4話 ハンターとの対面

最近、ジーマとしての俺の、調子が良い。訓練中でも、少しは動けるようになった気がするぞ!

そもそも、何故ジーマのときの俺は、ハンターの俺のように動けないかというと、訓練に使用している訓練用トマホークにもライトストーンが埋め込まれており、そのライトストーンが俺のダークフォースを吸収する。

ダークフォースやライトフォースは人間の根本的なエネルギーである。それを失うと、身体のコントロールが難しくなる。

結果的に俺は、身体の研ぎ澄まされた機能の約40%ぐらいしか機能していないのだ。ジーマの状態で40%なのだ。

今でも考えてしまう、なんで殺し屋の副業を兵士にしたのかと。

という訳だが、妙にやたら調子が良い。俺の身体に何かあったのか?

「おーす、ジーマ。最近は動けるようになってきたじゃないか」

ノーガだ。ノーガも、俺の成長に気付いてくれたらしい。

「すぐ追いつくさ、お前にもジョセフにも」

そう言うと、ノーガが笑い出した。

「ジョセフを!?ムリムリ、お前じゃ何年かかってもな!」

「分からんぜ?それにお前なら簡単に追越せそうだ」

「ま、せいぜい頑張れや」

俺の背中をバンバン叩いた。相変わらず、ノーガのは痛い。

「そういや、ハンター討伐隊の奴らは、グリズリーの件も仕事に加わったらしいな。あいつら、気の毒だぜ」

「いいのさ、なんたって奴らはライトフォースに恵まれた、ヒーロー集団なんだからな。人のためにできることはやるつもりなんだろうな。さすがだぜ、金のために働くお前とは大違い」

「ハンター討伐隊を皮肉りたいのか、それとも俺を馬鹿にしたいのか、どちらかにしろよ…。それにお前だってどうせ金目当てだろ?」

「なわけないさ」

まあ、ノーガが間違ってるとは言い切れない。副業という、それに近いものだからな。


今夜は、殺し屋として働くぞ。最近は休みがちだったからな。

俺はいつものように、依頼希望者を探して街を歩いていると、1人の男が俺のほうに駆け寄ってきた。

「あの…、ハンターさんですか?」

「そうだが」

「実は、ちょうどあなたを探してましてね。依頼、聞いてくれませんか?」

「金さえ払えば聞いてやる。なんの用事だ?」

「最近、あなた以外に、人々を苦しめている悪党達がいます。そいつは…」

「グリズリーだろ?まったく、あんまり人聞きの悪いこと言うと、金額2倍にするぞ」

俺は、依頼人の男を睨みつけた。男は少し後ろにさがった。

「そうです、そいつらを殺してほしいんです」

「それはいいが、俺とあんたは商売人と客の関係で常に公平でなくてはいけない。奴らは、重要指名手配。それなりの金は貰うことになる」

男は鞄から、両手から溢れんばかりの金を取り出した。

「き、金だと?!」

「私のじゃないです。全部、街の富豪や、市民が募金してくれたおかげです。ハンターさん!これを全部あげます!この金の数で街の人々が今、どんな想いか分かるはずです。出来るだけ安全に暮らしたい、ただそれだけなんです。ハンターさんお願いします!」

男は頭を下げた。俺はちょっとアツ過ぎる客だなって思った。

男は金を俺に渡すと、その場から立ち去ろうとしたが、俺はそれをとめた。刹那、俺には何か思うことがあったからだ。

「言っておくが、グリズリーも俺も、無差別に殺人を繰り返していることには変わりない。お前はそんな奴に本当に頼んでいいのか?」

「意外ですね。そんな優しい一面があったとは」

男は少し優しく笑った。

「さっき言ったばかりじゃないか、俺とあんたは公平な立場だって。…すまんがこれは受け取れない」

「え!?ハンターさん!頼みますよ!今ならヒーローにでも…」

「俺は誰かのヒーローにはなれない。もうすでに、後戻りできないほどの罪を犯した。そんな俺に奴らを裁けと言われても、俺のビジネスのモットーである、公平とは全く違う物だと思った。だが、このまま奴らを放っておく訳にもいかん。奴らのおこす事件ほど胸糞悪いことはないからな。だから俺のやり方でやらせて貰う。ヒーローとしてではなく、悪として」

