3話 壊れゆく時間
「…マ、…ーマ!ジーマ!」
俺は誰かに名前を呼ばれ、目を覚ました。すると、俺の目の前には、火の海がひろがり、悲鳴がその場を包んでいた。
「ジーマ、生きろよ」
「あ、待って…!俺は…」
「ハァ!」
目を覚ますとそこは、火の海ではなく、ジョセフの家だった。
そして、すぐそばにはエリーが立っていた。
「大丈夫、ジーマ?汗びっしょりでうなされてたけど」
「ああ、すまない。変な夢をみていたんだ。そう、それだけ」
俺は額の汗を拭くと、呟くように言った。
「本当に悪い夢だ…」
「ご飯出来てるから、いつでもおいで。今は無理しなくていいよ」
「ああ、ありがとう」
俺は無理に笑顔を作って彼女を安心させようとした。
彼女は、不安げな顔で部屋をでると、俺は一人呟いた。
「これで何回めだ?もう許しておくれ、ハンターよ」
ハンターは神出鬼没、オレ達は今、倒すことよりも見つけることに神経をつかっていた。
「現在、我々は10の班に分けて、ハンターの捜索を行っているのですが、未だどの班にも目撃したという情報はなく、このままでは罪のない人々が次々と死にゆくことになります」
オレはイライラしていた。毎日死ぬほど働いて、成果がないというのが、どれだけ辛いことか、椅子に座ってデスクワークをこなす奴らには分かるまい!
「兵士長、どうにかハンター討伐隊の人数を増やせませんか?いくら厳選した結果とはいえ、50人では人数が少な過ぎて、ハンターを倒すどころではありません」
「しかし、これ以上増やしたところで君達の足手まといになるだろうし、犠牲者も多く出るだろう。犠牲者を増やすのは君も不本意のはずだ」
「なに!」
今の言葉でイライラが頂点に達した。
オレは兵士長の机を壊す勢いで叩いた。
「ふざけるな!兵士とは元々、人を守る職業だろうが!自分達の命を優先させるようでどうする!?」
オレは顔を真っ赤にして言った。
「隊員が死ぬのは、辛いさ!実際にオレは隊員の顔を、今もまともに見れてない。でも国民の命のほうが、兵士の命より尊いことは確実だ!今、必要なのはハンターに立ち向かう勇気と数だ!一人一人が勇気を持てば、きっと勝てるんだ」
「す、すまん。わかった。隊員を増やそう。こ、こ、これからも頑張ってくれたまえ」
兵士長は震えていた。
「ありがとう…ございます、兵士長…」
オレは敬礼をするとその場をあとにした。
ドアの奥にはウォーリーがいた。
「この前はあんなビクビクしていたのに…」
ウォーリーは驚いている様子だった。
「こんなこと当たり前だ。オレは隊長として、やるときはやる男だ」
「そうですね。あなたはやるときはやる人です」
俺が訓練所に着いたのは、普段より1時間近く、後だった。扉を開けると、周囲の様子がピリピリしていることに俺は気づいた。
「どうした?何かあったのか?」
俺は何気なく、ノーガに聞いてみた。
「ジーマ。ヤバイぜ、こりゃあ。俺達兵士の内、5人が殺された」
俺は精一杯驚くフリをした。
「なんだって!5人もか!?犯人は分かるのか?」
「え、お前、知らないのか?」
あちらも驚いていた。ノーガは続けた。
「奴らの名前はグリズリー、快楽殺人グループだよ。今は、ハンターと並んで国の重要指名手配なんだが、ある意味ハンターより厄介だ。なんたってハンターの目的は金を儲けることだけに対し、奴らは、快楽殺人、強奪、強姦のために無差別に暴力をふるうんだ」
「胸糞悪りぃな」
俺は殺人鬼だが、別に快楽のために殺しているのではない、あくまでビジネスなのだ。だから快楽のために人を殺す奴の気がわからないのだ。
「当分はこいつらから、民間人を守るのが仕事らしい。お互い、気を抜かず、精一杯頑張ろう!」
「そうだな、そんな変態集団に負けちまったら、死んじまっても笑い者だ」
「明日から隊員が増える。そうなれば、ハンター討伐の可能性もグッと伸びることだろう」
オレは今夜の指示を出しながら、ウォーリーと話していた。
「よし、皆行ったな。あとは俺らだけだ」
「隊長、少しお話が…」
ウォーリーが、いつもとは違う覚悟をした目でこちらを見る。
「なんだ、ウォーリー?パパッと済ませるような話か?」
「はい、ですが、お人払いをお願いします」
お人払いって、そんな皆がいると話しにくい内容なのか?
「お前ら、先に行っててくれないか?すぐ追いつくから」
そう言うと、班員達は何故かニヤニヤした顔で去っていった。
「なんだ、あいつら。気持ち悪いよな?あんな顔されたら」
「隊長、お話が…」
「おっとすまん。続けてくれ」
「私は…私は…」
何か喉の奥に詰まったものを吐き出すようにウォーリーは言った。
「隊長、私は…」
何か言いにくい内容なのか?オレは固唾をのんで聞く。
「私、ずっと前から、隊長のことが…好き…でした」
え?
ウォーリーがオレのことを、す、好き?
「うそだろぉお!?」
「嘘じゃないです!本当に、昔から…」
い、意味が分からない。だってこいつ、この前まで散々皮肉ってたくせに…。女は多少、正直じゃないところがあると聞いたことがあるが。考えれば考えるほどわからん!
「隊長…」
「はい!なんでしょうか?!」
「もしもOKなら、そのまま動かないでください」
徐々に彼女の顔が迫ってくる。ど、ど、どうすれば!
そうこう考えてるうちに彼女の唇はオレの真ん前に来ていた。
それから先はちゃんと覚えている。
彼女の唇がオレに触れたとき、鳥がバサバサと、どこかに飛んでいき、風もいっそう強く吹いた。
「ありがとうございます。正直に答えてくれて」
彼女は笑った。オレは彼女の唇がオレの唇に触れる前に、手で彼女の唇を止めていた。
「ち、ちが、そうじゃなくて…。本当にそうじゃなくて」
オレは慌ててるのか、それとも落ち着こうとしているのか分からなくなった。
「オレは…、女性に恋愛的な意味で好きなんて言われたことはない。だから、それが、ギリギリまで冗談だと思ってしまったんだ。オレが君と一緒にいた時間は、まだそんなに経っていない。だから、君を信じれなかった。本当にごめん」
「謝らないで…。あなたは悪くない」
「いや、悪い。だから、もっと君と一緒にいたい」
「……え?」
「君がどんな人間か、ちゃんと知りたい。上っ面なだけの恋愛はしたくない。だから、君ともっといたい。それで、改めて返事をするよ」
オレは出来るだけ満面の笑みを彼女に見せた。
「だ、だからそれまで、今までみたいに皮肉って、小馬鹿にしてくれ。今まで通り接してくれればいいよ」
「本当?」
「ああ、本当だ!……行こう、皆が待ってる」
彼女の何もかもを知った気分だ。これが恋愛か…。もっと、もっと彼女と信頼し合える仲を作りたい。時間がかかってもいい、オレが恋愛を知るまで、彼女には待って貰うことにした。
しかし、このときのオレは、オレ達に時間がないことを知らない。これから起こる最悪の出来事によって、二人の関係は切り裂かれる。
でも、そんなことが起こるなんて、この時点でオレは知る由もなかった。
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