9話 悲惨な過去

「…今から尋問が始まるそうだ。長くなると拷問に移行しちまうから、俺としては奴が賢いことを願うぜ」

「しかしたまげたぜジーマ。まさかお前がたった1人で拘束しちまうなんて…。いったいなにがあったんだ?」

ノーガは目を開いて言った。あのジーマが…といった感じだ。

「言ったろ?俺はジョセフを超えるって」

「このスピードでこれからも成長していくと考えたら…、冗談に聞こえなくたってきたぞ」

ノーガは青ざめた顔で言った。

しかし不思議な感じだ、武器を持たない方が強いなんてな。いや、武器に使われている素材の問題なのだが。

ライトストーンとは厄介なものだ。清すぎるゆえに邪悪な人間の居場所を奪っていく。

今度からライトストーンが使われてないトマホークを、こっそり使お。


「そういやもう一つの班は、帰りが遅いなぁ。何かあったのか?」

「A班のことか?そうだな…そろそろ幹部を連れて帰ってきてもいい頃なのだが」

俺達が作戦本部に帰ってきて1時間半が経つ。苦戦しているのか?それとも…。

「俺達が早すぎただけじゃね?」

ノーガがあっけらかんな感じで言った。「そうだな…。そうだといいんだが…」

俺の顔の影は一層濃くなり、ざわざわとした胸騒ぎが、俺を焦らせていた。




作戦の内容は、大まかだが聞いている。

A班もB班も少しばかり無茶な戦術の気がするが、グリズリーの連中は思っている以上に賢い。無茶をしなければ勝てない。例え大人数だったとしても。

奴らにはきっちり対価を払って貰わなければならん。オレが復活するまで待ってろ、グリズリー。




ノーガは時計を見たあと、こちらを向いて言った。

「ジーマ…」

「ああ、きっとA班に何かあったに違いない。一緒に現場を行こう。いくらなんでも遅すぎる」

「見にいくだけだし、他の奴らは連れて行かなくていいよな?」

ノーガの表情がいつになく真剣だ。彼にもわかるのだろう、ことの異常さが。

「そうだな、俺達2人で行こう」

俺はそう言うとノーガを連れて、A班の目的地だった場所に向かった。


俺達はA班の目的地の豪邸についた。明かりはすでに消えており、正面のドアは壊されている。やはりA班は、ここにいたということか…。問題は内部だが、そこらじゅうにたちこめる強烈な匂いから、だいたい様子を察することができた。

「ノーガ…、どうやら遅かったみたいだぜ」

玄関を右に曲がってすぐの場所にA班の班員の死体があった。死体はすでに冷たく、死亡から時間がたったと推測できる。

さらに進むと、この豪邸のお手伝いらしき者の死体も、ペットの死体もあった。しかしこれらは既に腐敗しており、血の匂いの他に腐敗臭もした。

「この豪邸の主人は随分と変わった趣味をしてるんだなぁ。快楽殺人だぜきっと」

ノーガが酷い顔で言った。

俺は顔の表情を一つも変えずに言った。

「グリズリーの幹部ってだけでだいたい察しはついてたろ。頭のおかしいことなんざよ」

「お前はすごいぜ。よくこの状況でまともにいられるな」

人の死体を見ても平然といられる俺に、ノーガは驚いていた。

「正確には、まともじゃないのは状況じゃなくて俺の方なのさ」

俺は自分で言って自分で納得した。

俺は他人の死に心が揺るがない特殊な精神の持ち主だ。自分でも知らぬ間にこんな感じになってしまった。

きっと2年前の出来事が直接の原因だろう…。俺が初めて人を殺した日…。俺は思い出したくないのに今でも夢に出てくる。

人間とは複雑だな…。思い出したくないような出来事でも、忘れてはいけないと本当の自分が忘れるのを止めてしまう。

邪魔だな…、俺。

「ジーマ、お前今、思い出したくないこと思い出してるだろ」

「え!?なんで!」

俺はズバリとあてられ、マジにビビった。

「顔に書いてあるんだよ、お前の場合。そういえば俺はお前の過去についてあまり知らない。なあ、なんでお前は自分の事についていつも話してくれないんだ?時間なら沢山あったし、俺達はお互いを十分信頼しあっている筈だ」

ノーガが心配そうにこちらを見ながら言った。

「い、言えないんだよ。言ったら、きっと失ってはいけないものを失くしてしまうかもしれないから…」

俺はそれだけ言うと俯いた。

「……いや、俺に言っても何も失わんさ。お前はいつも見てるだろ?俺のバカっぷりをよ。そりゃ、それが本当につまらないもののようであれば、俺はここまで聞かん。でも、お前はときどき今と同じような顔をして、普段見せないような悲しい顔をするんだ。俺はお前を心配している。だから…、俺はお前の過去を知りたい。知ってお互いを理解し合いしたい。理解してお前を助けたい。頼むよ、ジーマ」

