20話 ジーマとジョセフ!

「ちょっと!何の音!?」

エリーが急いでこちらに向かってくる足音がする。

「エリー!来るな!」

オレは大事で叫んだ。ドア越しに「えっ?」と聞こえた。

「オレは今、晩飯前の運動で忙しいんだ。悪いが邪魔しないでくれ」

「でも、壁の崩れるような音がしたよ!?」

「激しい運動なんだ。壊しちまった壁は明日直してもらうよう頼むから、今は来るな!」

オレは明らかに無理のある言い訳をしたが、エリーはその後ぶつぶつ文句を言いながら台所に戻った。

「さて、どうするかな?」

オレは正面に立っているアストレという男の方を向いた。アストレは長剣を構えながら、じっとオレの動きを待っている。さすがに素手では戦えないぞ?

下手に動くとマズイよな。だから剣を瓦礫から引っ張り出すっていうことは出来ない。壁が崩れた場所から逃げるか?いや、出来ない。あそこにはアストレが、オレを逃さないよう立っている。なるほど、あいつが動かないのは出口を塞ぐためか!

オレは背後に手をまわしてドアノブを握った。

脱出出来るか!?そうだ、奴が一瞬でもオレから目を離したら、その隙にドアを開けて逃げよう!そうすれば………って無理だよな。そんなことしたらエリーまで戦いに巻き込んでしまうかもしれない。それだけは避けたい!

……!どうすればいい?このピンチから脱け出すにはどうすれば…。




俺はジョセフの家に向かって、脚をひきずりながら歩いている。

「グッ!ジョセフの家がこんな遠くに感じるなんて!」

俺は1人で呟いた。脚を深く斬られ、1歩歩くだけでも辛かった。

俺はその様にして暫く歩き続けたが、突然脚からブチッというような音がした。その音が聞こえたと同時に、俺はその場に倒れてしまった。

……脚が限界か!しかし、今は諦められるときではない。殺し屋がジョセフを見つける前にジョセフに伝えないと。

俺は地を這いながら、必死に前に進んだ。

「あと少しなんだ、ジョセフの家まで!」

俺は自分の背中を押すように言った。




ダメだ…!何も策が思いつかない。オレは完全に包囲されている!今までに無いほどのピンチだ。奴はこちらの動きを観察しながら、じっとオレが攻撃するのを待っている。

…………?

いや待てよ?もしかしたら…、


一見絶望しかない状況である。

でも、これが。この時間が、オレを油断させるためのものだとしたら?

確かに人は時間が経つたび危機感が薄れ、油断してしまう。アストレはそれを狙っているのではないか?

ならば、オレがやるべきことは1つ…。


オレは相手に向かって拳を構えた。まともに拳で戦っても勝てない。でも、オレはこの戦いに勝つ気でいるさ。勝ってみせるよ。

オレはアストレと睨み合った。壊れかけた時計の針がチクタクと時を刻み続けること20分。

20分!?オレは時間とアストレ、どちらと戦ってるんだ?さすがに腕がつりそうになったので一瞬構えをといた。


「隙あり!」

「…!!?」

突然アストレがオレとの間合いを一気に詰めてきた。やはりオレの推測はただしかったんだ!

「待たせてくれたな、アストレ!」

オレは相手の攻撃を受け流して、アストレが守っていた壁の穴に向かって走りだした。

「グッ!しまった!」

アストレが顔を青ざめさせながら言った。

これを待っていた!奴はオレがこの狭い空間から脱け出させないように壁の穴を守っていた。でも、奴が攻撃するためにオレとの間合いを詰めてくるのであれば、穴は当然ガラ空きになる。その瞬間に脱け出すって作戦さ。

「考えが甘かったな、マヌケ!」

…とは言ったものの。依然ピンチであることには変わらない。だって逃げられる範囲が広がっただけだから。というか奴の間合いの詰め方、凄まじく速かった。オレが奴から逃げ切れないなんてこと、サルにだって分かるさ。

せめて兵士用の武器さえあれば勝敗はわからんが、無防備な今のオレに出来るのは、せいぜい時間稼ぎ程度。戦況は大して変わらない。変わったところと言えば、さっきよりも自由な動きが可能になったってところか…。

一応時間稼ぎはするが、その行為に一体何の意味がある?オレは深く考えてみる。

……そうだ!もうすぐオレの家に2人の兵士が作戦の迎えにくる!この前までウォーリーが迎えに来てくれていたアレだ。今日から、ウォーリーの代わりに2人の兵士がオレを迎えに来てくれることになったのだ。

きっとそいつらは兵士用の武器を持っているはず…。そいつに賭ける!とりあえず今は時間を稼ぐんだ!


オレは部屋から脱け出すと攻撃を受け流しやすい構えをとった。

アストレもオレに続いて部屋から出ると、俺に向かって、もう一度構えた。

しかし、今度はさっきのように静寂な時間は作らず、一気に間合いを詰めてきた。

さすがに同じ手は使わんか…クソッ!

