落ちこぼれ兵士は殺人鬼!?

@Yubo

1話 殺したい

俺の名前はジーマ・ドロー、兵士をやってる。

俺らは皆日々、王のために活躍するための鍛錬を行っている。

そもそも兵士とは王のボディーガードをしたり、国の平和を脅かす悪を退治したりするのが仕事なのだが、少ない休憩時間で身も心も休めるのも仕事である。

一見堅苦しい職業に思えるが、実はあまりそうではない。休憩時間中には談笑したり賭け事をしたりする。

そんないつもの休憩中の出来事である

「おい、聞いたか?またハンターが現れたって」

「聞いたぜ。今度はあの館の主人を殺したってな。いまやこのイギリカはあいつ一人に恐怖で怯えてしまっている」

いつも通りの会話である。これがいつも通りってのは若干違う気がするが少し前からいつも通りなのである。


17xx年、裏で密かに魔法が流行しているこの世界で、ある男が現れた。

その男の名前は、ハンター。

殺し屋としての腕を見込まれ、イギリカの王に、単身でアメリスの王の暗殺を命じられる。イギリカとアメリスは何十年も前から戦争をしており今尚、お互い緊張状態である。

当然、王や国民は成功するとは思ってない。この依頼は殺し屋の死刑を兼ねた、できるだけ敵の兵力を削ぐだけのものでしかない、王はそう考えていた。

しかし結果は違った。なんとハンターは無傷で生還し、アメリスの王の首をイギリカの王の前に投げ捨てたのだ。

戦争が終わり、国民は歓喜に溢れる一方、新たな恐怖が国を覆った。それは、ハンターという謎の最強殺人鬼の存在である。

ハンターの実力を恐れた王はハンターを指名手配し、現在に至る。


「そういや今日は今月の成績発表の日だったな。誰か見たやついないか?」

「あ、俺みたよ」

俺がふっと言うと皆こっちを向いた。

「おい、俺は何番だった!」

「バカ!俺が先だ!」

皆が俺の方に押し寄せてくる。

休憩時間なのだから見にいけよ!そんな言葉言う暇もなく俺は押し潰されるのを防ぐことで精一杯だった。

「待て!皆」

奥から声が聞こえる。ジョセフだ。

「それよりこのジーマの成績の方が気になるだろう」

か、勝手に話の話題を俺に変えやがった!

皆の目の色が変わった。

「ジーマ、何番だった?!」

「聞かせてくれよおい!」

皆俺を見てる…。マジかよ、言わなきゃならねぇ雰囲気になりやがったじゃねえか。

「俺は…」

「お前は……!?」

意味のわからないノリで僕を煽ってくる。しゃあない。

「俺は42だよ」

皆から笑顔が消えた。そして互いに目をあわせるとまたこっちを向いた。

「42ってまさかあの…!」

「そうさ、42番ってことは最後から2番目ってことだよ」

皆がこっちを向いて笑い出した。

ば、馬鹿にしやがって!

「おいおい、みんな止めないか。それとジーマ、お前も終わったことは忘れて、次に頑張ればいい」

ジョセフが皆を止めてくれるとともに俺を慰めてくれた。あ、アニキぃ!

ジョセフは俺より2歳年上で、人格的にも優れ、皆をまとめあげるリーダーシップも持ち合わせており、おまけに正義感も強い。王のために尽力しようとしている数少ない人物だ。

そんな彼の成績は当然よく、今回の成績も5カ月連続1位だった。しかし彼はそれを誇らない。それは自分がトップだということは、敗者がいるということ。その敗者には最大限敬意を払う。ジョセフは俺らの憧れだった。

「おーいジョセフ。兵長が、お前を呼んでたぜ」

大きな声でジョセフを呼ぶ彼の名前は、ノーガ。俺の親友だ。

「兵長がオレに…?わかった、すぐ行く」

そう言うと、ジョセフは足速に兵士長のところに向かった。

「あーあ、いいよなぁ、ジョセフは。俺なんて兵長のところに行ったのは、つい先日花瓶をわって怒られにいったときだぜ」

ノーガがつまらなさそうに言った。

「お前はしょっちゅう行ってるだろ」

僕はノーガに皮肉を込めて言った。

「そうじゃねぇよ!ヤツはイイ意味で行ってんだよ!俺は悪い意味だよ」

「ジョセフはなんでも出来るからなぁ。きっと重要な任務のことについてだろう」

「おいジーマ、お前羨ましくないのか?」

ノーガは腑抜けた声で言った。

「そりゃ、羨ましいさ。だがな、俺と奴とは天と地ほどの差がある。ジョセフについて妬むのは、俺が奴と同じぐらいの実力になったときさ」

「実力ねぇ。そういやぁ、お前何位だった?」

答えたくもねぇ質問しやがって!

