19話 ハンターの新しい武器!
「……鋭いな。まさかこんなことでバレるとは」
男が溜め息を吐きながら言った。
「そうだよ、私が最後の幹部の、殺し屋だよ。君の大事な友達を殺すためにやってきたんだ。それで、君はそれを阻止したいと…?」
男はフードを脱ぎながら、面倒くさそうに言った。俺は黙って頷くと、少し後ろに退がった。
「そうか…。ならば死んでもらうよ…。私は仕事を邪魔されるのが嫌いでな」
男はそう言うと剣を抜いた。そして、獲物を狙う獅子のように、鋭い眼光をこちらに向けた。俺はその眼光を向けられて、少しブルッと震えた。
マズいなぁ…。俺、実は今マジで強がっている。そう、ただの強がりなのだ!自信ではない!
……俺だってめちゃくちゃ焦ってんだよ?だって、さっきセイントからジョセフが狙われているのを知って、急いでジョセフにその事をしらせに行こうと思って街中をダッシュしていたら、突然ジョセフのことを狙ってる殺し屋にバッタリ会っちゃうんだもん。驚きの連続で、イヤな汗が止まらない!
まあ、バッタリ会ったまではよかった。問題はそれから、ハンターになってチャチャっと終わらせるために男を人気のない場所に連れ込んだのに、俺はハンターになるための鉈を忘れちまった!
勝てるかなぁ?聞くところによるとこいつは、グリズリー以上の実力者らしいからな。グリズリーの実力がどれほどか知らないが、俺にはこいつのヤバさが分かる。
こいつの殺意は、間違いなく今まで俺が戦ってきたなかで1番強い。まあ、殺意が直接実力に関係するとは限らないが、その殺意から感じ取れる溢れ出るほどの自信が、こいつの実力を物語っている。
「ふっふふ…」
俺は1人で小さな声で笑うと、相手の方を見た。
おいおいジーマ、お得意のビッグマウスはどうしたよ?俺は自分に向かって言った。
俺がもしハンターの状態だったなら、こんな奴なんの問題もなく倒せるだろう。しかし、今の俺にはそんな力がない。もしかしたら勝てないかも…。そんなときは、ハンターとしての俺に勇気付けてもらうのだ。紛れもなく最強の殺し屋に。
………よし、行けるッ!この武器ならば!
俺は急いでリュックからトマホークを取り出した。…違う!これはライトストーンが使われてるやつだ。
俺はもう一度、暫くリュックの中を探すともう1つのトマホークがでてきた。そう、このトマホークは俺が貯金を使って鍛冶屋に作らせた特注品、オーダーメイドトマホークだ!
まあ、何が変わったかって言うと、ただ、ライトストーンの使われた兵士用のトマホークを模して、ライトストーンを一切使わず100%鉄で作ったってだけだけども、それでもライトストーンに邪魔されて使えなかったジーマとしての俺の戦闘能力がフルに使える!
これで堂々とトマホークで戦える。この前、拳で戦ってて、「あいつ、なんで兵士用の武器使わんの?」って囁かれてたからなぁ…。
「随分と何か考えごとしているが、そろそろいいか?」
殺し屋の男が呆れた口調で言った。
「待っててくれたのか?」
俺はあっけらかんな口調で言った。
「…待たんでいいのかと訊いている」
「え?あ、ああ。待たなくてもいい。もう腹はくくったからな」
俺は殺し屋の男と少し離れたところでトマホークを構えた。
「よろしい。では!」
男は剣を構えた。妖気に満ちた殺気が一層強くなった気がした。男と俺は、暫くの間睨み合った。俺はプレッシャーをかけるために前に一歩進んだが、男は微動だにしなかった。そしてまた睨み合う。
……?そろそろ間合いを詰め始めてもいい頃なんだが。もしかして俺の攻撃待ちか?なるほど、カウンターを狙っているのであれば、俺が攻撃しない限り奴はずっとあのままだ。この間に作戦でも練っていよう。
奴の剣は一般の剣と比べて、少し長いなぁ。超接近しないと、トマホークでは攻撃出来ないから、やっぱり相手の懐に入らなければなるまい。そうすれば奴の剣の長所を思いきり潰せる訳だし。しかし、問題はどうやって懐に入るかにある。…何も考えずにバカみたいに突っ込むか?それとも、慎重に間合いに入るか。それとも…
「参る!!」
次の瞬間、俺の目の前には奴がいた。
「え?」
俺には男の素早さに驚く時間は与えられなかった。俺は咄嗟に防御の構えをとって、男の攻撃を防いだ。
「クゥッ!」
クソッ、なんてスピードだよ!目にも留まらぬ速さで間合いに入ってきやがった。だけどな!
