2話 殺し屋の秘密

「何!?昨夜、ハンターが現れて、ならず者を殺しまくったとの目撃情報があるだと!?」

「そんな叫ばないでくださいよ、隊長。焦る必要はありませんから」

オレの背中にイヤな汗が流れる。それだけ緊張しているのだ。

「す、すまんウォーリー。続けてくれ」

「昨日、トラミッコ広場付近で目撃されたそうです。暗くてよく見えなかったらしいですが、特徴と一致したらしいです。すごい速さで移動しており、手には血まみれの鉈、あと首も曲がっていたそうです。あと、新しい特徴としては、右腕が太く、左腕が細いそうです。隊長、これは確実にヤツの弱点ですよ」

「弱点か。もしかしたらそうかもしれん。早速、みんなに伝えよう」

「はい、隊長」

僅かに生まれた希望。今はそれに縋るしか、隊長としての不安を揉み消すことが出来なかった。




「なあ、おじさん。俺もそろそろ店開こうと思ってるんだよ」

俺はハンターの姿でもう一度、昨夜の依頼人のところに行っていた。

「そんなことしたら、兵士に包囲されますよ?ただでさえ、あんた指名手配犯なんだから」

「そうかぁ、そうだよなぁ〜。でも、依頼希望者を探して歩き回るだけでも大変なのに、見つからないとなるとヘコむんだよな」

「私には、その苦労がわかりませんな。それだけ儲かるんでしょ?」

「まあな、一回王様の依頼を引き受けたこともあって、とんでもない額もらったことあるぜ」

俺は鼻を鳴らして自慢した。

すると丁度、昨夜救った、イリーナが貧民街では貴重な紅茶を持ってきた。

「紅茶です。温かくはないですが、どうぞ」

するとおやじが、突然閃いたように言った。

「そうだ、ハンターさん。ウチの娘を受け取ってくれませんか?あなたはこの娘の恩人ですし、あなたはお金持ちだ。どうかこの娘だけでも幸せにしてやれませんか?」

「ちょっとお父さん!恥ずかしいこと言わないで…」

イリーナが顔を赤くする。

「おじさん、悪いがそれは出来ない。俺には、この姿とは別の姿で恋人がいる。それに、殺人鬼の妻なんて君も嫌だろう?」

「そ、そんなこと…」

「いやぁ、すみませんな。急に無理なお願いして」

おやじが口を挟んだ。

「無理なお願いなら慣れてるさ」




今夜は、ハンターは現れないか。

オレは早くハンターを見つけて殺したかった。昨夜の殺人はならず者で良かったが、一般人に手を出させる訳にはいかん。

「今日は叫びませんね隊長」

ウォーリーが笑いながら言った。

「神経を集中させてるだけだよ。お前ら!何か見つかったら、オレに知らせろよ!」

「言ったそばから叫んでる…」

ウォーリーが呟いた。

ウォーリーの冷静さには、相変わらず救われている。ハンターに遭遇したとき、もしかしたら、パニックになったオレに代わって正確な指示が出せるかもしれない。

「ウォーリー、頼りにしてるぜ」

「任せてください。副隊長として、精一杯尽力させて頂きます」

女のくせに女らしい言葉は使わない。オレは、そういうところを気に入っていた。

「隊長!何か怪しい影が!」

「え!ウソウソウソ!どこどこどこ!?」

「隊長!落ち着いて下さい」

オレは深呼吸をした。すると少し落ち着いた。

「すまん…。みんな!フードを被れ!奇襲を仕掛ける!」

俺達はジリジリと怪しい影に近づいていった。次第に呼吸のテンポが早くなる。あと、数歩の間合いに達したとき、オレは一斉に声をかけた!

「突げ…」

「待った!よく見て下さい」

ウォーリーが止めをかける。俺達は全員、目を凝らして見た。

「ただの、行商ですよ。まったく、あなた達全員、大袈裟なんだから…」

「あんた達若いノォ。そうじゃ、よかったらこれなんかどうじゃ。喉に効く薬じゃ。あんたよく叫びそうじゃならノォ」

「いいじゃないですか、隊長。買っちゃえば」

ウォーリーが悪そうな笑みでオレに言う。

「じ、じゃあ一つ貰います」

おのれ、ハンター!