俺は金を男に返した。

「俺にだって愛するべき人はいる。だから、守りたい人の気持ちっていうのは分からなくもないからな」

らしくないとは思いつつ、弱者を救いたいという願いがあった。こんな気持ちを持つこと自体、殺し屋失格なのかもしれん。だが、こんなときに限って俺は、弱者を昔の俺と重ねてしまうのだ。


今回の目標はグリズリーのメンバーを皆殺しにすることだ。

非常に簡単なものだ。なにせ大体の、居場所は掴んでいる。かつて、人々に憩いの場として愛されたサン・ジェリーという場所がある。その付近に最近はグリズリーの目撃情報が絶えない。

そして、グリズリーのボスの顔は街中に似顔絵として貼ってある。

顔に大きな傷があり、顔のいたるところにピアスをしている。そんな特徴的な顔を見つけられないようじゃあプロ失格だな。

俺は、目的地に向かって全速力で走り抜けた。




今夜は街の空気が違う。どす黒い邪悪なオーラを2つの方角から感じる。

「ウォーリー、感じるか?」

「はい。今日は、嫌なことが起こりそうです」

「嫌なことは毎日起きてるんだがな。この空気が気のせいじゃないことを願うよ」

オレ達の仕事にグリズリーの件が加わったことで、これまでよりも忙しくなるのは確実だ。まったく、上の連中はオレ達を便利屋か何かと勘違いしてないか?

「とにかく、グリズリーはサン・ジェリーという場所の付近にいるはずだ。今日はハンターではなくグリズリーを倒すことが主な内容だ。気を引き締めてかかれ」


オレ達はサン・ジェリー付近に着いた。他の班もすでにグリズリーを探しているはずだ。

…彼らは、ハンター以上にクズだ。早く殺さなければという使命感に駆られつつ、早く殺したいという個人的な感情も混ざっていて、不思議な感じがした。

ふと下を見るとオレは、あるものを見つけた。

「ウォーリー…、これは…」

「血痕ですね。さらに奥に続いています」

「嫌な予感がする…」

オレ達はその血痕をしばらく追ってみることにした。

狭い通路、暗い通路と最初に血痕を見つけた場所より、かなり離れてしまったが、オレ達はここの近くから鉄のような匂いを感じとった。

「この匂いはおそらく、血の匂いだろう。もしかしたら、死体が近いのかもしれん」

班全体に緊張感が走る。そして、もう少し血痕を追っていくと、案の定死体があった。

「酷いありさまだ。顔面の皮膚を剥がされ、身体中に無数の切り傷…。こんなの人間のすることじゃない」

「しかし妙です、隊長。こんな傷を負ってる状態で、さっきまでの距離を歩けるとは思えません」

「確かに、ならば…もしかして」

オレは悪い予感がした。しばらくは唇が震えていた。

「もしかして…誘きだされた…?」

オレが気付いたのは2人の班員が背後で悲鳴をあげてからだった。

「なに!?」

オレが振り返ると、腕を斬られ、痛みで転がり回る隊員2人と、狂気に満ちた歪んだ顔をしている男がいた。

男は笑いながらオレに剣を突き刺そうとしてきた。オレは相手の攻撃をスルッと避けると剣を抜いた。

そして、距離を4〜5歩とると、相手からの攻撃を待った。

相手は素早く飛び出し、オレに向かって剣を振ろうとした。

確かに速い!だが、所詮遠間だ。オレに反応できない筈がない!

