29話 フォース
〜今回から少しややこしくなります〜
今までは、
ジーマ→ジョセフ→ジーマ…って感じでしたがこれから暫く、
ジーマ→ジョセフ→エメル→ジーマ…という感じになります。
因みに今まで、行を3行空けたら主人公チェンジでしたが、ジーマの次に6行空いたら、ジョセフを飛ばしていきなりエメルになります。
この説明をスルーしても途中で気づくとは思いますが、念のため知っておいてください。
3行後本編です。
「俺にはもともと、暮らしていた先住民の集落があったんです。でもそこは、独立戦争に利用する土地を確保するために焼かれてしまって…。白人の捨て子だった俺を我が子のように育ててくれた皆は、俺の目の前で死んでいきました。そうして、復讐心に駆られた俺は、我を忘れてそこに居座る白人達を皆殺しにしてしまったんです。思えばそこからです。こんな風になったのは」
「随分と悲劇的だな…」
「そうでないと、こんなふうにはなれんでしょ?」
「確かにな…。君のダークフォースが異常なほど強いのはそのためか」
「はい。それからですかね。人の死になんの関心も持てなくなったのは」
「そりゃ邪悪だ。ダークフォースが強いのも頷ける…」
エメルというこの土地のヒーローの女性は、俺の話を聞いて苦笑した。
「笑うところじゃないっすよ?不謹慎だな」
「すまん、すまん。で、どうだったっけ?」
「だから、俺にだって色々な理由はあるんです。でも、このままではいけないともきちんと思ってるんです!だから、俺はあなたのもとで正義とは何かを学び、正義に生きたい。それだけです」
「ふーん。でもそれは1番の願いではないだろ?兵士だからな」
「え!?わかるんすか!?」
「ハハハ。でも、君が嘘を言ってるようには見えなかった。そう思ってることも事実なんだろ?」
「そりゃあ、ハイ」
「弟子入りさせてくれと?」
「まあ、そうっすね」
それを聞いて、うーむと頭を抱えながら、エメルさんは必死に何かを考えていた。
ちなみに俺がハンターであることは彼女に言っていない。というか、俺をハンターだと知っている人間などいない。…疑ってる人間ならいるがな。
しかし見た所彼女、すごい洞察力の持ち主だ。ハンターだと気づかれないように注意しないとな。
まあそんなギリギリな男だな俺は。そんなギリギリの男が必死に考えだした弟子入りするための言い分…いけるか?
「…しかしね、これでも私はヒーローを名乗る身だ。例えどんな理由があったとしても邪悪な存在を許すことは間違いなのかもしれない」
「………」
「でも、私は殺人自体を悪だと考えていない。現に私も、人を救うために悪を殺したこともある。戦場では、他人より多くの人間を殺した者が英雄になる。要は、その用途さ。
君は復讐のために殺人を利用した。それは許されざる行為だが、理由もわからなくない。そして、君は初対面の女性を命懸けで救った男だ。信じてもいいかもしれない。そうした理由だって分からなくもないし。…過去を気にし過ぎるなんて、私は好きじゃないからな」
「おお!」
「ただし、条件が!」
「ええ…」
さっきからテンションが上がったり下がったりと忙しいな!
「その条件ってのは…」
「私に覚悟を示せ」
「覚悟…ですか?」
「そうだ。もう殺人を悪用しないという覚悟が、君にあるのかを知りたい」
悪用しないか…。そのくらいの覚悟がなければ変われないのか。
大丈夫、きっと出来るさ。変わるためにここに来た。変わることを恐れていては、俺はジョセフに負けてしまう。
俺にしてはおかしなことだが、死んで悲しむ人間がいてくれるから、俺は生きたいと思った。もし俺が孤独な奴で、今と同じような状況に立たされていたとしたら、俺は10日間のプレッシャーに耐えきれず間違いなく自害している。
だからこれからは、俺を大切にしてくれる人のために生きたい。…今まで殺してきた人間への償いじゃない。つくづく最低だと思うよ。だけど、今はそう思える。
「覚悟ならあります。もし、あなたが俺を一度でも危険だと判断したならば、このトマホークで俺を殺してくれて構いません」
そう言うと俺は、兵士用のトマホークをリュックサックから取り出して、彼女に渡した。
「これは兵士用の!?いいのか?」
「出来ます」
「…わかった。弟子入りを許そう」
「…!本当ですか!?」
「でもさあ」
「はい?」
「私のもとで修行したって、ライトフォースが得られるとは限らんよ?」