「42位だよ。なんか文句あるか?」

周りが、また笑い出した。そんなに面白いか?最下位だった奴は気の毒だな。

「42位ってお前、実質最下位じゃねぇか」

「え?」

俺は思わずとぼけた声をだした。

「だってここ1カ月ここに来なかった奴いただろ?母親が急病で。だから実質最下位」

嘘だろ〜!なんでだ。なんで成績がこんなにも悪い!

「まあまあ、今日は飲みにでも行こうや。愚痴でもなんでも聞いてやるからさ」

ノーガが、いきなり肩を組んでくるので、思わず倒れそうになった。

「あー、ごめん俺、彼女とこれから食事しに行くんだ」

「へ?お前彼女いたっけ?」

ノーガは驚いたような顔をしていた。

「おいおい、知らないのかよ、ジーマの彼女」

少し離れたところで先輩の兵士が言った。

「あいつの彼女は、ジョセフの妹だぜ?あのジーマが」

ノーガが悲鳴に近い叫び声をあげた。

「嘘だろ、オイ!うわー、俺密かに狙ってたのにぃ」

ノーガが頭を掻き毟りながら、駄々っ子のように言った。

彼女の名前はエリー、ジョセフの妹だけあって非常に優しい。俺と同い年だ。

「ジーマ、エリーちゃんが呼んでるそうだぜ」

同じ班の仲間が伝えてくれた。

「ああ分かった、すぐ行く。じゃあみんな、また明日」

俺は部屋の出口に向かった。

「デートなんかしてるから、お前の成績は悪いんだぞ!」

うっ。

刺さるようなノーガの言葉はしばらくの間、頭から離れることはなかった。




「ジョセフ、お前に一つ頼みたいことがあるんだが、頼まれてはくれぬか?」

兵長がオレのほうを向いて、いつになく真剣な表情でこちらを見る。普段ならここら辺でつまらんジョークをいうのだが、よほど重要なことに違いない。

「ハンターの被害者は増えていく一方だ。そこで今回の話し合いの結果、我々はハンター討伐隊というのをつくった」

「は、ハンター討伐隊ですか?それで私は何を…?」

「ジョセフ、お前は今日から…、ハンター討伐隊の隊長になってもらう」

な、ハンター!?オレが?

俺は大きく目を開いた。

「お前の働きは非常に、上の人間から評価されている。そこでお前に、なるべく早くハンターを殺してほしいそうだ。実際、被害者も増えている。お前の正義感を信じてのことだ」

迷う必要はない、オレは…。

「是非やらせていただきます」

「よし、今日からお前は討伐隊の隊長だ。隊長として、しっかりとした指揮をたのんだぞ」

敬礼をしたあと、部屋をでた。

やっとだ。やっとこの手でハンターを殺せる。

この国の最大の恐怖、ハンターの存在を消すことができれば、多くの人々の命を救える。

だが不安もある。隊員は何人いるんだ?ハンター討伐隊なんて初めてだし、隊長として明確な指示はだせるのか?ああ、考えるだけ無駄だ。実際に見てみないと。

オレは討伐隊の訓練所に向かった。

訓練所の中には、オレたち15期生のトップ10の成績の者だけではなく、11期から16期まで総勢、50人の精鋭揃いだった。

しかし、オレにはこの数でも奴に勝てる気がしなかった。この討伐隊は確かに精鋭揃いだが、相手はアメリスの王の首を無傷でとった男、この数では勝てないと感じた。

討伐隊の隊員は休憩時間に入ると、何やら武器の手入れや自分の動きについて、研究していた。

「すごいな」

オレは思わず声を出してしまった。

特に、武器の手入れをしている隊員の武器の状態は非常に素晴らしい。

裏で魔法が流行っている近年、国はある魔法石の開発に成功した。その魔法石の名前は、ライトストーン。

このライトストーンは人の正義に反応し、正義感が強ければ強いほど、力を与えるというものだ。

力に変えられる正義感をライトフォースという。このライトストーンは現在、イギリカの兵士だけが所持を認められており、一般の市場には出回ってない。

昔、ダークストーンという邪悪なる者に力を与えるという石があったという言い伝えからヒントを得て開発されたらしい。

言っておくが、オレの今の成績はライトストーンのおかげじゃないぞ!ま、まあ多少はあるかもしれないが…。

…自分の正義感には自覚がある。というか鬱陶しいくらいだ。

でも、こんなもので人が救われるなら、上手く付き合っていける。どんな長所も短所も自分なのだからな。

「皆、注目してくれるか?」

オレは皆に声をかけるとパッとオレの方に振り向いた。

「オレはこの隊の隊長に就任したジョセフって者だ。急だが、今日からハンターの討伐作戦を開始するか、それとももう少し策を練るか、多数決をとろうと思う。自分が良いと思う方に手を挙げてくれ」

