18話 殺し屋VS殺し屋

「ハンターさん、私名前を作りました」

貧民街のおやじがウキウキとした口調でいった。名前を作るって…。おかしな響きだな。

「そういえば、この前そんな約束したっけな」

「その名前なんですが…」

「うん」

「ハリソンっていうのは如何でしょう?」

無難だなぁ。俺は勝手に、もっと貧民街を脱けだすぞ!っていう希望に満ちた名前かと思っていた。

「ハンターさん、首を傾げていらっしゃるのは何故ですか?私的には良いと思ったのですが…」

「ん?ああ、首が傾いているのは、もとからじゃないか。俺も良いと思うぜ。ただ無難過ぎやしないか?」

「いいえ、いいんです。このハリソンという名前は、私が尊敬する人の名前なので」

おやじが照れくさそうに言った。

「そういうことね。その人はどんなことをした人なんだ?」

「ハリソンはかつて、500人もの兵士を1人で相手し、全滅させた最強の兵士として知られています。今は魔団帝をやっているらしいです」

「魔団帝?」

突然訳のわからないワードが出てきたので、俺は困惑した。何なんだその魔団帝ってのは。

「まさか魔団帝をご存知じゃないんですか!?」

「ああ、すまない。初めて聞いたよ、そんな言葉」

「魔団帝ってのは国王に次ぐ、国のトップ3の1人ですよ!?主に戦争時などの戦略のアドバイスを王にするっていうあの!」

「知らなかった…。そんなお偉いさんだったとは」

俺はそう言うと、ふと時計を見た。

「…もうこんな時間か」

俺はそう呟くと、立ちあがって荷物を持った。

「じゃあな、ハリソン」

俺はハリソンに向かって手を振りながら、その場を後にした。


俺はその後、グリズリーの最後の幹部を抹殺するための作戦に参加した。そこにはジョセフの姿もあった。俺とノーガは、ジョセフが立ち直ったことに歓喜したが、ノーガは大金の使い道がなくなっちまったと言っていた。だけどノーガの顔は笑っていた。

俺達は幾つかの班に分かれて最後の幹部をさがした。しかし、いつまで経ってもそれらしき人物は見つからず、結局夜があけて1日目は終了した。


「たくっ…!見つかるわけねえよ」

ノーガは非常に腹が立っていた。ぶつぶつ文句を言いながら、ゆっくりとのぼる朝日を眺めていた。

「どうしたんだよノーガ」

俺が少し呆れた口調で言うと、ノーガは鋭い目つきでこちらを睨んだ。

「どうしたもこうしたも、夜中にさがして見つかるわけないじゃないか!」

「そんなことはないぜ。殺し屋は暗くてよく見えない夜中に行動するって言うし、それに夜中は人通りが少ないから、怪しい奴を見つけやすいんだ」

「だ、だけどさ〜!」

ノーガはまだ何か言いたげだったが、俺はこれ以上ネガティヴな発言をさせないために、話を変えた。

「ノーガ、ジョセフを慰める必要がなくなった訳だが、この作戦が成功したとして、その金をどう使う?」

「あ、ああ。そうだなぁ…俺とお前とジョセフとエリーちゃんで、どこか飯を食いに行こう。美味そうな店を探しとくよ」

「いいな、それ。ジョセフとエリーには俺から誘っとくよ」

俺はノーガに笑顔を見せて言った。


最後の幹部については知らない事だらけだ。俺は牢屋にいるセイントのところに向かい、最後の幹部について知っている情報を全て聞き出そうと考えた。

俺はセイントの牢屋の前に座ると、早速彼に質問した。

「なあセイント、グリズリーの最後の幹部について知ってること全部教えてくれ」

俺は落ち着きながらゆっくりとした口調で言った。

「私は彼の名前を知らないヨ。それどころか顔も見たことがないヨ」

「ッ!?まさかそれだけじゃないよな!?」

「まさかネ。知ってることのほとんどはジョセフに伝えたヨ。でも、ついさっき思い出したことがあるヨ」

「それはなんだ?」

「彼のターゲットだヨ。グリズリーに依頼されたらしいネ」

「誰なんだ?そのターゲットとは」

俺がきくとセイントは少し視線を逸らしながら言った。

「何かの作戦の隊長さんネ。名前はジョセフだったかナ?」

「なんだって!?」

俺はその場で飛び跳ねながら驚いた。

まさかジョセフが!一刻も早く、このことをジョセフに伝えないと!