ノーガは優しい笑顔を見せながら言った。

そこまで俺のことを考えていてくれたのか?俺はこいつになら…と思った。

「…わかったよ、今から話す。でも、これだけは約束してくれ。これからも絶対に俺をひとりにしないと」

「当たり前だ。…この豪邸を探索しながら話そう」

俺はノーガと豪邸を探索しながら、俺の過去について話し始めた。


俺はホーラワ族という先住民達に白人の捨て子として拾われた。

昔、イギリカにアメリス人が移住してきたことで、イギリカは文明の進歩を遂げるとともに、先住民の居場所は徐々に奪われていった。その原因としては独立戦争による土地不足だった。

イギリカ政府は土地不足のため土地を譲ってほしいと先住民達と交渉し、先住民が承諾し、土地から立ち退くことで土地不足を解消した…。

ここまでは子供が大人に教えられる偽りの出来事、真実は違う。

本当は白人が集落から追い出したんだ。家を焼いたり、虐殺するなどして、土地の確保のために沢山の先住民達が殺された。そしてホーラワ族も…!

先住民達は昔から白人に差別されていた。でも先住民達は何もしてないし、白人の捨て子で孤独だった俺に温かい居場所をくれた。白人だからと虐めたりせずに、皆俺を愛してくれたんだ!

白人の襲撃から命からがら生き残った俺は、その土地に移り住んでくる白人達を、愛する人々を殺した奴らを許せなかった!

だから…、俺はそいつらを殺してしまった。復讐することに縋ることでしか自分が孤独であることを忘れることはできなかった…。

そして復讐をし終えて、自分が孤独であることに気づいた。そのときぐらいかな?人の死に感情が揺らぐことがなくなったのは。

酷い奴だろ?


「これがありのままの自分さ。どうだ?見る目変わったろ」

俺はこんなこと話した自分が嫌になった。ノーガになら…って思ったんだがな…。

「いや、やっぱり変わらなかったぜ」

ノーガがけろっとした顔で言った。予想外の返答に俺は驚くことしかできなかった。

「え?」

「だって今のでお前がさっきみたいな表情をする理由がわかっただけだぜ?そんなんでお前を見る目が変わるかよ。そりゃあ、お前が人を殺していたのは驚いたけど、理由を聞くとなんとなく理解できなくもなかった。それにお前の話を聞いて、俺はお前にグッと近づけた気がするから俺は気にしねぇ」

「い、いてくれるのか?いつも通り、側に」

俺は目を思い切り開いて聞いた。

「ああ。お前はもう孤独じゃない。ちゃんと過去を受け入れ、話し合える友がいる。もう1人で悩まなくてもいいぜ」

そう言うとノーガは満面の笑みを俺に見せた。

「ノーガ…!ありがとう」

俺は感激で胸がいっぱいになった。

「お、お前に感謝されると、なんだか照れくさいぜ…。お前の口からありがとうって言葉を初めて聞いた気がするからな」

ノーガが顔を赤くして言った。

「いつだって感謝してるさ、お前にな」


それからも俺達は探索を続けたが、あるのは死体のみで他に目をひく物はなかった。

「どの死体の顔も知らない顔だ。A班とB班は、年齢やキャリアで分かれるから、きっと俺達よりもベテランの兵士だろう」

俺は難しい顔をしながら言った。

「ああ…」

「俺はベテランの兵士達は金の事だけしか考えてないってジョセフが怒っていたのを見たことがあるぜ。この人達もそうだったのかな?」

俺はノーガに質問したが、彼は汗でぐっちょりしながらどこか遠いところを見ていて、とても質問に答えられそうな感じじゃなかった。

「ノーガ!?」

「あ?ああ。ジーマか…。クソっ!俺はこの場所に適応できてねぇ!俺はお前の足手まといかもしれねぇ」

「オイ、お前何言って…いや、すまん。俺が話している間は大丈夫だったんだから少し我慢できないか?」

俺は、成績的には普通なのにプライドが高い彼の口から、自分は足手まといという言葉がでてくるとは思わなかったから「お前らしくない」と言おうとしたが、面倒くさくなりそうなのでやめた。

ノーガは、周りに死体が転がっているというこの状況にまだ慣れてないらしい。まあ慣れる方が凄いのだが。

「俺がお前の代わりに死体を調べたりするから、お前は死体見なくていいぞ。これだけ死んでりゃ目にもつくだろうがよ」

俺はそれだけ言うと、A班の班員の死体に目を移した。

「!?」

「どうした…?ジーマ…」

「これは…毒殺?」

俺は死体のほぼ全てが、傷がないことに気づいた。おそらく毒殺。

「ノーガ…、どうやら2人目の幹部は、相当手強いぜ」

俺の表情には不安が滲み出ていたかもしれない。ノーガは俺の表情を見ると更におどおどしだした。

本当に大丈夫なのか?俺達。




今更設定解説(よくわからないと指摘された箇所を解説)

兵士の順位について

兵士は仕事の内容を日々評価され、順位に表される。より高い順位の者ほど重要な任務を任せられるので、5ヶ月連続1位のジョセフは常人では耐えられないような責任を1人で抱えている状態である。毎日休む暇もなく働きづめのジョセフは、いつか1日を寝て過ごすのが夢である。

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