オレは間合いから離れようと、少し後ろに退がったが、オレの移動に合わせて、アストレも同時に前に踏みこんだ。

ここで、さっきまで必要性があまりなかった、アストレの長剣が役に立った。奴の剣は中途半端に後ろに退がったオレを遠間から斬っていこうとする。

オレは攻撃を避けようと右側に踏みこんだ。しかし、アストレはそれをよんでいたのか、それとも咄嗟に反応したのか分からないが、剣の軌道を変えて、オレが避けた先でも攻撃が当たるようにした。

オレは攻撃に反応できず、横腹に深い切り傷を負った。そして、痛みでオレの気が一瞬それた瞬間を奴は見逃さなかった。アストレは次にオレの右肩を狙った。オレはその攻撃をギリギリのところで避けたが完璧ではなく、右肩の肉が縦に少し削がれた。

クソッ!なんて奴だ、コイツは!このままじゃ、あまり長い時間なんて稼げない。頼むから早くきてくれ!




「……ジョ…セフ!」

俺は地を這うようにして、何とかジョセフの家の近くまで辿り着けた。

待ってろよジョセフ。俺が…。

しばらく進み続けると、俺は目を疑うような光景を目の当たりにした。

「あいつはさっきの!?俺がもたもたしてる隙にジョセフと戦っていたのか!」

しかし、俺が1番驚いたのはそこじゃない。なんとジョセフは奴と素手で戦っていた。いや、正確には攻撃から逃げていた。

何故武器を使わないんだ?あのままじゃもって3分、いや2分。何か武器を使えない理由があるのか?

……ッ!今はそんなことどうでもいい!

早くジョセフを助けないと。でも、どうやって…。

俺はもう一度、脚の傷を見た。今の俺じゃあ、ジョセフを助けるどころか、足手まといになるだけだ。でも、何としても助けたいんだ!

考えろ!何かないか!

俺は頭をフル回転させて、助ける方法を考えた。

……そうだ、これなら…!




「…ッ!」

俺はアストレの攻撃を後ろに退がることで避けたが、バランスを崩して倒れてしまった。

「フゥッ…」

アストレは短く息を吐いて、オレが倒れている隙に間合いを一気に詰めてきた。


分かっていたさ、こうなることは。ライトストーンの無いオレの実力はこんなもんさ。それに加え、相手はめちゃくちゃ強い殺し屋、何もおかしくないじゃないか。

……ただ、こんな状況にオレが希望を求めたのがバカだった。おかげで今は、


死ぬのが恐い。


でも、これも運命。エリーがこの戦いに巻き込まれなかっただけでもよかった。

さようなら、ヴェインさん、ノーガ、エリー、ジーマ…。


「バカヤロー!!」

「え?」

オレとアストレは誰かの声がする方を向いた。しかし、そこには誰もいなかった。

幻聴か?オレはもうそこまで…いや、それにしてははっきり聞こえたし、何よりアストレも声の主を探している。

「ここだぜ!ジョセフ!」

この声は…ジーマ!

オレが下を向くと、そこには血だらけで蛇のように地を這っているジーマがいた。

「ジーマ!?何故ここに?」

「…そんなことどうだっていい!お、お前のことだから、多分今から死ぬって状況でも、運命だからしょうがないって決めつけるに違いない!」

ジーマは痛みに耐えながら、必死そうに俺に伝えてきた。

そうさ、運命なのさ…。だから受け入れるしかないんだ。もう、放っておいてくれ…!

