32話 正義でありたい
ジーマのフォースが見えない!?
「まさか…!?」
ジーマが、死んだ…!?
「ジーマァァアーー!!!」
私は喉が潰れるほど叫んだ。そうでもしないと気が保てそうになくて…!
だが、私の心配など必要なかったのか、彼は私の叫び声に反応するように苦しそうな呻き声を発しながらゆっくりとフラフラとした足つきで立ち上がった。
「ジーマ…!よかった」
安堵の溜息を吐きながら、私はそう呟いた。
私は何度彼に気持ちを揺さぶられなくてはならないのか。さっきから気持ちの右往左往が激しいぞ。
……って、今はそんな状況ではないな。とにかく彼を助けないと!
私が彼のもとへ向かおうとしたそのとき、
──待てよ…?
落ち着いてジーマを見てみろ。
ン……ッ!?
「見え、ない…?」
彼は生きてて、立ち上がったのにも関わらず、未だフォースが見えないぞ!
やっぱりフォースが弱まっていたのはジーマだったんだ!
ここにはジョセフとやらがいない筈なのに何故…!
……いや、違うのかもしれない。
もしかしてだが、もしかして…。
ってあるわけないか…。特定の人物に近づいたってだけでフォースが弱まるってだけでもあり得ないのに、そんなことあるわけないのだ。 *29話
この前こんなことを思った。そんなことある訳ない。でも、その可能性が少しでもあるなら、今ここで試せばいいのだ。
そう、
ジーマにライトフォースがあるかどうかを!
「守らなければ、奴から…!」
ジーマが血まみれの姿でゆっくりとジジに接近する。あの親子のために、まだ戦う気なのか!?よし!
「ジーマ!」
私がジーマに呼びかけると、彼はこちらにグロテスクな顔を見せた。
「こいつを受け取れェーー!」
そう叫ぶと、私はジーマに向かって兵士用のトマホークを投げた。するとジーマはそれをキャッチして、トマホークをまじまじと見つめた。
「そいつにフォースを込めろー!」
「で、でもフォースを込めたら…」
「うるさい!この私を…
師匠を信じろォオ!!」
私は必死に彼の魂へ声をぶつけた。その声は確かに彼のハートに届いたらしく、彼は私のいう通りに兵士用トマホークへフォースを込めた。
── 一か八かだ。頼む!
こ、これは兵士用のトマホークじゃないか!エメルさんは何を考えて…!
「そいつにフォースを込めろー!」
ハアッ!?そんなことしたら逆効果じゃないか!
「で、でもフォースを込めたら…」
「うるさい!この私を…師匠を信じろォオ!!」
ッ!!わ、わかったよ!
俺はトマホークを握り直し、フォースを込めるため意識を集中した。するとある違和感を覚えた。
──え…!?
いつもは握っているだけでもダークフォースを吸収されてしまうのに、今は吸収されない!?
おそらく握っただけでも吸収されていた理由は、昨日エメルさんが話した通り、溢れ出たダークフォースがライトストーンに吸収されていたからだと思う。
だが今日は違う!今日は!
「ハッ!?」
俺を包み込むようにあたたかい空気が流れる。
──守りたい。
その感情が、無意識のうちに身体のうちから溢れ出る。人を傷つけ、それを己の利益としていた俺にとっては、守りたいという感情は非常に珍しい。
「ジョセフやエリーと一緒にいるみたいだ。この感じ、この落ち着いた空気の流れ!」
だんだん心臓の鼓動が早くなり、体温が上がる。今目の前の状況を信じようとしながらも、信じられないと否定する気持ち。
今まで守りたいという気持ちは、俺を大切にしてくれた人々にしか湧かない感情であった。「その人が側にいるから、守りたい。生きていて欲しい」、と。
だが今ある現実は違う。俺が、俺自身で、何の関係もない親子を守りたいと望んでいる。誰かに触発されなければ湧かない感情が、自分自身で湧いて出たのだ。
──今までの俺とは違う!?今までの……!