俺は捨て身の突進で一気にトマホークの間合いまで詰めたあと、自分が可能な限界の速さでトマホークを振った。男はその攻撃を右側に回避しようとしたが、完璧には避けきれず、右肩を少し斬った。
「…ッ!」
男は苦しそうな表情を浮かべた。俺はそれを見てニヤッと笑った。
そうだ!伊達に史上最強やってないんだぜ、俺は!ジーマの本来の強さがあるからこそ、ハンターの強さがあるんだ。
俺はその後も一方的に攻撃を繰り返した。間合いにさえ入れば長剣なんて恐くない!攻め続けるぜ、大胆かつ慎重に。
俺の一方的な攻撃に苛だったのか、男は力任せの攻撃をしてきた。俺はそれをヒョイっと避けると、男は剣に連れられて、前によろめいた。俺はその瞬間を見逃さず、一気に相手の背後に回り込んだ。
「もらっ…たあああああ!!」
男の首筋目掛けて俺はトマホークを力強く、でも素速く振った。
ガキン!!
俺は次の瞬間、一気に青ざめた。
「ふ、防いだ…!?そんなバカな!」
あいつは剣に振られたんだぞ!?咄嗟に首筋を防ぐことなんて出来ないはずだ!
いや、もしかして演技だったのか?俺を油断させるための。
男は俺の腹目掛けて思いきり後ろ蹴りした。俺はそれを真正面から受けて、痛みでよろけてしまった。男は長剣を振り上げると、俺の瞳を一瞬覗いた。長剣を振り下ろすと、俺はそれに合わせて横に転がり込むことで避けた。
「ハァ、ハァ」
お、男がいない!どこだ?どこに行ったんだ!?
俺は立ち上がると、周囲を見回した。バカな!いくら少し広いといっても、ここは路地裏だぞ!一瞬のうちに消える場所なんて…。まさか…!
「上だよ、少年」
「なっ…」
俺は咄嗟に避けようとしたが、既に男は着地し、俺の脚を斬っていた。かなり深く斬られたそうで、俺の脚に激痛が走った。
「あ、ああああ!!?」
俺は驚きと痛みで、思いきり叫び声をあげた。男はそんな俺を待たずして、次々と四方八方から攻撃してきた。俺はそれを必死に避けようとするのだが、完全には避けきれず、全身を斬られていった。
「あ、ああ…」
俺の声から力が失せた瞬間、俺はその場に倒れた。
男は歩いて俺の方まで寄ってくると、俺に長剣の先端を向けた。
「全く、君には驚かされっぱなしだよ。今まで、あれだけの攻撃を…まあ、完璧ではなかったが、避けた人はいないよ。まだ子供なのに間違いなく、私が戦ってきたなかで最強だ」
「…そりゃどうも。俺の方もそうさ」
俺は血まみれの状態で言った。
「あんた名前は?」
「名前?私の名前なんかきいてどうする?」
「ハァ…ハア、あんたを追うのさ!」
俺がそう言うと、男は笑い出した。
「ハハ…。まだ生きる希望を失っていないか…若さよのぅ。いいだろう、名前をきかせてやる」
男は少し笑みを浮かべながら言った。
「私の名前は…」
「キャー!人殺しィィィイ!」
突然、向こう側から悲鳴が聞こえた。そこには、40代半ばらしき女性がいた。
「ハッ!運のいい」
男は俺に向かって言うと、剣をおさめた。
「すまないが、私はここで退散させてもらう。人を殺すところを見られるのは苦手でな…」
「な、名前…」
「それもすまん。私が名乗るのは、依頼人かターゲットだけって決めてるんだ」