「バカなこと考えてんじゃねぇ!」

「え?」

「俺とお前、2人が一緒なら、どんな状況でも希望はあり続けるとは思わないか!?そうであってほしいと思わないか!?だから探すんだよ、希望を!」

「何を言って……」

オレが言いきる前にジーマは、リュックに手を突っ込むと、兵士用のトマホークを取りだし、オレに向かって投げた。

「2人いればなんとかなるさ。なあ、こんなところで終わる俺達じゃねえだろう!?」

……ッ!衝撃が走った。

「…そうだな。こんなところで終わる訳にはいかんよな、ジーマ」

オレはトマホークをキャッチすると、立ちあがってアストレに向かって構えた。

「アストレ!」

オレはただ呆然と立ち尽くしているアストレに向かって叫んだ。

「オレ1人じゃ、きっとお前に勝てなかった。…仲間というのは、いいものだな」

オレの言葉を聞いて、アストレは笑った。

「フフ…まるで自分が既に勝ったみたいな言い方するじゃないか」

「ああ、そうだよ…!」




次の瞬間、ジョセフは男の背後に立っていた。

「な、なにぃ!?」

「オラァ!」

ジョセフは男の首筋目掛けて、トマホークを振り下ろした。殺し屋の男はその攻撃を防ごうと、必死に首を守った。

…ダメだ!さっきの俺と一緒の状況に立たされている!俺の敗因ともなった場面。どうするんだ、ジョセフ。

ジョセフの攻撃は俺の方からは、完全に防がれたように見えた。

「危ない、ジョセフ!」

俺の額からはイヤな汗が流れた。しかし、ジョセフ達の方はそんな状況でもなかったらしい。

「グェ…」

殺し屋の男の背中から血が噴き出た。その血はジョセフを真っ赤に染めていく。




アストレは荒い呼吸をしながら、剣をがむしゃらに振ってきた。オレはその攻撃をスルッと受け流すと、今度は脇腹を斬った。

「グッ…!急に強くなったぞ!一体、何が起こったと言うのだ!?」

「そうだな、知る由もないよな。オレがこの十数日、どんな相手と戦って、どんなことが起きたか」

オレはグリズリーとの戦いを思い出しながら言った。オレはあの戦いで、沢山のものを失った。自信、誇り、先輩方、ウォーリー。でも、オレはその分強くなれた。あいつがいてくれたから…。

ありがとう、ウォーリー。お前から貰った力、今ここで役に立っているぞ!

オレは何度も攻撃を繰り返した。アストレが悲鳴をあげながら、必死にオレの攻撃を止めさせようとする。

「無駄さ。今のオレは、オレ以外止められねぇ!」

「う、嘘だぁぁあ!!」

アストレが悲痛な叫び声をあげた。しかし、オレはそんなこと気にせず斬り続けた。




つ、強え…!この前までのジョセフとは訳が違う。俺って、いつか本当に殺されるかも…?

しかし、ジョセフはあるとき急に攻撃を止めて、男をその場に倒した。

あれ?俺はてっきりそのまま殺しちゃうかと思った。

「……?」

「『何故止めた?』って顔してるな」

ジョセフは男を見下しながら言った。

「…言ったろ?今のオレは、オレ以外止められねぇって。だから止めたんだよ。…って、それじゃあ、あまり理由になってないよな」

ジョセフはチラっと俺の方を向きながら言った。

「あいつの傷、きっとお前がつけたんだろ?でもさ、お前はあいつを殺してない。お前は何故か知らないけど、あいつに情けをかけたんだ。という訳で、オレも出来る限り情けをかけたつもりだ。お前にとってはどうだか知らないがな」

そう言うとジョセフは、俺の方にスタスタと歩いてきた。

「手錠あるか?」

「え、あるけど…」

「出しな。確か生きている状態でもよかったよな?どうせ、あいつは何人もの人間を殺したバカ野郎だ。ほぼ確実に死刑だろう。でも、少しでも他人に情けをかけられるほどの奴を、オレは殺したいとは思わないよ」

ジョセフが少し小さな声で言った。

…もし、俺が殺し屋の男みたいに、ジョセフに負けたら、俺も奴みたいに情けをかけられるだろうか?……バカだな!そんなことある訳ねぇじゃん!ハハ………。




ジーマから手錠を受け取ると、オレはそれを、アストレにかけた。

「よし、仕事完了!お疲れジーマ!」

「お疲れどころじゃないよぉ…。死ぬ寸前だったんだからな」

ジーマがグッタリしながら言った。

「ハハ!そうだな」

ようやく、オレとジーマが話しているところに、オレを迎えに2人の兵士が来た。

2人の兵士は、捕まえたアストレを見て、非常に驚いていた。

「お前ら遅えよ!一体どれだけオレ達が苦労したか…」

「す、すみません、隊長!約束より、20分ほど早くしたのですが…」

「え!?…ああ、次からは気をつけるんだぞ。…罰として、このグリズリーの最後の幹部を牢獄に連れて行け!あと連れて行く途中に隊員にあったら、幹部を捕まえたから、今日は休みって伝えるんだ!いいな!?」

「は、ハイ!」

2人の兵士は返事をすると、アストレを連れて、牢獄に向かった。

ふとジーマの方を向くと、ジーマはジトッとした目でこちらを見ていた。

「あ、あ、あの、そのぉ。ありがとな」




ライトフォースとダークフォースについて


この世界における魔法の1つ(正確には2つ)

ライトフォースとダークフォースの2種類があり、その特別な力を利用するためには、そのフォースのそれぞれのストーンが必要である。

ダークストーンは非常に希少で、実物を見たことがある人間があまりにも少な過ぎることから、言い伝えとされている。

ライトストーンはダークストーンの言い伝えからヒントを得て開発され、兵士用の武器に使用されたりする(ライトストーンは兵士以外の人間が所持することは禁止されている)。ライトストーンが開発出来たのだから、一応ダークストーンを開発することも不可能ではないらしいが、色々な事情があって開発出来ないそうだ。

フォースは正義に生きるか悪に生きるかで変わり、どんなことをしたかでフォースの強さも変わる。

ライトストーンやダークストーンは、それぞれのフォースの強さで持ち主の筋力を高めることができるが、それぞれのフォースの持ち主が、逆のストーンを利用すると、筋力を低下させることになる。

一応ダークストーンは言い伝えとされていても、ダークフォースの存在は世間にも知られている。しかし、ダークフォースは現時点では全く役に立たないため負のエネルギーとされている。

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