5話 カッコつかない

グリズリーのボスは、ウォーリーを蹴り、バランスを崩すと、すぐさま剣を振り下ろした。

「危ない!」

オレはウォーリーのために、バランスが崩れて、満足に出来ないガードを代わりにしてやった。

「隊長!?」

「すまねぇな。ハンター見逃しちまった…。…すぐ戻ってくるのもどうかなと思ったんだがな。今ある確実を正確につみとらねばな、隊員のためにも」

オレは、攻撃を横に流すと。後ろにさがった。

「お前の名前、なんていうんだ?いつまでもグリズリー、グリズリー、言うのもだんだん疲れてきたんだが」

「隊長!そいつの名前はグリズリーですよ!たぶん、隊の中で知らないの隊長だけですよ」

そうなん!?まあいい、どのみち誰もが忘れる名前だ。

オレは攻撃の間合いに入り、横振りで彼を斬ろうとした。

相手はそれを潜るように避けようとしたが、攻撃を避けたその時、オレは彼の顔面に思い切り膝蹴りをいれた。

グリズリーは、5〜6mほど吹っ飛んだ。

すかさず、体勢の崩れたところを狙いにいくが攻撃を流されて、今度は逆にバランスを崩された。

一対一の決闘において、バランスは勝利するために1番大事なものだと言っても過言ではない。

「終わりだ!死ね!」

グリズリーが剣を突き刺そうとする。

「一対一ならな」

オレはニヤっと笑った。

突然、グリズリーが血を吹き出した。

グリズリーの背後をウォーリーが剣で突いていたからだ。

「な、なにィィイ!!」

グリズリーは叫んだあと、ふらついて倒れた。

「ナイスだ、ウォーリー」

「あなたが、合図してくれるまで、退屈でしたよ。本当はあなたも必要なかったんですが」

「とか言って、おされてたぜ。マジ危なかったよ」

「そんな冗談を」

オレはウォーリーをしばらくからかって楽しんだ。




ジョセフをなんとかまいたが、肝心のグリズリーのボスを倒すことが出来なかった。

「あともう少しだったのにな…」

俺は溜息混じりに呟いた。

だがまあ、これはただのボランティアだ。ボランティアに質を求めるのはどうかと思うし、金がでないなら俺が真剣になる必要はない。むしろ、グリズリーの連中を大勢、人々のために殺したのだ。俺は慈悲深い。

だがなんだ?この、胸に突っかかってくるものは…。そういえば、なんで俺はこんなことやってるんだ?こんなボランティアなんて1ヶ月前の俺ならやらなかったはず…。いったい何が俺を変えたんだ?…いや、そんなことどうでもいい。

グリズリーのボスなら、あの生意気なウォーリーって女が倒してくれる。最後に英雄になるのは彼女だ。俺にとっても……。

そういや、なんかスピードが落ちた気がするな。最近、あまりハンターになっていないからか?殺し屋は、自分の体調管理も仕事なのに…。

まあ、気にすることじゃなかろう。帰って寝れば、いつものハンターさ。




突然、物音がしたので、オレは辺りを見回した。しかし、何もなかったので、オレはウォーリーに指示を出した。

「ウォーリー、一緒に奴の遺体をどこかへとりあえず運ぼう。今は夜中だから人が少ないが、昼間にこんな死体があったら、誰でも嫌だろう?」

ウォーリーが、グリズリーの遺体に近づいていく。ウォーリーは何気なく遺体に近づき、遺体を運ぼうとしたが。…また何か音がする。

………まさか!

「甘いぜ…、お前ら!」

グリズリーがパッと目を開けて、起き上がった。

グリズリー!?い、生きていたのか!

グリズリーはナイフをポーチから取り出した。

「危ない、ウォーリー!!そいつから離れろ!」

「もう遅い!喰らえ!」

グリズリーはそう言うと、ウォーリーに向かってナイフを投げた。

ナイフは、ウォーリーの横腹に刺さり、痛みがひどかったのか、その場にしゃがみ込んだ。

「ウォーリー!」

オレは、いてもたってもいられなくなり、ウォーリーの方向に飛び出した。

「バカがァァア!」

グリズリーはもう一つナイフを取り出し、オレに向かって投げた。

オレの右肩に刺さったナイフは、奥まで刺さり、激痛が走った。

「くッ!」

これしきの痛み!なんのぉぉお!

オレは痛みで動こうとしない身体を気合いで動かすと、ふらつきながらも立ち上がった。

しかし、オレはまた、すぐ倒れた。

「え?」

何故だ?何故だ!?身体が…う、動かん!おい、おい!ふざけるな!オレの意思ってのは、こんなとこで、終わる物じゃねぇだろ!

