生徒がいたりとか」

「他には?」

「……今思い付くのはそれくらいです」

「……」


 沈黙されても困る。他にもありそうだけど、すぐに思い付かない。


「マジで褒め言葉なんだけどよ――」


 先輩は言葉を選ぶように喋りだした。


「東雲は今のいじめに対する純粋さを、これから何があっても絶対忘れんな。今分かっている知識、その感覚をだ。今のBECにはねー感覚だからな」

「は?……はぁ」


 何だよそれ? バカにしてるのか? 先輩はペットボトルの水を一口含んで続けた。


「テメェが言ういじめも確かにいじめだ。もし見つけりゃすぐに介入する。けど、その例じゃBEC的には介入が遅すぎる」

「遅すぎるっていうことは、もっと前から未然に防ぐんですか? 暴行されそうな人やお金を盗られそうな人をマークしたりとか」

「それでも遅ェな」


 まだって、未来予知しろとか言うんじゃないだろうな?


「正しくは、いじめられそうな生徒やいじめそうな生徒を前もって把握する作業からBECの活動は始まる」

「本気で言ってるんですか? 諏訪高は1クラス約30人で1学年に4クラス、つまり30×4×3で360人くらいの生徒がいます。全員を把握するなんて無理ですよ」

「……東雲練。諏訪園高校2年生。5人家族で兄と妹がいる。兄は諏訪園高校卒業生で、生徒会長も歴任した東雲がく。真面目で立派な生徒だった」


 突然人の個人情報をペラペラと。しかも当たってるし。


「どうやって調べたんですか?」

「学さんから聞いた。去年の文化祭で会った時にな。『弟をよろしく』って、言ってたな」


 ガクにい、どこまで真面目なんだよ。


「弟の練は黒髪で一見真面目そうだが、捻くれぶった言動を好む。自分でも天の邪鬼の捻くれ者と豪語しているが、根は優しい。小・中学校と身長、体重、学力、運動はほぼ平均で、小学校からやっていたサッカーは中学からやってない。そのポテンシャルでも友人の影響で受験勉強を効率的に行い、諏訪園高校に合格する。昔から人見知りで人と直接関わんのは苦手だったが、1歩引いて人を観察すんのは得意。頼れる親友の影響もあって最近は初対面の人でもある程度関われるように成長。それと――」

「分かりました! もう結構です!」


 自分の情報をずっと言われるのは耐え切れない……ほぼ平均で悪かったな。だから俺は普通じゃない自分を目指してんだよ。


「もういいか? まだまだあるぞ?」

「聞きたくないですよ。全校生徒をそこまで知れたら良いですね!」

「そうだな、2年生以上はほぼ把握した。さすがに新1年の情報は少ねェが、ある程度は分かってきた」


 俺の皮肉に、まともな返答をされた。


「ちゃんと生徒の情報が集まったとしても、人間関係は常に変化しますよね? それも含めてずっと把握し続けるのは無理だと思います」

「……どいつもこいつも、何でやってもねェのに諦めんだろうな?」


 先輩は呟くように言った。聞こえづらかったが聞き取れた。


「BECのEはEradicationエラディケーション。根絶、撲滅っつう意味の名詞だ。いじめを植物に例えんなら、根っこの段階で絶やす。その為にオレはできることを何でもする」

「カメラの設置やSNSで出来るようになってきて、不可能ではないと言いたいんですか?」

「BEC設立当初は不可能だった。けど今は出来るようになってきた。もっとできるとオレは確信してる。それに加えて、テメェが言うようにカメラやSNS以外の方法とかもっと可能性がある。別に今のやり方でなくちゃいけねェとは思ってねェし、効率良く情報を得る為に今の方法を取ってるだけだ」

「BECはどういう基準でいじめの根っこを認識すればいいんですか? 誰かの悪口を言う人間がいたとか、暴力的なアニメやゲームの話題で盛り上がっていたとか、誰かを避けているとか、俺達はそんなのをいちいち気にしなくちゃならないんですか?」

「難しく考える必要はねェさ。1番BECに必要なのは、常に全クラスの人間関係を掌握に向けできることを続けるだけだ。簡単に言えばいじめの種の位置、根っこが生えてきたのを見逃さなきゃいい。オレはいじめの種を英語でSeedシード Ofオブ Bullyingブリング、『SOBソブ』って呼んでる。BECの活動において、SOBの位置と成長を常に把握すんのが最も重要な仕事だ」

