14話 大切な人
「お前は、ウォーリーなのか?」
彼女は黙って頷いた。
いつの間にか天候は荒れていて、雨が外を濡らした。
オレはショックで頭の中が真っ白になった。本当はこんなにボロボロにならなくてよかったのに…オレが油断したから、ウォーリーはここまで傷つけられた。そして取り返しのつかないことまでに発展してしまった。
「ウォーリー…遅くなってすまん」
オレは彼女の目を見て話せなかった。彼女は無理に笑ってみせようとした。
「怪我がひどい。とりあえず応急手当しないと」
オレはポーチから消毒と包帯を取り出した。すると彼女が涙を流しながら言った。
「もう、いいです」
「なんだよ、消毒が怖いのか?そんなこと言ってられる状況かよ。それにらしくないじゃないか、お前が怖がるなんて」
「そうじゃないんです」
彼女が疲れきった顔でこちらを見た。彼女の目からは輝きが失われていた。
「私わかるんです。私がもうすぐ死んでしまうってこと」
「え?」
今彼女はなんて言った?死ぬ?ウォーリーが死ぬのか!?
「お、おい、冗談なんて言うなよ。どうせまたオレをからかってるんだろ?なあ」
「隊長…!私」
彼女のえぐり取られてない方の目から涙が溢れ、身体は小刻みに震えていた。
「嘘だ…死ぬな!お前のために何人も死んだ!お前はその犠牲を無駄にするのか!?」
オレがそう言うと、ウォーリーは首を横に振った。
「なら…」
「ごめんなさい…。私のために死んでくれた皆さん」
彼女は本当に悔しそうだった。表現しきれないような想いが、彼女の心を揺らしているのだろう。
オレはそんな彼女の唇に軽くキスをした。すると彼女は突然だったからか、すごく戸惑っていた。
「それがこの前の返事だ。待たせちまったな」
「嘘…!私の唇は汚いのに、綺麗な頃の私は拒んだのに…」
「違う!」
オレは咄嗟に叫んだ。彼女は少し希望を取り戻した表情でオレを見た。
「オレはいつの間にかお前が好きになってた。でもそれを認めることが出来なかった!オレは恋愛について何も知らなくて、もしかしたらこの関係が壊れてしまうんじゃないかと恐れていたから。でもお前が愛してくれていることを知って、オレは好きでいていいんだって気づいた!お前が汚れているとか関係ない。オレが好きなのは綺麗なお前じゃない。お前自身だよ、ウォーリー」
オレは心に収まっていた自分の感情を全て吐き出した。すると彼女は自然な笑顔をオレに見せてくれた。
「私、こんなに幸せになれたのは初めてかもしれません」
「これからも幸せにするさ、きっと。だからウォーリー、君のためじゃなくていいから、オレのために生きてくれ」
「それが出来たら私…」
「…そうか」
「ごめんなさい」
ウォーリーの呼吸が荒い。そろそろなのか?
「隊長…」
ウォーリーはオレの名前を言うと、もう一度オレの唇にキスをした。すると彼女から温かい光が、オレを伝わってきて光りだした。
「これは、ライトフォース!?お前の…」
ウォーリーから放たれるライトフォースは、オレ達2人を静かに包み込んだ。やがて、ライトフォースはオレの身体の中に入っていき、彼女の光は徐々に消えていった。ウォーリーの身体は枝のように細くなっていき、彼女はとても苦しそうだったが、彼女は心の底から笑っていた。
「ずっとそばにいます…。隊長」
「ウォーリー…!」
彼女の涙が床に落ちると、ウォーリーは間もなく息を引き取った。
「クソッ!どんなに倒してもキリがない。こういう暴力集団てのは普通、こんなにいるもんなのかね」
ノーガはウンザリとした口調で言った。奴らがとんでもない数でくるから、俺達班員の戦える人数は、少なくなっていた。幸い死人はでてないそうだが、それもいつまで続くか…。
「なあノーガ、1度重傷者を外に運んで、応急手当しないか?」
「はあ!?何いってんだよ、ここで逃げたら男じゃねえ!」
ノーガは汗を流しながら言った。既に後衛の列は崩れ、前衛の側にいて援護するという感じになっていた。
「このままじゃ、重傷者がマズいだろ?俺が1人で時間を稼いでやるから、まだ戦える奴も一旦重傷者を連れて退け!」
「ダメだ!それじゃあお前が死んでしまう。今日と昨日の活躍で忘れていたが、お前の兵士の成績はビリだったじゃないか。そんな奴にこの場を任せるわけにはいかない」
「ビリだからだよ、ノーガ。俺には奴らの気をひきつける秘策があるんだ。どうせこんな奴死んでも、何か変わるわけでもなかろう」
俺は真剣な眼差しで、ノーガを見た。
「…わかった。でも1つだけ納得できない」
ノーガもまた、引き締まった表情で言った。
「お前が死なねえってなら納得してやる。お前が死んで悲しむ奴がいるってことを忘れるな」
「…わかった、死なないよ。だから重傷者を連れて建物から出ろ」
俺がそう言うと、ノーガは、まだ動ける班員に重傷者を運ばせて外に出た。
「フフフ。どんな策があろうとこの数を一気に相手するのは不可能だ。死なない約束じゃなかったのか?」
グリズリーの下っ端が憎たらしく言った。
「言ってな。俺にはとんでもねぇ策があるんだぜ。時間稼ぎとか言っちゃったけど、本当はお前らを皆殺しにするつもりだったんだ」
俺はそう言うと、リュックサックから鉈を取りだした。
「ハンターに化けるって策だ。アホでも考えつく、とんでもねぇ秘策だろ?」
ウォーリーが死んだ。ただ1つ、オレにライトフォースを託して。
生きててほしかった。もっと一緒にいたかった。でもそれは叶わなかった。
この溢れ出る涙が、大切な人をうしなった涙だと知ると、同時にオレは、ウォーリーを助けられなかった負け犬だということも知った。
畜生…!畜生!畜生!畜生!