オレは相手の攻撃を受け流して、男の首をはねた。

男の顔は首をはねられても、不気味な笑顔を絶やすことはなかった。

「ウォーリー、2人の出血がひどい。応急処置を手伝ってくれ」

オレ達は応急処置をすますと、オレ達以外に無傷だった1人の隊員に他の班に応援の要請をしにいくよう指示した。

戦いはまだ始まったばかり、オレは冷静さを保つのに必死だった。




俺はグリズリーのボスとその部下達を見つけた。本当に似顔絵そっくりで驚いた。

まずは、上から相手のボスを倒す。そのあとはチャチャっと片付けるだけだな。

俺はボスとの距離を測ると、ボスめがけて飛んだ。そして、そのまま奴を真っ二つにする、はずだったが、咄嗟に気配を察知したのか、俺の攻撃は防がれた。

「誰だ!」

相手のボスが、俺に向かって叫ぶ。

「殺し屋、ハンターさ」

俺がハンターということを明かすと、相手は少しどよめいた。

そのなかで1人、ボスだけが冷静だった。

「ハンターか。俺達を殺せって依頼を受けたのか?」

「いや、違うね。これは俺自身の意志さ」

「何のつもりか分からんが、知る必要もない。やれ」

ボスが部下に命じると、一斉にこちらに向かってきた。

まず、左右から敵が同時に襲ってきたので、1人の攻撃は鉈で防ぎ、もう1人の攻撃は腹に蹴りをいれ、バランスを崩したあと、鉈で顔を上下に真っ二つにした。そして勢いよく鉈で防いだ方の頭も割った。

後ろからの攻撃には、余裕を持って反応し、相手の首筋を切った。

真正面から、突撃してくる男の攻撃は、受け流したあとそのまま、肘で鼻を殴り、ひるんだ隙に肩から斜めに割った。そして、俺は引き腰になっている男に飛び掛ると、首をはねた。

その後も、俺は何人かと戦い続けたが、誰1人として俺に傷を負わせることはできなかった。

真夜中の冷たい冷気を割く、街中に響く悲鳴。その悲鳴はジョセフの耳にも届いていた。




「ウォーリー!今の悲鳴は!」

「確認に行きましょう!」

応援を待たず、オレとウォーリーは悲鳴が聞こえた方向に向かって走りだした。




「さあ、残りはお前だけだぜ、グリズリーの親玉さんよ」

「ハンターの実力がここまでとは…。正直侮っていた」

「わかったら、そこから動くな。楽に殺してやる」

「誰がそんなことするかよ!」

グリズリーのボスは、素早くピストルを抜き出し、発砲した。

俺はその銃弾を避けると、小石を拾って彼に向かって投げた。小石は彼の左肩を貫通した。

「グヌ!?」

「これでわかったろ?お前じゃ絶対に勝てないってことが」

俺は、鉈を彼に向けたままジリジリと距離を縮めた。グリズリーのボスは腰をぬかして、呼吸のテンポが不規則になっていた。

「終わりだ!」

俺が鉈を振り下ろそうとしたそのとき、

「ハンター…?」

と、どこからか聞き覚えのある声が聞こえた。この声は、まさか…!

俺は左を向いた。するとそこには、この前、ジョセフの家で俺を小馬鹿にした、ウォーリーという女と、ただ呆然と立ち尽くしているジョセフがいた。

ジョセフ!?何故ここに!俺は心底驚いたが、普通を装った。

しかし、俺以上に驚いているのはジョセフだった。そりゃあ何日も必死になって探しても見つからなかった奴と、突然遭遇すると驚くに決まっている。

「ウォーリー…、グリズリーのボスを頼む…」

ジョセフはそう言うと剣を抜き、こちらに向けた。

「了解です、隊長」

ウォーリーはそれだけ言うと、グリズリーのボスにトマホークで襲いかかった。

どうやら、やる気らしいな。どうする…?今殺っちまったほうが楽だが…。

すると、ジョセフの死を悲しむ、エリーの姿が思い浮かんだ。ダメだ!そんなこと!だが、戦えないとなると…。

「邪魔が入った!また会おう!」

ただ逃げるためだけに、グリズリーのボスにそう言うと、その場を逃げた。

「待て!逃げる気か!?」

ジョセフはすぐ俺を追ってきた。

「お前らが邪魔なんだ!邪魔なんてしなきゃ逃げねーよ!」

「ふざけるな!オレと戦え!」




なんなんだアイツ!スゲェ速度で逃げやがる!

あっという間にハンターは見えなくなった。クソ!せっかくチャンスだったのに!

まあ、深追いしすぎて、グリズリーのボスと離れすぎる訳にもいかん。

ハンターを探すのはあとだ。今はウォーリーと合流し、グリズリーのボスを倒すべきだ。

オレはウォーリーと合流するために、もときた道を戻った。

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