7話 ハンターの名前
とうとう廃墟に着いてしまった。
ヤバい、今は命の危険しか感じれてない。
「やっ…ばー」
ノーガが汗をダラダラ流しながら呟いた。
「ノーガ、俺ヤバいよ。俺、皆の足引っ張る未来しか見えない」
「バカ!そ、そんなこと考えるな!お前にはきちんと活躍して貰わんと困る」
「それは、お前が戦いから逃げたいからだろ!」
ノーガは、いいや、いいやと首を振り続けた。
でも、俺だって恐いさ。誰だって自分の実力が満足に出せないと分かっていてなお、戦いに挑むのは勇気がいる。しかし、こんな俺を動かしたのは勇気なんかではない。俺の無駄な優しさだ。だから尚更恐いのである。
「これより作戦の内容を確認する」
班長が前にでてくると、サバサバした感じで言った。
「作戦は25人が一斉に固まって動く。誰か1人が自分勝手な行動をすると、班の一体感を失ってしまう。だから班の皆に迷惑をかけないように注意するんだ」
「相変わらずサバサバしてんな、あの人」
ノーガが俺にヒソヒソと話しかけてきた。
「あの人って?」
「班長だよ、ヴェイン班長。あの人おもしろ味がないんだよなぁ」
「どうかな?表面はあんな感じだけど、中身は別人かと思ってしまうほど違う奴って結構いるからな」
俺もだし。
「案外、グリズリーの幹部と出会った瞬間から、スゲー距離をとったりしてな」
ノーガは1人で爆笑し始めた。
「オイオイ、班長が作戦を説明中だ…」
俺はチラっと右側を見た。するとヴェイン班長が、すごい顔をして、こっちに向かってきていた。
「ぞーー!!?」
「ん?どうしたジーマ。いきなり叫んだりして…」
「誰のことを話していたぁ?ノーガ!」
ノーガの顔は一瞬で青くなった。すぐ隣に、鬼の形相をしたヴェイン班長がいるのだから。
ノーガはヴェイン班長に、2人きりになれるところに連れて行かれた。
ノーガ、ヴェインさんはホントは怖い人だったんだな…。
いよいよ廃墟に突入する。中は、廃墟にしては綺麗で、人が住んでいてもおかしくはなかった。
「ジーマ。こいつは、いるなぁ…」
「幽霊みたいに言うなよ…。怒られてから、ちゃんと作戦の説明を聞いただろうな?」
「聞いた、聞いた。兵士としての成績が優秀な奴は後衛で銃を撃ち、ダメな奴は前衛でゴリ押しだろ?」
間違ってはないが…、言い方があるだろ。
しかし、この作戦の後衛の人数は15人、それだけの人数が一度に発砲したら、必ず何発かあたるはずだ。グリズリーの幹部を、なるべく無傷で捕らえるという作戦をまるで無視するかのような戦術だ。
いったい、ヴェイン班長は何を考えているのか…。
「俺は助かったよ、前衛じゃなくて」
ノーガが、ホッと胸を撫でおろす。
「あれ?お前、さっきのヴェイン班長を怒らせた件で、罰として前衛にまわされるんじゃなかったっけ?」
俺はケロっとした顔で言った。
「ま、ま、ま、マジかよ!嘘だろ!?」
「ああ、嘘だぜ」
俺は笑いながら言った。
「やめてくれよ〜。マジで焦ったんだからな…」
「お前はホントビビりだな」
「……」
ノーガが汗をダラダラ流しながら、焦っていたので、流石に悪かったなと反省した。そして、そんなこと自分が言える立場じゃないということも分かっている。
突然、カタッと物音がしたので、俺は素早くトマホークに手をかけた。ノーガはそんな俺を見て、また驚いた。
「どうしたんだ!?」
「物音がした…!何か聞こえなかったか?」
「いや、何も聞こえなかったぜ。まったく、ビビりはどっちかな」
俺の気のせいか…?だと良いんだが。
「兄さん、さっきからすっかり重いのも出来るようになったね」
オレがダンベルで筋トレを始めて3時間経つ。
エリーは、僅か30分くらいで止めたが、オレは今、こうして普段使わないような重さのダンベルで、せっせと鍛えている。
「飽きないの?兄さん」
「飽きるもんか。脚が動くようになるまで続けてやるさ」
「お医者さんによると、明日には脚が少し動くようになるそうだよ。明日は一緒に走ろ?」
「お前じゃ着いて来れんさ。自分のペースで行くからな」
さっきからずっとエリーは、オレを看病してくれている。こうして、ただただ3時間続けて筋トレできるのも、彼女がいてくれているからだ。
「私お腹すいちゃった。ごはん作ってくるね」
「いくら太ったからって、ちゃんと食べないと、肌荒れするぞ?」
オレは3年くらい前に、食べ過ぎは健康に良くないと知り、一時期ほとんど食べてなかった。その結果ひどく肌荒れした(今は治った)。
女にとって肌荒れは禁物だろうからな。オレでも分かるさ。
「分かってるって。今日もしっかり食べるから」
「だからお前それが…、もういいや」
オレは呆れてしまった。彼女はそれに気づいているのか?