ふ、フォースを込める!
すると、感じたことのないような衝撃が血液を伝わって全身に行き届き、熱い想いが俺を震えあがらせた。
そしてビリビリと筋肉をリズムよく揺らし続け、腕や脚が若干太くなった気がする。
こいつは…!
ごめんなジーマ。
私、お前のこと疑ってた。そんな自分が恥ずかしいよ。
ジーマ、これはお前が起こした変化だ。上手くやってみせろよ。
お前は私の、自慢の弟子だよ。
「マジかよ…!つけられた傷の痛みが全く感じない!」
それどころか、力がみなぎってくる!もしかして俺は今、
今、ライトフォースをつかえているのか…!?
「そう、いう、ことだよ…!ジーマ!」
エメルさんが感激したように言った。
これが、俺なのか!?
俺はつい興奮してしまい、高ぶる気持ちを抑えきれなかった。
「嘘だ…!?」
ジジが唖然とした様子でそう呟いた。
「ジジ!覚悟しな!ここからが後半戦だぜッ!」
かつてない自信が俺を支配するように全身に広がる。
──ノーガ。俺、変われたよ!
「ぬぅ、ぬかしおるわッ!」
ジジがさっき見たく思い切り突進してくる。だが、その姿はさっきのように力強く映らなく、俺は余裕をかまして彼を待った。
彼は攻撃の間合いに入ると、鬼の形相をして雄叫びをあげた。
「ジーマ!いくらライトフォースによって強くなったとはいえ、油断したら今度こそ殺されちまうぞ!」
エメルさんの忠告が聞こえる。そんなことわかっているさ。そんなことぐらいさ?
「喰らえやァァア!」
ジジが俺をめがけて拳で突いてくる。俺はその突きを直前で横にずれることで避けた。
「なっ…」
「油断したな。どうやら彼女の言葉は、お前の方がお似合いみたいだぜ?」
「チィッ!」
ジジは避けられたその突きの軌道を変えてもう一度俺に攻撃しようと、腕を横にしならせ勢いをつけた。
だが時は既に遅く、彼が腕を横に振った頃には、俺は彼の右脚を切っていた。
「ぬおぉぉお!?」
「勝った…ッ?」
「舐めるなぁ!」
ジジは攻撃に大事な脚を怪我したのにも関わらず、退がることなくそのままを突きを繰り返して、なんとか俺に攻撃しようとしていた。
さっきの構図と全く真逆である。だがそんなことは気にしなかった。
「軸足がぶれぶれだな。もう終わりだ」
俺は呟くように静かな感じでそう言うと、我武者羅攻撃の一筋を受け流して態勢を崩した。
「斬る!」
俺はジジの首目掛けて、トマホークを横に振った。が、彼は咄嗟に態勢を立て直し、俺の手首を掴むことでかろうじて防いだ。そこからはお互い身を寄せ合い、肩と肩をぶつけてお互いの力を競り合う。
ジジの体型は伊達ではなく、凄まじい力で俺の身体を押してゆく。
──クッ!いくらパワーアップしたとはいえ、まだ力では敵わんか…!