「飽くまで可能性の話ですからね。でも信じて実行するのみです」
「だな」
…あれ?涙が…。
腕の甲で軽く目を擦ってみると、一粒の雫が付いていた。
「なに泣いてんの?」
「あ、ああ。すみません。俺って結構涙脆いんですよ。…ちょっとした感情の変化で泣いちゃうこともあって…。今回は、無事弟子入り出来たことへの安心からですかね」
「…君だって男だろう?女の前で泣くのは恥ずかしくないのか?」
「俺は男であっても野心家のように強くもないし、かといってインテリのように弱くもない。中間なんですよ。だから多少の涙は勘弁して貰いたいものです」
「ふーん…」
彼女は興味のなさそうな返事をすると、どこかへ向かってスタスタと歩いていってしまった。
…さっきから思ってたことなんだが、割とあっさり弟子入りさせてくれたよな。こんな邪悪な存在だってのに。
なんだか気になるな、彼女の態度。
私は私の後ろ姿を見つめ続けるジーマを横目で見ながら、建物裏に移動した。
──安心して涙を流すのは、まだ早過ぎるな。ジーマ。
ポケットからパンを取り出してドヤ顔でかぶりつく。
ジーマにはああ言ったが、実は私はまだ彼を正式な弟子として認めていない。これからが本番。彼に正義として生きる資格があるのかをみる。
まあ、私にとって初めての弟子になるかもしれん存在だ。半端な奴はごめんだよ。
気になることが二つ。一つはセナル教のこと。
さっきからスリとヤバい奴とイリーナ以外の住人に会っていない。
おさらく、その原因は奴らであろう。
貧民街の面積は年々拡大しており、人数も増えていくため、昼間にがらんとしているのは珍しい筈なのだ。
ではなぜ、こんなにも静かであるのか。それは、セナル教信者が貧民街の住人を虐殺しているからであろう。おそらく彼等を恐れて隠れているのさ、昼間でもね。
当然このようなことは俺でも察しがつくのだが、二つ目のことは少しわからない。
さっき、俺が自分のダークフォースをエメルさんに感じとられ動揺したが、あれは今までそういった人間がいなかったからである。
フォースを感じるには何か条件が必要なのか実は、俺はまだエメルさんとジョセフを含む5人しかフォースを感じたことのある人間がいない。
そのうちの3人とは、ただ道ですれ違っただけの男性であったが。…イヤな顔をしながら俺を睨みつけてたな。
その条件が知りたいのだ俺は。
…確かめてみるか。
「エメルさん」
「ん?」
「さっき、俺のダークフォースが見えるって言ってましたが、他人のフォースを確認する手段というか条件って何ですか?」
「なんで?」
「ん…。なんとなくです」
「まあいいや。これは少し複雑っぽくなるんだが…」
エメルさんは顳顬を2、3回ポリポリと掻くと、1度呼吸を整えて言った。
「フォースっていうのはね、正義か邪悪かによって変わってくる人間の秘められた力で、フォースは人の中に溜められていくものなんだ。しかし、それを溜められるのには限度があり、溢れたフォースは身体から外にでる。容器をイメージするとよりわかりやすいな。その容器を、行い次第で大きくも小さくもでき、中身を飲むこともできる」
溢れるのか、フォースって。…勉強になるな。
「で、ライトフォースはダークフォースと共鳴するという特性がある。しかし、ライトフォース同士または、ダークフォース同士では共鳴しない。磁石のような原理だ。だから、ここに2人の強いフォースの持ち主がいたとして、溢れんばかりのフォースだったとする。そして各々の溢れたフォースは勝手に共鳴し合う」
「ふむふむ」
「共鳴したフォースは、それぞれの持ち主の網膜に映しだされ、オーラのような形で見えるって仕組みだ。わかったかな?」
「はい。なんとか」
なるほど、だからエメルさんには俺のダークフォースが見えて、俺にはエメルさんのライトフォースが見えたってことか…。
俺は2回頷くと、納得したように唸った。
が!次の瞬間、俺はとんでもないことに気づいてしまう。
あぱぱぱぱぱぱ!?
背中から冷や汗が滲み出て、血は一気に頭に昇った。しかし、血が昇ったと言っても、その顔は蒼白で妙に引きつっていた。
「どうした?」
「い、いや…」
心配してくれたエメルさんに視線を合わせないように俺は俯いた。
──マズイぞ!さっきエメルさんが言ったことが本当なら!
俺のフォースはジョセフに覗かれたってことか!?