隊員達は挙手をした。多数決で後者が僅かに上回り今日から作戦が開始されることが決まった。

その結果が決まり、どこか不安げではあるものの、後者が上回ったということは隊員達が自分達の実力に自信があるということなので、オレは彼らを信じることにした。

その後しばらく話し合った結果、5人のグループに分かれ、ハンターを捜しだす。そしてハンターに遭遇した場合、一人が近くを捜しているもう一つのグループに応援を要請する。

ハンターは神出鬼没なので、なるべくグループに分けて捜す必要がある。5人で分かれれば、10グループ作れる。この作戦で決まった。

決行が今夜の6時からなのは、ハンターが依頼人を求めて街を歩きまわるのが、6時からだというのと、オレが、なるべく早いほうが良いと判断したからだ。

ハンターについてオレ達は知っているようで知らない。目撃者による証言では、なんとも言えない不気味な妖気と、首がどちらかに曲がっているらしい。後者はひょっとして彼の弱点ではないのか?

それを知るためには、なるべく彼と接触しなければならない。そして、この作戦に犠牲者ゼロなどありえない。誰かが死ぬ、だからオレは、最後に彼らの顔を見ることが出来なかった。




まだ陽は沈みきっていない。時間は午後の6時…。

最悪の殺し屋として俺が活躍し出したのは、つい最近のことである。俺に依頼するのに特に金以外の条件はないが、その分高く請求する。だから俺は非常に儲かる。

……依頼人によく質問されることがある。それは、「人を殺して、罪悪感はないのか」と。

答えはNO。人を殺してはいけないというのは所詮、人が決めたことであって、罪悪感のない自由に生きる人間にとっては、何も思わない。

精神に異常があるのは認める。だが、そんなことでさえも人が、普通であるために創り出したものだ。

俺にとって、殺人はビジネスだ!快楽も恨みもそこにはない。ただのビジネス、それが殺人さ。

俺は、俺を必要としている依頼希望者が、誰かいないか探し回った。


〜2時間後〜


2時間探し回ったが誰も依頼希望者がいない。いやまあ、いる方が珍しいんだが。

依頼には、どんな奴でも高額を請求するしな。まあ、高級ブランドのようなものだ、俺は。

高額を請求する代わりに、確実に依頼をこなす、だから依頼者へのリスクが少ない。実績もあるしな。

まあ、依頼者がいないならしょうがない。あそこ行くか。


俺は、例のあそこにきた。そのあそことは、貧民街である。

貧民街とは、富と社会的地位を失い、居場所のなくなった人々が集まる街だ。子供だっている、そんな子供は決まって親を呪っているものだ。

貧民街の面積は年々、その面積を広げていっている。


……ただの暇つぶしさ。表の世界には飽きた。富を求める人間が多すぎて、皆に代わり映えがあまりしない。いや、いや、まあ変わってる奴もいるが、特に兵士とその関係者はな。

