アルトレア


とりあえずアルトを落ち着かせた後、シキは何故男から女へと性転換したのか推測を含めて説明する。その説明を聞いて酷く落ち込んでいた様子だったがポツリポツリと自分が何故盗賊に襲われていた経緯を話していく。


「実は……ボク、ある国の貴族の次男なんです。爵位は公爵で……魔力が他の人より多いみたいで……最初は大事に育てられていたんですけど……儀式で才能が無いって分かってから……父上に怒られて……それから地下室で一人で過ごしていたんです。それでも、幼馴染みで恋人だったレーラとボクの専属の使用人だったマリンはそんなボクに優しくしてくれていました……いつか必ず助けるって……2人は言ってくれました……でも、……それは……嘘で……レーラとマリンは兄上と……デキていて……二人に言われたんです……『遊びだった』って……それで……その後、家から勘当されて……その時に……転移石で……あの森に飛ばされたんです……」

「……母親は?」

「母上はエルフで……元奴隷でした。ボクを初めて出産したのと同時に亡くなりました。」

「……そうか」


アルトの話を聞いて何故あれだけ絶望した表情を、あんなにボロボロな身体に服装だったのかは理解する。


「……あの本は……転移された時に近くに落ちていた物です。中身は何一つ文字も書かれていませんでした……まさか、あの本のせいで性別が変わるなんて……」


今は勘当された事より性別が変わった事がより深刻な様子だ。

そんな時にリゼットがあることを思い出す。


「まさかだけどよ、その本ってのは『古代魔具アーティファクト』じゃねぇのか?」

「え……でも、あの本には何も……」

「有り得るぜ?殆どの『古代魔具』はその使用者に何かしらの能力か身体の変化を与える事があるらしい。だが『古代魔具』には見た目ではまずわからないらしいって婆ちゃんが言ってたからな」

「まさかあの本が……」

「『古代魔具』で使用者の性別を転換させるやつだろうな」

「……元に戻れるんですか?」

「いや、無理だ。お前が持っていた『古代魔具』は性別を変える程の神がかった代物だぜ?それをまた変更するのは同じ『古代魔具』が必要だろうな。それを探すに世界中を隅から隅まで探さなくちゃいけないんだ。」

「そ……そんなぁ……」

「諦める事だな。」

「うぅ……」


シキは『古代魔具』については一切知識は無いがリゼットの言う通りそんな代物は珍しいだろう。その上更に上の物となれば入手は難しい。しかもアルトが持っていた本の絵柄はよくある様な物だ。


「俺達はこれからバルリムへ向かうが……」

「……!?あ、あのシキさんとリゼットさんは旅をしてるんですよね!?」

「そうだな。リゼットは……」

「俺もシキについていくぞ」

「え?」

「……駄目か?」


リゼットは少し寂しそうな表情をするのだが、いつものやんちゃそうな感じは無くむしろ可愛いらしく感じてしまう。それに彼女は本気でシキについていくつもりだ。


「……別に構わないさ」

「ありがとな、シキ」

「な、なら、ボクも連れていってくれませんか!?荷物持ちでもやります!そっ、それに今女の子なので、身体を自由に使ってもいいですから……だっ……だから……捨てないで……ボクを……捨てないで……ください……」


誰も頼れる人がいないのかアルトはシキにすがる思いで頭を下げていた。彼の一番近くにいた幼馴染みで恋人だった者、自分の理解者であった筈の専属の使用人。その二人に心を弄ばれ、裏切られてしまった彼、彼女の精神は脆い。


だからこそ、シキは言う。


「『それ』では無理だ。」

「え……だめ……ですか……」


その答えにアルトはシキを見ながら静かに涙を流す。その表情は『諦め』にも似ていた。もう誰も助けてはくれないと。


だがシキは続ける。


「だが、『対等な関係』なら構わない」


アルトはやっとシキが言いたい事を理解する。


先に言ったのは自分を奴隷の様にしてもいいから連れていってくれと言ったのだ。だがそれをすればアルトの精神は壊れてしまう。


だからそれを拒否したのだ。


もしアルトを一緒に連れて旅をするなら『対等な関係』を望んだのだ。それなら気休め程度にしかならないかもしれないがいつか心を安らげる事ができるかもしれないと思っていったのだ。


「アルト、俺達と『対等な関係』……まあ旅の仲間にならないか?」

「ぁ……ぁぁ……」


アルトは涙を溢す。


悲しみや苦しみではない。


それは優しくて、温かなものだ。


アルトにとってもう手に入らないものだと思っていた。


だが、それは目の前にいる。


シキという存在が。


「ボクは……シキざんとリゼットさんの仲間になりたいです……」

「あぁ、よろしく頼むぞ」

「よろしくなっ!」


そしてシキとリゼットのパーティーに新たにアルトが仲間になった。

だが、ある問題が発生する。


「シキ、アルトって名前は珍しいから変えた方がいいんじゃねぇか?」

「そうなのか……アルト、変えるか?」

「はい!……あの、そのボクの新しい名前は……シキさんに決めてもらってもいいですか?」

「俺か?」

「はい!」

「シキ、責任重大だぜ~!」


何やら大役を任されてしまっているがとりあえずアルトの新しい名前を考える。


「(名前か……『貴重レア』な『古代魔具』で女になったから……『貴重レア』か……)」


「どうだ?決まったか?」

「……あぁ。『アルトレア』なんてどうだ?」

「『アルトレア』……いいじゃねえか!」

「アルトレア……アルトレア」

「どうだ?嫌だったらまた考えるが……」

「女の子っぽくていいです!ありがとうございます!」

「そうか!なら改めて宜しく頼むぞ、アルトレア!」

「はい!」


シキが差し出された手を掴んだアルト改めアルトレアは太陽の様に眩しく美しい笑顔をしていた。


そして彼女は男としてではなく女として新たな人生を歩む大きな一歩を踏み出したのだった。








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名前 アルトレア

性別 女

種族 ハーフエルフ

職業 薬師


レベル 10

体力 200

魔力 7500

筋力 100

耐久 550

俊敏 1000

ーーー

[固有スキル]

薬師


ーーー

[スキル]

調合.6

魔力操作.4

弓術.0

付加.0

結界.0

気術.0



ーーー

[称号]

絶望を乗り越える者

裏切られし者

性転換を果たした者



ーーー



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