今日は、休業だ。

ジーマの体で訓練すると物凄く疲れる。それに今日は人を殺す気分じゃない。それは、

「ジーマ!こっちこっち」

「ちょっと、エリー。速すぎ…」

「だって久しぶりじゃない、あなたが家に来てくれるなんて」

「最近は忙しかったからな」

そう、今日はエリーとジョセフの家に遊びに行くのだ。まあ、俺の目的はそこじゃないんだがな……。

ジョセフの家に着いた。小さいが、二人で暮らすには、これくらいが丁度いいのだろう。

「ただいま〜!」

エリーが勢いよくドアを開ける。

「おかえ…り…、エリー…」

ジョセフがやつれた顔で俺達を迎えた。

「お、お兄ちゃん!?」

「ジョセフ!」

俺達は駆け寄った。まずいぞこれは。

「ジョセフ、しっかりしろ!すぐ、医者を…」

「ああ、大丈夫。睡眠不足なだけだから」

エリーがケロッとした顔で言った。

「え!?」

「おお…ジーマ。いいところに来た。たった今仕事から帰って…来たばかりなんだ」

「いや、俺もだが!?」

なんて奴だ。俺は仕事を終えて、ここに遊びに来た。でも奴の勤務時間は夜だったはずだ。それでたった今帰って来たって…、一体どれだけ働いたんだ?

「悪いがベットまで運んでくれ…。これじゃ、一睡もせずにまた勤務時間が来ちまう」

「一睡もせずに!?わかった、すぐ寝かせてやる!」

俺はジョセフを持ち上げた。身長が高くて抱えにくい!

「じゃあ、私は夕飯の支度をしとくね〜」

エリーはキッチンに向かった。

「うオー!頑張れジョセフぅぅう!」


〜2時間後〜


「おさがわせしてすまないな、ジーマ」

ジョセフは頭を下げた。

「とんでもない。ジョセフにはいつも世話になってるからな」

「今日は泊まっていくんだろ?言っとくが、エリーだけは絶対に襲うなよ?」

「襲わねぇよ!」

俺は顔を真っ赤にして言った。そんな俺を見て、ジョセフは笑った。


コンコンコンとドアをノックする音が聞こえる。

ジョセフは、はーいと返事をするとドアに向かった。

ドアを開けるとそこには俺の知らない女性がいた。

「ゲっ!ウォーリー…」

「隊長、お仕事の時間です」

ジョセフの顔がひきつっていた。その顔を見てウォーリーという女性が笑う。

「誰だ、ジョセフ?彼女か?」

俺は腑抜けた声で聞いた。

「あなた、ジーマさんですね?」

「知ってんの!?」

「はい、有名ですよ。なんたって15期生のビリの成績ですもんね」

ウォーリーが嫌みったらしく言う。するとジョセフがウォーリーを睨みつける。

「失礼しました、ジーマさん。さあ、隊長。お仕事に向かいましょう」

「はぁ。隊長辞めようかな」

ジョセフが呟いた。

分かったぞ!さっきのジョセフの顔はこいつのせいだったんだ!こいつがジョセフをあんなに疲れさせてるんだ。なんて野郎だ!17xx年イギリカ一持ちたくない部下大賞を受賞しそうな仕事バカだ!

ジョセフがイヤイヤ着替え始める。ジョセフ…気の毒だなぁ。

ジョセフは悲しそうな顔で家を出て行った。まるで、餌をとりあげられた犬のような、そんな顔であった。


「ジーマ、ご飯作って♡」

エリーが、甘えた声で言う。

「なんで、おれが…」

「だって、ジーマの作るご飯美味しいんだもん」

「お前が作るメシが不味いだけじゃないのか?」

エリーはよほどショックだったらしく泣きそうになっていた。

「ごめん、嘘だよ。ただ、こういうのって女性がするもんだと思ってさ」

「今日のご飯、美味しくなかったら許さないから…」

「エリー…」


「はー美味しかった」

「よかったよエリー。気に入ってくれて」

どうやらエリーとの仲直りは成功したようだ。

「もうこんな時間だな。あとは寝るだけだな」

一見、普通に聞こえるこの言葉。しかし、これが何を意味するかは男子ならお分かりのはずである。

これこそが今日、俺がここに来た本当の理由。ジョセフは襲うなと言ったが、そういうムードをつくれば、襲わずとも…。

「俺はお前が好きだ、だからどこにいってもお前といたい」

「や、ヤダ。何言ってんの?」

彼女の顔が赤い。俺は続けた。

「仕事中でも、料理中でも、ベッドの中でも」

「じ、ジーマ、きもー」

そうして、俺達は別々の部屋で寝ることになった。

クソー!失敗した!

はぁー、俺の数時間はどこにいったんだろ。

……いや、俺の数時間は本当に充実していた。彼女といると、なんだか、心が満たされたような、そんな気持ちになる。俺にも守るべき人ができたってことか?

俺には、わからん。

今は眠い。明日に備え、寝るとしよう。

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