「チィイ…!中々しぶとい奴ッ!」
「こんなことになるなら…!先に貴様を殺すべきだった!!」
ジジがさらに体重を使って俺のトマホークをグイグイ押してくる。
「学習したか?無駄だけどなぁッ!」
俺はさっきジジにつけた切り傷を、力で押されながらも脚で蹴った。
「グォオ!?」
驚きと悲鳴が混ざったような叫び声をあげると、俺の手首を放してジジは前屈みになった。
「オラァ!」
その隙に俺はトマホークの鋭い刃で彼の額をぱっくりと裂いた。すると、裂け目から多量の血液が流血し、彼の目に入っていった。
「あ、ああ!見えん!前が!」
「今ァ!」
俺は相手が目をつぶされて大事をとって戸惑っている間に後ろに回り込んで、今度こそ首を狙った。
しかし、ジジはまだ諦めず、後ろ蹴りで俺のトマホークを蹴りあげ、背後にふっ飛ばした。
そのときのジジの顔にあるのは、少しばかりの安堵の表情。
恐らく鎮痛作用がなくなり、開いた傷の痛みが邪魔をして俺は攻撃できないと思ったのだろう。
だが、
「残念。今のは兵士用のトマホークじゃないぜ?」
「ダミー!?い、一体!」
「あれは俺が貴様にボコられているときに使っていた、ライトストーンレスのトマホークだよ!」
振り下ろしたトマホークが彼の首に接触すると、彼は瞳を真っ赤にして叫んだ。
「ウ゛ウ゛ウ゛ウ゛ウ゛ウ゛ッ!!!ウ゛ウ゛ウ゛ッ!!こんな!!こんなとこ…」
ブシャァア!
ジジの断末魔は響くことなくその場で消えた。
切断された首の箇所から、噴水のように血が噴きでる。
「終わった…!」
俺は額から吹き出た汗を腕で拭うと、やり遂げた達成感からそんな声が漏れた。
──いや、そんなことより!
「エメルさん!」
俺は笑顔に満ち溢れた顔を彼女に向かせた。
「なんて奴だ…!怪我してるあの状況から、ジジをやっつけるとは!」
エメルさんは俺のところに駆けつけると、肩をガッシリ掴んだ。
「ライトフォース…」
「今でも信じられない。あの俺が、ライトフォースを扱えるなんて」
「とにかくだ。話はあとでゆっくり話そう?な?」
ひとときの感激ムードに浸った私達は、そのあとセナル教信者達の遺体を埋葬した。
……これでも数十分前までは生きていた人間だし、彼らはただ、幸せを求めていただけなんだ。やり方を間違えていただけで。
そしてジーマは私よりも、ずっと丁寧に埋葬していた。私は彼が何を思ったのか知らないが、良いことじゃないか、全く。
それが終わると、あの親子を隠れ家まで連れて行き、私達の今日の仕事は終了した。
「どうだった?」
「…疲れました。ぶっちゃけ、数日も続けられる自信がありませんよ」
ジーマは苦笑を浮かべながらそう言った。
「あと6日だっけ?」
「はい。それぐらいには帰っておきたいです」
「その数字、この仕事から逃げるためなわけではなかろう?」
「当たり前でしょう!?失礼ですね!」
「ハハハッ…!スマンスマン」
私は急に興奮したジーマを落ち着かせると、閃くように浮かんだ疑問をジーマにぶつけた。
「それで…ライトフォースは?」
「それが…、さっきからどんどん減少してて…。あっ…」
「どうした?」
「ライトフォースが底をつきました…。って!痛い痛い痛いッ!!!」
「!?!?!?!?!?ど、どうした!」
突然真っ青な顔をして腹を押さえ出したので、私はパニックに近い状態になった。
さらにジーマはそれだけで止まらず、膝から崩れて地面に倒れた。
「お、おい!ジーマ!しっかりしろ!」
「ッ!ライトフォースによる鎮痛作用がッ!きれたぁ」
「え?」
な、なんだそういうことか。驚かしやがって…。
私はホッと安心から胸をなでおろす。しかし、パニックの第2波はものの数秒できた。
「ええ!?ライトフォースが底をつきたってどういうこと!?」
「な、なんというかッ。エメルさん風で、言うと!アアッ!容器ごと、無くなってく感じです!」
痛みに耐えながら、ジーマは私に説明する。
た、確かに、今私の目には彼のダークフォースが見える…!だが、具体的に何が起こっているかは今の私では理解ができない!