「つまり、早めにそのSOBを潰すのがいじめ撲滅に繋がると?」

「潰すタイミングは、早けりゃ良い訳でもねェ。BECが直接介入するタイミングは植えてるSOBをただ掘り起こすんじゃなく、SOBの位置を正確に把握して芽が出ると判断した時点で適切な方法で刈り取る。例えば誰でも悪口を言ったりすっけど、それがいじめになんのかは分かんねェだろ?」


 喉が渇いた俺は、家から持ってきた直飲み式の水筒に入った麦茶を一口飲んだ。


「先輩の言いたいことは分かりました。でも、そこまで把握するとしたら常に人を疑って見なくちゃいけないですよね? それって苦じゃないですか?」

「苦じゃねェな。最善の策だし、オレは人を疑うのが得意だ。全人類の心なんて一生かかっても完全に分かんねェが、知ろうとして損することはねェはずだろ? 人間関係のどんな問題においても、根本的には個人の心が基盤になってる。そこを知る努力をしねェで、いじめ撲滅なんて出来ねェんだよ」


 ――人の心を知りたい。それは同感だ。相手の気持ちが分かれば、自分がどうするべきか見えることもある。集団の中において、人の気持ちを考えずにいるほど愚かなことはない。でも『全校生徒を把握する』とか常軌を逸していて好感が持てるけど、本当に可能なのだろうか?


「……今日話してみて、去年の松木戸先輩がした演説の真意が少し分かった気がします。ですがまだ、俺はアンタを信用できません」


 はっきり口に出して言った。元人見知りで天の邪鬼な俺は、ちゃんと絡み始めて数分の人間に全幅の信頼を寄せることは出来ない。


「それでいいぜ。BECにいんなら、この程度で人を信用すんじゃねェよ」


 その通りかもしれない。声に出して認めないけど。


「もう1つ質問してもいいですか?」

「なんだ?」

「松木戸先輩は、どうしていじめを無くそうとしているんですか?」


 教室に入る夕日が傾く中、先輩は答える。


「いじめはオレ達生徒の問題だ。オレ達自身で解決しなきゃならねェ。大人に解決してもらっても根本的な解決にならねェ。特に、当事者が目を逸らしたらダメだ」


 まるで、過去に経験があったような言い方だった。


「東雲のように、いじめはあまりねェって信じる人間は多い。いじめに関わる事なく大人になる人もいる。そのせいかもしれねェが、ほとんどの人間がいじめの存在だけを問題視してる事が多い。ニュースで学生が自殺する報道があったりすっと、死んだ理由にいじめがあるかないかでメディアが騒ぎやがる」


 松木戸先輩は窓枠に右手を掛けて外の部活の様子を見ながら、ペットボトルの水をもう一口飲んだ。


「だがオレは、根本的に騒ぐ論点が違うと考えている。大人同士でも職場でいじめが存在してる例があんなら、精神的に不安定な年齢である学生達が生活を共にする時点で、大小含めてのSOBの存在ぐらい想像できるはずだ。なのに、分かってねェ人間が多過ぎる。いじめが在るか無いかじゃねェ、どこにでも在るいじめとどう向き合うかが本当の問題だ。教師や親、周りの生徒がその認識を持って目を光らせておかねェと、撲滅なんてできる訳ねェんだよ」

「それでBECができたんですね?」

「そうだ。いじめられてる生徒1人で解決しようとすんのはリスクがある。かと言って、親や教師とか教育委員会が見れる範囲には限度がある。そこで生徒と立場が近い、生徒によって成り立つBECが必要だ」

「……ん?」


 ふと俺は教室右側後ろの方から、誰かが物凄い勢いで廊下を走る音が近づいて来るのに気が付いた。――次の瞬間、俺が振り返ると教室内にとんでもない音が響いた!


『ドガァァァァァァァァン!!』


 聞いた経験のない程の轟音。俺の乏しい知識を駆使して例えるなら、まるで大砲が発射されたかのような、それとも目の前に隕石が落ちたかとも言える音が、高校の1教室で鳴り響いた。音の正体は教室後ろ側の扉が何かにぶつかって外れ、倒された音だった。


「レン! 依頼に来たよっ☆」


 そう言って倒した扉の上に得意げに乗った女子――白シャツの上に制服の紺のブレザーと赤縞ネクタイを着用、赤チェック柄のスカートを履いた生徒は、俺の幼馴染でクラスメイトの新倉にいくら美月みつきだった。

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