短編
里弥季秋
第1話 姫金魚草
黒く重い雲から雨が降り続いている。
昨日から降り出した雨はいまだ止む気配をみせない。
両親は親戚の家に行き、明日にならなければ帰らない。
妹は友達の家にお泊りでいない。
いま家には私一人。
電気も付けず、自室で座り込む私のことを気にする人は誰もいなかった。
それが今の私には救いだった。
止まることのない涙と嗚咽に、制服のスカートが濡れていく。
泣いても泣いても止まらない涙は枯れることを知らない。
好きなの。 ずっと分からないフリをしていた。 知らないと。
一緒にいるのが当たり前で、これからもずっとそうなんだって。
でも違った。
離れてから思いの大きさに気づいても遅くて、どうしようもなくて。
今さらこの思いを伝えたって迷惑なだけで、今の私にできるのは涙が枯れるまで泣くことだけだった――。
幼馴染のアイツは生まれたころから一緒で、幼稚園の頃に結婚の約束をした。 もちろん子供のままごとの様なもので今も約束が継続されているなんて思ってはいないけど。
それでも、そうなればいいと思ってた。 少女漫画のヒロインのようなことを考えて夢見ていた。 親友は気づいているかもしれないが、誰にも話したことはない私の秘かな恋心。
周りにこの思いを出すのは恥ずかしくて照れくさくて、そんな気はないと態度では示していた。
アイツは彼女をつくった。 告白したのはアイツからで、恋人との仲は凄くよさそうだった。 嬉しさを抑えきれない表情で私に報告してきたアイツを、心の中では恨んでいた。 幸せそうなアイツを見るたびに心が悲鳴を上げているようで辛かった。
そんな日を過ごし迎えた今日はアイツの誕生日で毎年の習慣で祝いに行こうとした。 目的は達成できなかった。 アイツの家に入っていく彼女を見てしまったから。 嬉しそうに迎い入れるアイツの表情は私の見たことのないもので、濡れるのも構わず家へと走った。
家につけば自分の部屋に駆け込んだ。 そのまま座り込み私は泣き続けている。
涙は枯れず、この恋もまだ終わることがなかった――。
姫金魚草 ≪この恋に気づいて≫
短編 里弥季秋 @owl_flu_orite
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