ジーマの身体の仕組みってどうなってんだよ!っとツッコミたい。
だけど、今はこのままにしといてやるか。
「エメルさん!どうにかして!」
「すまん!すまん!」
1時間前、エメルさんとイリーナに運ばれて俺は布地の上に寝かせられると、腹の切り傷をアルコールで消毒され包帯をまかれた。
そして現在、
「いやー、お騒がせしました」
俺が気恥かしげにエメルさんに謝ると、エメルさんは顔に苦笑を浮かべた。
「痛みは落ち着いたか?」
「ええ、そりゃ。おかげさまで」
「食事の時間なんだが…、歩けるかい?」
「なんとか歩けます」
俺は仰向けの状態から立ち上がってみせると、彼女と一緒に食堂へ向かった。といっても、食堂といえるほど大きくはないんだが。
そこへ向かう途中、俺はある質問をした。
「消毒する際お酒を使ってましたけど、ここにお酒なんてあるんです?」
「あるさ。私用のだが、大量にね。いい酒なんでめでたい時にしか飲まないんだ。父がたくさん食料と共に持ってきてくれるんだよ。今は状況が状況のため、父は来れていないがね」
「へ〜…」
直接ここから街へ出て、買いにいってるわけではないんだな。まあ、昨日イリーナが外へ出てたことだし、中にはそういうのもあるだろうが…。
「でもまあ、ジジを倒したことで確実にセナル教の士気は下がるだろうし!状況が良い方に向いてくれたのはお前のおかげだよ。……もしお前がここに来なかったら、今頃私は死んでいるかもしれない」
「や、やめてくださいよ。ここに俺はいますし、ジジは倒せたんですから」
「…そうだな!ところでジーマ。そんな質問して、酒は飲めるのかい?」
「酒は得意じゃないんです。すぐ酔っちゃって…」
「困ったなぁ〜。これから質問責めしようと思ってたのに、酒を飲まないんじゃあ聞きたいことも聞けないじゃないか」
「聞きたいことって?」
「フォースのこと。正直今聞きたいくらいだが、まずは食事したいだろ?」
「あー…」
フォースについては色々謎が多過ぎて考察に頭を使うため、疲れている身体にはこたえるのだ。
「…大丈夫!フォースについての色々な考察はここへ帰る途中や、君の治療中にしていたから、君は私がする小さな質問にちょっと答えてくれればそれでいい」
「ほんとですか?」
「疑うのかい…?」
「…わかりました。質問責めに付き合ってあげますよ」
面倒だが、俺のフォースについて知るいい機会なんでな。…俺のフォースには、ちょっと謎が多すぎる。
自分の姿を変身させてしまうほど強力なダークフォースに、かと言ってなぜか突然姿を現すライトフォース。
ジョセフのフォースが、ウォーリーの事件以降見えなくなったという謎もまだ完全に解決した訳ではないし…。
それに俺はここで正義を学ぶために来たんだし。面倒くさがってはならんよなぁ。
俺たちは他の避難者達とはテーブルを離して、2人だけで話せる環境を作った。
その状態でしばらくエメルさんと何気ない話をしていると、今夜のディナーが出された。
見ると、昨日より量が多い。何故?
「あのー…。今夜は量が多いんですね?」
「うん。今日は特別に許可したんだよ。華やかではないが、祝勝パーティーとしてね。それにセナル教の動きはジジを倒したことでこれから少なくなっていくはずだから、父も食料を持ってきやすくなるんじゃないかな?」
──父親……か。
子供の為に苦労してくれる親がいるなんてエメルさんは幸せ者だな。
しかもエメルさんは28歳だぜ!?世話を焼くっつっても程が過ぎるんじゃないか?
隠れ家へ帰る途中にエメルさんが言ってたんだけど、どうやら彼女、職業はヒーローらしい(つまり無職)。
いくら社会的弱者を救う為のこととはいえ、その歳でヒーローを名乗るのは痛過ぎるんじゃないか(この上なく失礼ではあるが!)?
…ここを出る時、兵士にでも誘ってみるか。彼女のライトフォースなら、ここだけにとどまらず沢山の人々を救えそうだ。兵士用武器の所持も認められる訳だし。
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