俺がジョセフのフォースを覗いたのはウォーリーが死んだときだ。あれ以来1度も彼のライトフォースを見ていないが、あのとき俺に見えたってことは俺のフォースもジョセフに見えたってことだ!もしジョセフがあのとき、俺のフォースを見ていて、ダークフォースだって気づいていたらマズい!根拠が並んでただでさえヤバいのに、ダークフォースに気づかれてたと思うと…。
俺は上を向きながら絶句した。完全に脱力状態の俺を見てエメルさんは、もう一度声をかけた。
「だ、大丈夫か…?」
「え、エメルさん…!俺…」
「話してみろ」
「俺、ジョセフという凄いライトフォースを持っている友達がいるんです。強さでいうとあなたぐらいの。実はそいつに、悪だと疑われて殺されそうなんです」
「間違ってはいないが……それは問題だな。私と同じくらいってことは、君のダークフォースが見えたってことか?」
「俺のライトフォースを見たかは知らないけど多分」
「随分とやっかいじゃないか…。どうすれば殺されることを回避できる?」
「今度の兵大会で奴に勝つ。それだけです」
「兵士用の武器を使えない君にとっては不利ではないか…」
「だからこそここにいます!早く修行を!」
「待て!焦るな…」
エメルさんは俺に1度落ち着いて深呼吸するよう指示すると、2人で一緒に大きく息を吸って吐いた。
「…君は彼のライトフォースを見たのか?」
「はい…」
「それはいつ?どんな状況だった?」
「大体一か月前くらいで、彼は亡くなった仲間を抱き抱えながら泣いていました」
「…他は?」
「いや、彼のライトフォースを見たのはあれが最後です」
「!?」
エメルさんが目を大きく開きながら驚いた顔をする。俺はそれが胸に突っかかって、つい質問してしまった。
「?どうかしました?」
「不思議だ…!こんな奴初めてだ」
エメルさんは顔を上げると、俺の目を真っ直ぐ見た。そして俺の方に這ってくると、急に顔を近づけた。
「な、なんですか?」
「それ以来、彼のライトフォースを見ていないんだね!?」
「だからそうと…」
「ウーム…」
急に頭を抱えだしたので、俺の方も頭を抱えたくなった。どうしたというのだよ、全く。
「これは飽くまで、私の推論なんだけど…」
「え?」
「そのジョセフって人は、君のダークフォースを見ていないと思うよ?」
「なんですって!?」
「…ジョセフは仲間を失ったことで、ひどくショックを受けていたはずだ。悲しみもあっただろうし、悔しい…というのもあったんじゃないかな?そういう状況で周りのことに意識を持っていくのはとてもじゃないが出来ない。…ジョセフはその日から今日までに、それ関連についての質問をしたことがあるかね?」
俺はそれを聞いた途端、必死に脳内にあるジョセフと過ごした記憶を引っ張りだしてみた。しかし、記憶のどこを探しても、そのようなことは見つからなかった。
「ない…!ないですよ!」
「それならばダークフォースを見てはいないのだろうな」
俺はそれを聞いて、つい飛び跳ねるほど歓喜に包まれた。が、エメルさんの顔は依然曇ったままであった。
「まだ何かあるのですか?」
俺はなんとなく質問してみた。するとエメルさんは、まだ納得していないかのような顔をして言った。
「これも飽くまで推論なんだけど…」
「はい」
「君はジョセフのライトフォースを、その事件以降見ていない。つまり君のダークフォースも彼には見えていないってことだが…。君のダークフォースは今も私の目に映っている」
「ふむふむ」
「…いいか?これから言うことは飽くまで推論だからな?あまり期待しすぎるなよ?」
「だからなんですか!?」
「君、もしくはジョセフは、お互いが近くにいるとき、フォースの量が一気に低下するのではないか?」
「え?」
「それが条件かは知らないけど。多分そうだ。もしくは…」
「?」
「いや、なんでもない!」
──お互いが近くにいるとき、どちらかのフォースが弱くなる…か。
もしかして俺かな?いや、俺だったりして?
もし俺だったら、今度の兵大会は少しでも有利に進めることができる!ラッキーだぞこいつは!
……ってなことはない。何故なら俺は、昨日ハンターの姿でジョセフに会っているから。フォースが弱まってしまえばハンターに変身することは出来ない。多分ジョセフであろう。
でも何故だ?仕組みは一体なんなのだ?ジョセフのフォースが弱まる理由…。
根拠のない推論だが、俺にはその推論が希望を呼び、新たな謎もつくりだしてしまった。
「………」
──とんでもないことになったぞ〜!
もしかしてだが、もしかして…。
ってあるわけないか…。特定の人物に近づいたってだけでフォースが弱まるってだけでもあり得ないのに、そんなことあるわけないのだ。
だが、ジーマ・ドロー…。おもしろい奴!
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