『進化』
アルトレアが仲間になった後、シキ達はランスロットを走らせてバルリムではなくある場所へと向かっていた。
「……あの、何処に向かってるんですか?」
「アルトレアが盗賊に追われている時に俺とリゼットも襲われていてな。勿論返り討ちにしたけど、その一人がアジトの場所を勝手に吐いていたからその場所に向かってるんだ。……もしかすると捕まってる人がいるかもしれないからな」
「え……えっと、大丈夫なんですか?」
「安心しな!腕には自身はあるぜ!俺もシキもな!」
「何か……すみません。御二人に頼ってばかりで……」
何処と無く力が無い事にシュンとなってしまうアルトレアだったがその頭を荒々しく撫でるリゼットがいた。
「何言ってんだ。どんな強い奴も元々は力のねぇ餓鬼だったんだぜ。それに今は弱くてもこれから強くなっていくんだ。だからそんなしょげた顔すんじゃねぇよ。」
「は……はい!」
中々臭い台詞を吐いたリゼットだがその通りだ。強き者はかつて弱く、弱くてもこれから強くなっていく。その『強さ』は力だけではない。人それぞれ、十人十色なのだから。その人の数ほど様々な『強さ』があるのだ。
それはリゼットもわかっているのだろう。
「それに才能が無いからってそんな卑下することもねぇんだ。俺だって婆ちゃんから『才能無い』って言われてたんだぜ?それでも努力はしてきたんだ。その努力があってこそ今の俺がある。だからアルトレアも頑張れって言わねぇが出来る出来ないで勝手に判断するんじゃなくてとりあえずやってみろ。わかったな?」
「……うぅ」
「はぁ!?何で泣きそうになってんだよ!」
「ご……ごめんなさい。ボクの為にこんな言ってくれるんなんて……嬉しくて……」
リゼットはやれやれと思いつつもわしゃわしゃとアルトレアの柔らかな金髪の髪を撫でていた。その光景は姉妹の様で、母親が子を慰めているような微笑ましい。
ーーーブルルル……
「ん?そろそろ着くか。ありがとなランスロット。」
ーーー♪♪♪
ランスロットは気を使って少し小さめの唸り声で目的地についた事をシキに伝えていた。お礼を言うと尻尾をフリフリさせている。中々できた馬だ。
「(ま、もう少しこのままにさせておくか……)」
そう思いながらもリゼットとアルトレアの姿を見ながら少し懐かしいと感じていたシキだった。
~~~~~
盗賊のアジト近くにランスロットを止めるとリゼットとアルトレアを呼び掛けた。
「俺も行くぜ!」
「ぼっボクも!」
「……ランスロット一人になるぞ?他のモンスターに襲われるかも……」
「前にウルフの群れをを蹴り飛ばして倒してたぞ?」
「え!?ウルフは個体ならEランクですけど群れになったらDランクにもなりますよ!凄いですねランスロットさん!」
ーーーブルルル♪
「……そうだったな」
確かに休憩している時にはよくウルフ等の肉食系モンスターに襲われるがリゼットと共に蹴散らしているのを目撃したことがあった。リゼットも強いがランスロットも馬の中でもかなり強くなっているのではなかろうか?
ーーーブルルルン!
「……ランスロット一人で待つのか?」
ーーー(コクン)
「わかった。気をつけるんだぞ」
シキはランスロットの頭を撫でる時に[付加]で身体を強化をさせる。何をされているのかわかったのか気持ち良さそうにランスロットは目を瞑っていた。それが終わるとリゼットとアルトレアと共に盗賊のアジトへと向かっていく。
アジトの前には2名の男が見張りをやっていたが透かさずシキは[漆黒]のナイフを二つ生み出して投擲する。
「ぐっ!?」
「ぁ……?」
[漆黒]のナイフは額と喉笛に突き刺さって男2人は静にその場で倒れ込んで絶命した。
「シキさん!?それは何ですか?見たことも無い魔法でしたけど!?」
「企業秘密」
「それより相手の方に気付かれる前に入り込もうぜ!」
シキとアルトレアはリゼットの言う通りにアジトへと侵入する。
「シキ、アルトレアを任せるぜ!」
「あ、おいっ!」
敵が現れるとリゼットは腰の鞘から太刀を抜き出して戦闘モードとなっていた。
そこからは無双だった。
『何奴!?』的な感じで立ち向かってくる盗賊達の斬り倒し、何名か強そうな武装をした者がいたがリゼットの太刀には無意味で文字通り、武装ごと斬った。
シキはアルトレアを守りながらリゼットのサポートをしている。殆んどが[漆黒]のナイフで盗賊の首、額だけでなく手足にも投擲して突き刺していた。
約10分程で盗賊達は殲滅されて全て赤く濡れた遺体となっていた。
アルトレアはその惨状を目の当たりにして思わず嘔吐してしまう。
まだ14歳の子供で可哀想だとは思うがこれは彼女がそれを知った上で来ているのだ。
それはあの勇者達の様に生半可な覚悟ではない。本気だ。
「う……うぅ………」
「落ち着いたか?」
「すみません……大分落ち着きました。」
吐き出す物を出し終えて立ち上がるがまだ気分は良くないようだ。
「リゼット、アルトレアを頼む」
「おう!シキは?」