オレは痛みに耐えながら、必死に動こうとした。

「無駄だ。隊長さん」

「なに!?」

「これには、即効性の毒を塗ってある。これを体内に入れられた者は、3日程度、身体の麻痺が続く」

グリズリーは不気味に笑うと、倒れたままのオレのところに向かってきた。

「今、戦って、思わず思っちまったぜ。お前じゃ俺の脅威にはなれないってなァ。だから殺す必要もない。お前はァ、このウォーリーとかいう女が、俺に汚されていく姿でも想像しながら、ゆっくりと苦しみ、自殺しな」

「や、やめろォ…!」

オレがそう言うと、グリズリーが、狂ったように笑った。

「やめルゥ!?やめるかバーカ!こんなイイ女、散々ヤりまくった挙句、殺してやるよ!俺はなぁ、お前みたいな奴がいるから、こんなことやめられないんだよ…」

「なに…!?」

グリズリーはまた笑った。

「お前みたいに、他人が傷ついてるという、事実に傷ついてる優男を、苦しめるのが楽しくて楽しくて。俺は、もっとお前に苦しんで欲しいんだよ!」

グリズリーは、建物の屋根にのぼると言った。

「さらばだよ、隊長❤︎」

「許さんぞ!グリズリー!すぐお前を見つけ出して、殺してやる!」

オレは意識が朦朧としたなかでも必死に叫んだ。

「必ずだ…!かなら…ず…」

オレは毒に負けてそのまま気を失ってしまった。


目を覚ますと、そこにはジーマがいた。

「ジー…マ…」

「3日前の朝、お前に応援を要請された班が、倒れているお前を見つけて、ここまで運んでくれた」

「そうか…」

オレは俯いたまま言った。

「なあ、ジョセフ…。なんで…」

「え?」

ジーマは、悲しそうな顔で言った。

「なんで、お前は、夢の中でうなされながら、涙を流していたんだ?まさか、肩の傷と、何か関係があるのか?なあ、お前に4日前の夜、なにがあったんだ」

オレは、その言葉の意味を最初は理解出来なかったが、すぐにわかった。

すると、目から突然涙が溢れ出した。

「オレは…、やってしまった」

オレは涙ながらに言った。

「オレの責任だ。オレが油断さえしなければ、ウォーリーを守ることぐらい出来たのに」

「ジョセフ…、まさか」

ジーマは、オレをあわれむような目でみた。

オレはジーマに、これまでのことを話した。ジーマは終始黙って聞いてくれた。

「ジーマ…。オレを、罵ってくれ!バカにしてくれ!どうせオレは、大切な人が、誰かに傷つけられてることを想像することしか出来ない、ただの愚か者だ」

「ジョセフ!そんなに自分を責めるな。その場にいなかった俺は、お前を罵ることも、バカにすることもできねぇよ!だがな、お前がそんなに自分を責めてるところを見ていると…、俺には、お前が本当の愚か者に見えるんだ…」

そうさ、オレはそうなんだ。オレは、隊長なんか…。

「お前は、愚か者なんかじゃない!」

「え?」

ジーマの意外な言葉にオレは驚いた。

「お前はそのアツい性格で一体どれだけの人間を救おうとした?どれだけ救ったんだ!お前に、救われた人間からしたら、お前はヒーローだ」

「ジーマ…」

オレは必死に慰めてくれるジーマに心をうたれた。

「ジョセフ、お前は負け犬のままでは終われない!隊長として、必ずウォーリーを救うんだ!これまでと同じように」

「……ああ」

これから始まるウォーリー奪還作戦は、良くも悪くも、これからのハンター討伐作戦に大きな影響を与えるだろう。

オレよりも、冷静で的確な指示が出せる、彼女の力がオレには必要だ。

…いや、うすうすオレも気づいていた。

オレにとってこの作戦は、ハンター討伐作戦のためだけじゃないってことぐらい。




人物紹介

ジーマ・ドロー


本名 ハンター(姓は不明)

年齢 16歳

身長 163㎝

出身地 不明


ジーマは今で言う、サイコパスである。

しかしサイコパスと言っても、それは彼が、人が死ぬことや人を殺すことに何も感じないというだけであって、サイコパスというところを除けば、面倒見がよく、優しい青年である。

恋人のエリーを死ぬほど愛しており、その愛の異常さは、彼女にキモがられるほどである。

実は、ライトストーンを持ってない状態ならば、ジョセフと同じくらいの運動能力がある。だが、兵士として働く自分は、本当に落ちこぼれなので、それを利用して自分の正体をカモフラージュ出来ないか、考え中である。


次回へ続く

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