男はそう言うとどこかへ向かって歩きだした。
「さて、兵士の制服も覚えたことだし、同じ制服着てる奴らに、ジョセフとやらの居場所を訊いてまわるか」
男が呑気そうに言った。俺は言葉で言い表せないほど悔しくて拳を強く握りしめた。
「お、おい!大丈夫かい!?」
中年の女性が俺の方に駆け寄ってきた。
「はい…なんとか」
「深い切り傷だ。急いで止血しないと」
「あのぉ、気持ちは嬉しいけど、時間がぁ…」
俺は一刻も早く奴を追わなければならない。何があっても。
「今はあんたの治療が先だよ。ホラ!脚を見せなさい!」
ダメだ!治療なんかしてたらあっという間に奴はジョセフのところまで行ってしまう。
「すんません!勘弁してください!」
俺はそう言うと、痛みも忘れて走りだした。
オレは目を覚ますと、思いきりあくびをした。
あれ?しっかり寝ちまったなぁ。まあ、暇な時間を潰すにはよかった。
オレは窓際にある時計をみた。
「午後4時か…」
そろそろエリーが晩飯の買い出しから帰ってくる頃だろう。それまで部屋を掃除して待っていよう。
オレが掃除している途中、突然ドアがノックされた。
「エリーか?」
俺がドアの鍵をあけると、やはりエリーが晩飯の食材を持って立っていた。
「おかエリー」
「ちょっと!そんなしょうもないこと言ってないで手伝ってよ!これ重いんだからね」
エリーはそう言うと、食材を全部オレに押しつけてきた。
「お、おい。もうちょっとリアクションしてくれよ〜!自信作なんだぜ?」
「早く台所まで運んでよ。これからお仕事あるんでしょ?だから早めに作らないとね」
そうだったな。早めに飯食って準備しないと。
オレは食材を台所に置くと、もう一度自分の部屋に戻った。
ああ…暇な時間って、案外長いようで短いな。本当にあっという間だったぜ。
オレは晩飯ができるまで本を読むことにした。
いつ買ったけなぁ〜この本。あまり読む時間がなかったから、どこまで読んだか覚えてねぇや。オレはしばらく、その本を読み続けたが、内容をほとんど覚えてなかったため、あまり思うことはなかった。
「兄さ〜ん。ご飯できたよ〜」
向こうでエリーの声がする。飯の時間か。
「わかった。すぐ行く」
オレは本を机に置いて、ドアを開けようとした。
バキバキ!ガラガラ!
突然背後から、壁の崩れる音がした。
「!?」
オレが振り向くと、そこにはフードを深く被った男がいた。
「ッ!誰なんだアンタ!」
「私の名前はアストレ。殺し屋だ」
男はフードを脱ぎながら言った。
「は、ハンター?」
オレは咄嗟に質問した。
「いや、違う。私は私だ。すまんが、ある人からお前を殺すように依頼されてな。御命頂く!」
アストレと名乗る男は剣を抜いた。ヤバい完全にオレの命を狙っている!
け、剣は!?確か窓際に…。オレは窓際付近を見渡し、剣を見つけたが、全く喜べなかった。
クソッ!瓦礫の下敷きになっていて取り出せない!素手で勝てる訳がない。一体どうすれば…!
オレはなす術なく殺される自分をイメージしながら、必死に策を練ろうとするのであった。
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