「部屋を見てくる」
「気をつけてな」
「あぁ」
シキはアジトの小部屋を一つ一つ探るが特に気になる物は無かったが、最後に奥の部屋に入る。
「……っ!」
その部屋には鎖に繋がれた女性達がいた。
恐らく連れ去られた者達だ。人数は4名。
全員が泥の様に眠っているが服装は剥がされた様子は無い。
「誰です……か?」
一人の女性が起きてしまう。
その声は弱々しく酷く疲れきっている様だ。
シキは透かさず白ローブを着て顔を隠す。
その一人の女性が起きた為か次々に女性達が目を醒ました。
その中で一番年長であろう20前半の女性が話しかけてくる。
「貴方は……?」
「……偶々ここを通りがかってね。盗賊達は全員始末しましたよ。貴方達もここから出ましょう。」
「……でも鎖が」
「任せて下さい」
『ホワイト』になって女性達の鎖を一つ一つを素手で破壊する。
加えて身体が汚いのと怪我をしている者が多くいたので[治療術]を発動した。
ホワイトから放たれるエメラルドグリーンのオーラは女性達を包み込んで切傷や土汚れを全て消えていった。
「身体が……!」
「足首の傷も!」
「目の傷も治ってる!」
「身体も綺麗に……」
「少し聞きたいんですけど……」
シキは女性達に盗賊に何かされなかったか聞いてみるとここにいる誰一人犯される事はなかった様だ。確かに服装も剥がされた形跡は見られない。だが彼女達は奴隷として売られてしまいそうだったということだ。
襲われて捕まったのが昨日らしい。
他に盗賊達の性的な道具にされていた女性達がいたらしいがその人達は最後に殺されて何処か捨てられた様だ。
もし今日助けてもらえなかったら犯されていたと涙を流しながらホワイトに感謝していた。
「(だが、結果的には間に合わなかったか……仕方がないな)」
その殺された女性達は救えなかった事に後悔してしまうが、だからと言ってシキがどれだけ強かろうと守れる範囲が限られている。救えない者だって沢山いるのは事実だ。守れるとしたらリゼットやアルトレア、ランスロット位だろう。
「皆さん、ここから出ましょうか?」
彼女達をここから離れるとリゼットとアルトレアの元へと向かおうとする。
ーーーヒヒーンっ!
「ランスロット!?すまないが君達はここにいといてくれ!」
突如ランスロットの鳴き声が響き渡る。
まさか何かあったのでは!?とシキはアジトから外に出ると既にリゼットとアルトレアの姿も見えていた。
だが2人は何か凄いものを見るように驚いていた様だ。
「どうした!?」
「……シキ、お前ランスロットに何かやったか?」
「み……見てください」
アルトレアが指差す方向には……。
ーーーヒヒーンっ!
バコォォオ!!!
ーーーギャンッ!?
ランスロットが自分と同等の大きさのウルフを蹴り飛ばしている所だった。
蹴り飛ばされたウルフは木にぶつかると痙攣して、最後には力無く動かなくなった。
しかもランスロットの直ぐ側には同じウルフが2体も同じ様に絶命していた。
ーーーヒヒーン!
するとランスロットの身体が淡く光だすと茶色い毛色は黒色に変化して、身体も引き締まった感じにすっとしている。大きさは変わらないが。
「……これは?」
「今ランスロットは『進化』したんだよ。まあ3体のウルフリーダーを倒せばそうなるはな」
「ウルフリーダーってDランク上位のモンスターなんですよ。それにランスロットさんはEランク最弱に入るノーマエクウスなんです。言い方は悪いかもですが、Eランクモンスターの中でも最弱のモンスターが上のDランクのウルフリーダーを倒せる筈……はないんですが……」
「(……やり過ぎたか?)」
シキ本人はランスロットに[付加]を発動して強化はさせたがあれだけ蹴散らす程だとは思わなかった。
まあ、ランスロットは無事ならそれでいいかと開き直ったが。
「シキ、何かやったよな?」
「……企業秘密だ」
「まぁ、いいけどよ」
リゼットとアルトレアには監禁されていた女性達の事を話した。
そして目立ちたくないので『ホワイト』と言う存在に頼まれて女性達を保護しようと結論に至る。
だが2人は『ホワイト』?という感じだったが『色々あるんだ』と説明するとなんとか納得してくれた。
シキは白ローブから黒ローブに着替えて待っている女性達を迎えにいくのだった。
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名前 ランスロット
性別 雌
ランク D+
種族 ニグルム・エクウス(特異種)
職業 馬車引き・闘馬
レベル 1
体力 3600
魔力 2400
筋力 3800
耐久 3250
俊敏 3750
ーーー
[固有スキル]
魔力適応
忠誠心
ーーー
[スキル]
強化.3
風魔法.0
雷魔法.0
木魔法.0
魔装.1
**.0
ーーー
[称号]
シキの仲間
可能性を秘めし者
ーーー
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