そういえば、ジーマ達は今頃作戦中か。うまくやってくれているといいが…。
俺達はその後も廃墟を探索し続けたが、結局何もなかった。
「まさか、情報が間違っていたと言うのか!?」
ヴェイン班長が、慌てながら言った。
やはり、さっきの物音は気のせいだろうか?俺達は、より念を入れてグリズリーの幹部を探したが、やはり居なかった。
「ロスタイムはマズイ。誰だってそんなこと分かってるのに…」
ヴェイン班長の声が暗かった。俺達ヴェイン班の班員の空気が、どんよりした空気になった。
「一度戻ろう。情報の漏れがないか、確認に行こう」
と、ヴェイン班長が作戦本部に戻ろうとしたとき、突然上から何かが落ちてきた。これは…!?
「ヤバい!皆、口をおさえろ!」
俺は叫ぶと自分の口をすぐにおさえた。しかし、班員達は反応が遅れてしまった。
すると、さっき落ちてきた物体が、何かのガスを放ちながらグルグル回りだした。あっという間にガスがその場を、包み込んだ。
そのガスを吸い込んだ班員たちが、次々にバタバタと倒れはじめた。
「これは…!毒?!」
ヴェイン班長が、倒れていく班員を見て顔を真っ青にした。すると、ヴェイン班長もふらつき始めた。
「く、そ、こんな…とこで…」
そう言うとヴェイン班長も倒れた。
「クッ!」
俺は口をおさえながら、ガスの外にでた。
「ハア、ハア」
俺の息はギリギリだった。ジーマとしての俺は、こんなこともすぐに気付けなかったのか?
班員は俺以外全滅していた。
「ハッ!そうだ!ノーガ!無事なのか!?ノーガ!」
俺は、急にノーガが心配になった。
しばらくするとガスがその場からなくなった。ノーガはその場に倒れていた。
「ノーガ!」
俺は、ノーガの方に駆け寄った。
……息はある。俺はホッとした。
「あれ?」
その瞬間、俺は奇妙な感覚に襲われた。
俺は心配したのか、ノーガを…?
人の生死など、俺にとってどうでもよかったはず。それなのに何故、俺は奴が生きているとわかった瞬間、安心したんだ?
俺は、俺が知らないうちに変わり続けているのかもしれない。俺の変化に、誰か気づいてはくれてるだろうか。
どこだ?どこだ!?どこにいるんだ!