「畜…生!」
オレは床を殴りながら、1人で呟いた。
「あれ?死んじまったのか。またヤろうと思ってきたのに」
突然背後から声がしたのでオレは振り向くと、そこにはロープを持ったグリズリーがいた。
「グリズリー…!」
「お前は…この前戦った、隊長だったかな?」
「そうだ。お前がウォーリーを殺したのか?」
オレは怒った。怒りがこみ上げ過ぎて、表情や言動から相手に上手く表現できないほどに。いや、これはもう怒りではないのかもしれない。
これは殺気だ。怒りを通りこした先にある感情。オレはきっと、こいつを殺す。そう思った。
グリズリーは背後に手を組みながら、必死に何かを動かしながら言った。
「ウォーリーだっけか?美人だったなぁ。多分、俺がヤった中で最高に。だけど1つ気に入らないことがあってな。あいつ、俺がどんなに責めてもカワイイ声出さずに、隊長ってばっかり叫んでた。お前をだよ、隊長」
グリズリーはキツい目つきでオレを睨んだ。
「だから虐めてやったよ。無惨なほどに」
「…そうか」
オレは静かに言った。
「彼女は最後、本当に幸せそうだった。そしてオレにライトフォースを託してくれた。ありったけの正義を、オレに」
「それがどうしたんだ?」
グリズリーは気の抜けた声で言った。
「悪を裁くのは悪でも、被害者でもない。正義だ。だからオレは、彼女をうしなった被害者としてではなく正義として、彼女から貰った正義をもってお前を裁くよ、グリズリー」
オレは剣を抜いた。すると荒れていた天候が、またさらに荒れはじめ、雷が落ちた。オレが剣を構えると、グリズリーも剣を抜いた。
すごい…。こんなに剣を握った感じが違うなんて思わなかった。剣に使われているライトストーンが、溢れ出るライトフォースを力に変えてくれている。一緒に戦ってくれるのか、ウォーリー。
「くだらん。俺を裁くだと?この前あっけなく俺にやられたお前がか?笑わせるな」
「お前を笑わせることなんか一言も言ってないさ」
俺は一気に間合いを詰めると、彼の喉元に向かって思い切り突いた。グリズリーはそれを咄嗟に受け流すと、オレと少し距離をおいた。
「なんなんだ、そのスピードとパワー!これが正義なのか?」
グリズリーはひどく怯えた表情で言った。
「グリズリー!お前がこれから味わうのは、紛れもない生き地獄だ!お前が人々に与えてきた絶望だ!」
「正義が絶望によって悪を裁くか!?」
「今まで散々、人を傷つけておいて何をいうか!」
オレはひたすらグリズリーに攻撃した。彼はそれを全て防ぐのだが、彼の顔は恐怖で引きつっていた。
オレが攻撃をやめると、彼は一心不乱に剣を振り回したが、オレはそれを受け流してバランスを崩すと右肩を斬った。切断までには至らなかったが、大ダメージを与えることができた。
「ッ!グゥア!」
グリズリーは素早い振りでオレを攻撃してきた。オレはその攻撃を受け流すことができなかったので、咄嗟に避けた。それでも腹にかすり傷ができた。
「こんな奴に俺は、負けん!本気で殺してやる!」
グリズリーはそう言うと、さっきよりも攻撃のスピードを上げた。しかしオレはそれを簡単に受け流し、また相手のバランスを崩した。その隙に足をひっかけると、相手をこかした。
「これで終わりだ…グリズリー」
「い、命だけは!」
「ダメだ…死ね」
「なんてな!死ぬのはお前さ」
彼はすぐ近くにあったロープを引っ張った。するとあっと言う間に、オレの左足首は縛られ、オレは床に叩きつけられた。グリズリーは不気味な笑顔でこちらを見ている。
なるほど、さっきは背後に手を組んでいたんじゃなくて、縄のトラップを作っていたのか。そしてそのトラップをオレに気づかれないように仕掛けたってわけだ。中々策士じゃないか。しかしバカはすぐ天才だと勘違いする。死ぬのはどちらかな、グリズリー?
人物紹介
ジョセフ・コーマック
年齢 18歳
身長 184㎝
ハンター討伐隊の隊長。正義感が強く、仲間おもいである。
同期の中では成績がトップであり、非常に優れた知能と身体能力をほこるが、パニックになりやすい性格である。
成績がトップであることの重圧がすごいらしく、周りからは常に完璧を要求され、ジョセフはそれにこたえるため、日々努力をしている。
よくジーマやノーガと3人でいることが多い。彼らの中では兄貴的な存在である。
女心というものを全く理解しておらず、そのことをエリーによく怒られるらしい。
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