「ありがとうセイント!」

俺はそう言うと、ジョセフの家に向かって走りだした。




自由時間とは暇なものだな。ハンター討伐作戦と最後の幹部の抹殺作戦の時間が重なっているし、オレの仕事は仲間が気をつかって済ませてくれていたから、オレは何もすることがなかった。

こういう暇な時間を、以前までのオレは望んでいたんだがな…。今は働いていないと気が済まない。でもやるべき仕事もないから、しょうがなく今は家にいる。

トレーニングでもするか?でも今はそんな気分じゃないしなぁ。武器の手入れは?しかし、それはさっき済ましたしなぁ。…寝るか。身体も休めなくてはな。

オレはベッドで横になると、静かに眠りについた。




きっと最後の幹部はジョセフをさがしている!俺は一度もやったことないが、同業者だからわかる。例え依頼人が死んでいても、構わず依頼を成功させると殺し屋として信頼される。信頼されると依頼が増える。だからジョセフは狙われてるんだ!

ジョセフの家はトラミッコ広場から少し離れたところにある。俺はジョセフの家に向かうために、街中を全力疾走で駆け抜けた。


俺は多分、初めて人の死に恐怖している。あいつを殺させる訳にはいかない!ジョセフは、俺の大切な仲間なんだ!集落を襲われ、かつての仲間達が死んでしまったあの日から、俺がこんな気持ちになることはなかった。でも、今はそうじゃない。あいつが、俺を殺すための作戦の隊長であったとしても関係ない!

俺はジョセフに、今を生きてほしい!兵士だからって国のためでなくてもいい。俺やノーガ、エリーや兵士仲間など、お前を愛してくれる奴のために生きてくれ、ジョセフ!


俺が全力疾走で街中を走っていると、フードを顔の半分くらいまで深くかぶった男の肩にぶつかってしまい、俺と男はその場にこけてしまった。

「いってぇ…!」

俺はすぐ立ち上がると、男に向かって手を差し伸べた。

「すみません。急いでたもので」

「いえ、急いでたのなら仕方がない」

俺は男の手を引っ張った。男は俺の制服をジロジロ見ながら言った。

「その制服、ここらの兵士のものだ。…君はジョセフという男を知っているかね?」

「…ジョセフに何か用ですか?」

「ちょっとした届け物だよ。だが、住所がわからなくて困ってるんだ」

「それなら丁度いい!俺もジョセフの家に向かう途中だったんです。宜しければ案内しますよ」

俺は笑顔で言った。すると男の顔が少し明るくなった。

「ありがたい…!是非宜しく頼むよ」

「ジョセフの家はこっちです」

俺は男としばらく歩いた。男の口調は少し大人びた感じだが、声の調子はそこまで渋くない。

フードを深くかぶり、一見とても怪しいが、ぶつかってもすぐ許してくれたので悪い人間ではなさそうだ。

「こっちです」

俺は大きな建物と建物に挟まれた、薄暗く狭い道に向かって指を指した。

「なんでこんな暗くて、通りにくそうな道を進むんだ?」

「ジョセフの家までの近道なんですよ」

俺はそう言うと、その道をまっすぐ進んでいった。男もやや不安そうな表情を浮かべながらついてくる。

しばらく進むと、少し広い空間があった。俺はそこで足を止めた。

「ジョセフの奴、今殺し屋に命を狙われてるんです。その殺し屋の依頼主とやらは既に死んでいるそうですが、殺し屋というのは自分の信頼を得る為に殺す必要のない人間まで殺してしまいます」

「随分と詳しいのだな、殺し屋のことについて」

男は「へぇー」といった感じで頷いた。悪い人ではない。その筈なんだ!でも…

「とぼけないでいただきたいな」

俺は冷たくそう言い放った。男の表情が変わった。

「なんだと?」

「俺はアンタの手を引っ張ったときに、異常なまでの殺意を感じとった。そして、グリズリーの幹部、セイントは、グリズリーの最後の幹部はジョセフの命を狙ってるって言っていた。アンタはジョセフを探していて、さらには異常なまでの殺意も感じる」

俺は男を思いきり睨みつけながら言った。

「見つけたぞ、殺し屋!お前にジョセフを殺させはしない…!」





人物紹介

エリー・コーマック


年齢 16歳

身長 159㎝


ジョセフの妹で、ジーマの恋人。

何度か知らない男に求婚されるなど、外見は非常に美しい。

非常に活発で、表裏のない素直な性格であることから友人が多い。

そんな彼女が、ジーマと付き合うことになったと皆に伝えた時には、彼女を知るほとんどの友人が泣いたという(ノーガもその1人)。しかし、密かにまだ狙っている人間もいるという(ノーガもその1人)。

ジーマとの出会いは、彼がまだライトフォースの仕組みについて理解しておらず、1番ライトフォースが発揮出来ていたジョセフにアドバイスを求めていたときだった。一向に良くなる気配のないジーマの動きに、ジョセフは半分諦めていたが、彼女だけはジーマから離れず、いつまでも側にいてあげた。ジョセフはその熱意に感動し、次第にジーマを鍛えるあげることに情熱を注ぐようになった。ダークフォースの塊で、優しさの欠片もないただのサイコパスだったジーマが、ある事件をきっかけに失ってしまった優しさを少しずつ取り戻してきたのも大体この頃である。

彼が彼女の優しさに気づいたとき、彼は彼女に想いを伝えたという。

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