俺は血眼になりながらグリズリーの幹部を探した。全身の神経を集中させ、周囲の風の動きを感じとる。
すると俺は、風の妙な流れを感じとることができた。素早く移動することで風が裂けていくような、奇妙な流れ。
「そこか!」
俺は背後から襲いくる、小刀を持った男の攻撃を防ぐと、少し距離をとった。
「やっと見つけたぜ…。あと少しで、お前が見つけられないイライラが、絶頂に達するところだったんだ」
俺はチラっと倒れている班員の方を見た。
「なあ、あんたなんで、あいつらを殺さないで眠らせたんだ?殺しちまえば済むことじゃないか」
ヴェイン班の班員は今、気持ちよさそうに眠っている。心配して損した感じだ。
ていうか、さっきヴェイン班長が説明していた作戦は、どこに行ったんだ!?俺以外の全員が眠ってちゃあできないじゃん!
しかし、俺が本当に気になったのは、何故眠らせたかという点だ。相手は、頭のおかしいグループの幹部だっていうのに。
「ハア…。お前さん、何もわかってないヨ」
男は、変になまった英語で言った。
「あのネ、殺しちゃあダメなノ。私の目的は、こいつらを無傷で捕らえて、奴隷として売ることなノ」
「奴隷商人か…。目的も俺と大して変わらないなぁ」
俺は頷きながら言った。
「アレ?同業者サン?」
「いいや、あんたをな。俺とあんたの目的の違いは、俺はあんたを傷つけることが許されてるってところだ!」
「アナタ、邪魔しないで欲しいネ。…アナタ、名前ハ?」
「ハア?知って何になるってんだ?」
俺は、鼻で笑った。
「奴隷商人のプロとして商品の名前を知ってなキャ。そいつの家柄で購入を検討する人もいるからネ」
「…ジーマ。あんたは?」
俺も何故か男に名前を聞いた。今日、イリーナのオヤジに、名前は良いものって言っちまったからかな?
「私は二つの顔を使い分ける奇人。一つは裏で有名な奴隷商人、もう一つはグリズリーの幹部、名前はセイント」
「セイント?やってることはまるで清くないのに?」
俺はジョークのつもりで言った。
「名前になど、人の生き方を強制する力はないネ」
「どうかな?すくなくとも俺は、名前にしめされた通りに生きているつもりだがな」
俺は、ハンターとしての自分の姿を思い浮かべながら呟いた。
ただ、利益のために人を狩る残虐な殺し屋、ハンター。俺は、名前とは不思議なものだと改めて思った。
「そろそろ行くヨ!」
セイントは、奇妙な構えをとった。俺はそんなこと気にもとめず、普段どおりに構えた。
「セイント、俺はお前を殺す気でかかる。親友に、本気出さないと怒られるからな…」
俺はそう言うと、一歩ずつ相手との距離を縮めていった。
ジーマの姿の俺の本気は、どれほどかまだわからない。でも、何故か自信だけが俺から溢れていた。
人物紹介
ハンター
別名:ジーマ・ドロー
身長:185㎝
出身地:不明
史上最強の殺し屋、ハンター。その正体とは、国で落ちこぼれ兵士として働いている、ジーマ・ドローである。
容姿は、骨に皮を貼り付けたという感じで、右腕が太く、左腕が細いという、非常にアンバランスである。
首は基本、左右どちらかの方に曲がっている。
髪はなく、普段ノーガを禿げてないのにハゲといじっている彼も、ハンターになると急に髪が無くなるため、変身するたび反省しているらしい(変身を解除すると髪はある)。
脚はすらーっと長く、彼の不気味さや、まとっている妖気を一層強めている。
一見、骸骨のような彼もしっかり感情表現ができ、たまにお茶目なところも見ることができる。
彼の運動能力と反射神経は、常人の約20倍と言われている。
彼は、ダークストーンにダークフォースを供給することでハンターに変身しているが、ダークストーンは、使用するだれもが、ハンターのように変身するという訳ではなく、変身するのはダークフォースが、ずば抜けて強い場合のみである。
彼の姿がアンバランスなのは、彼自信がサイコパスで、殺人を悪と考えてないことが原因と考えられている。しかし、サイコパス自体が非常に邪悪であるため、ダークフォースの強さは本当に尋常じゃない。
最近は、ボランティアのような感じで依頼を引き受けているため赤字で、貯金でなんとかやっていけてる状態である。
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