そんな奴らと違って貧民街の人間達は一人一人個性があるのだ。失ったもの達の怒りが、喪ったもの達の悲しみが変えてしまったのかもしれない、ここの奴らを。

表世界にいる人間だったこのゴツゴツした石は、金という岩に転がり、ぶつかり続け丸くなったのかもな。優しいのだ、優しさなど殆ど持ち合わせていない俺にとって。

「ハンターさん!」

貧民街でもかなり年配のおやじが俺を呼んだ。

「依頼してもよろしいでしょうか?」

「誰の依頼でも聞くさ。金があればな」

「お金…ですか…」

おやじは残念そうに言った。

「あんた名前は?」

俺は顔を見て聞いた。

「名前など…もうどうでもいいのです。ハンターさんは何故ここに?」

「暇つぶしさ。依頼希望者がいなくてな」

俺は名前を不要だと言っているおやじに聞きたいことがあった。

「なあ、あんたは何故、こんなところで暮らしてるんだ?あんたの顔、どこかで見た気がするんだが」

「昔は私も武器を売って、大儲けしとったんです。でも、新しい武器をつくることに大金かけて、それでも失敗して…」

「なるほどな…。子供はいんのか?」

「いますとも、二人娘が。でも2年前、悪い奴らがここに来て、誘拐してしまったのじゃ」

おやじの手は震えていた。……別に可哀想じゃないさ。こいつは利益を求め過ぎたために失敗し、娘を失った。それだけのことだ。

「もう一度、娘に会いたい…」

「それがあんたの依頼か?」

俺は聞いた。

「え?」

「早くしろ。あんまり時間をかけたくない」

「でもお金が…」

「言ったろ?ただの暇つぶしだって」

「はい!その悪い奴らなんですが、トラミッコ広場の近くに、小さなボロ屋があるんです。そこが奴らのアジトです」

「よく知ってるなぁ…。トラミッコ広場付近の小さなボロ屋ね…。すぐ戻る」

そうして、真ん中に0ドルと書いた領収書を渡すと、俺はトラミッコ広場に向かった。




「ハンター!どこだ!」

「そんな呼んでも出てくるわけないでしょう、隊長」

オレは焦っていた。こうしてる間にも、奴は人を殺しているかもしれん。

「急がねばならんのだ…。もう奴の好きにはさせん!」

「もう夜っすから、大声で叫ぶのはよしてくださいね」




「ここか…」

俺はそれらしき場所にたどり着いた。

ドアを蹴飛ばすと、今にも女を襲おうとしている男のグループが一斉にこちらを向いた。おそらく、彼女が…。

「なんだ、お前?」

「お前らを殺せと依頼があったんで、悪いが死んでもらう」

俺は武器を抜いた。俺は、邪悪なる者に力を与える石、ダークストーンの使い手。そう、兵士達が使っている、ライトストーンのモデルになった代物だ。

ダークストーンが不気味に光る、カボチャを簡単に真っ二つにするような鉈。

「俺に力を貸せ、ダークストーン」

俺が呼びかけると、一層強く光る。

「お前ら!やっちまえ!」

男二人が小さなナイフでこちらに向かってくる。

男がナイフが横振りに振ってきたので、俺はそれを潜るように避け、鉈で横腹を切り裂いた。そして、もう一人の男に死体を投げつけ、バランスを崩したところを、鉈で頭を割った。

鈍い音が鳴り響くと同時に血が飛び散る。

俺は次に、背後から剣を突き刺そうとしている奴を一瞬で反応し、鉈で剣を叩き割ると、首をはねた。

「な、なんだよお前…」

「お前に知る必要はないさ」

俺はいたって冷淡に言った。すると、二人の男が逃げ出そうとしたので、二人の足を斬ると、首に、さっき殺した奴らのナイフを刺した。

ボスらしき奴は震え上がって、小便を漏らしている。

「や、やめてくれ!お、俺がお前に何したってんだ!?頼むから殺さないでくれ!」

「駄目だね。そんなことしたら、客の信頼を失って、依頼が減っちゃうだろ?ただでさえ、こっちは客が少なくて困ってるんだ」

「う、う、ウワァァー!!」

男の顔が引きつった、そして小さな刃物でこっちに突撃してきた。

それをヒョイっと避けると首筋を切った。血が噴水のように飛び散る。

俺や、依頼人の娘らしき女は、ものすごい量の帰り血を浴びた。

「ご、ゴえ!ゴォ!」

男が必死にもがく、そんな男に俺は一つ忠告をした。

「あの世では、誰かの恨みを買わんようにな」

俺は、女のほうに近く。

「あんた、元富豪の、2年前に誘拐された娘か?」

「は、は、は」

呼吸が荒い。まともに返事ができんようだ。

「落ち着け、あんたは殺さん。あんたは元富豪の娘でいいのか?」

「……はい」

「もう一人は?」

「奴らに殺されました…」

「…そうか」

俺は娘を抱えると、依頼人のもとに戻った。


「い、イリーナ」

「父さん!」

二人は抱き合って、おうおう泣いた。

「ハンターさん!その…、なんとお礼を言ったらいいか」

「幸せにな」

俺はそう言い残すと、その場を去った。

そして、人気(ひとけ)のない場所に行くと、ダークストーンへのダークフォースの供給を止めた。

すると、するすると人の形をした化け物から普通の人間に戻っていく。

こうして、俺の1日は終わる。実を言うと俺は兵士もやっている。

昼は兵士、夜は殺し屋だ。

…俺は兵士としての俺は好きではない。弱すぎるのだ。殺し屋としての俺と比べてじゃなく、普通の人間と比べて。

俺の名前はハンター、またの名を


ジーマ・ドローという。


陽はまた昇る。俺は昼間の支度をするために自宅へ帰った。

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