侵入
河波に強引に連れられて夕食の場に着た不知火だったが周りの生徒達から嫉妬の視線が突き刺さっていた。
「……何で貞子が河波ちゃんと一緒にいるんだよ」
「くそっ、あの野郎」
「死ねっ死ね」
「俺等のアイドルを……っ!」
わかると思うが河波は一年で人気がある子だ。しかも同級生だけでなく二、三年生の男子からも人気がある。
何故そんな彼女が自分に構ってくるのか不思議に思っていた不知火だ。
「あっ、不知火君!やっとき…………不知火君、その子は?」
「一年の河波です。朝比奈先輩ですよね。」
「うん、そうだよ。ところで何で不知火君と一緒に?」
「えっと、先輩を呼びに言ったら夕食いらないって言うんで、無理矢理連れてきたんですよ」
「そうなんだ。不知火君、夕食も少しはとったほうがいいよ?……ところで河波さんは……」
「実は……」
何やらこそこそ二人が話しているが不知火は正直居心地悪い。
何せ後輩美少女と美少年男の娘に挟まれて待っているからだ。
「……なぁ、早く席に座らないか?」
「そ、そうだね!」
「そうですね、あ、あそこ空いてますよ!」
河波が見つけた席に不知火が座ると右隣の席に朝比奈、左隣の席には河波が座ることとなった。
周りの生徒達からの嫉妬の渦に巻き込まれながらも夕食を食べたのだった。
ーーーーーーーーーーーーー
夕食後、不知火は朝比奈と河波の二人と別れると部屋へと戻っていった。
余談だが使用人から例え勇者であろうとなかろうと使用人女性に手を出すな、出したら牢屋に入れられて処刑されると注意された。
これは勇者、特に男子には絶対に言っているらしい。
不知火はブレザーを脱ぎネクタイを緩め、白シャツのボタンを上から三個開けてベッドへと背を向けてダイブした。
ズボンのポケットからスマホを取り出して画面を見ようとするが電源が入らない。
異世界召喚に使用された魔法の影響かうんともすんとも言わなかった。
「(まだ90%はあった筈だが……)」
仕方がない、とスマホを自分のベッドの横へと置く。
「(少し……休憩……)」
瞼を閉じると浅いねむりに入っていく。
だが彼はこのまま朝まで寝るわけではない。
皆が寝静まった頃、不知火は一人目を覚ました。
部屋は時間によって変化するのか灯りはほのかに灯っている。
ズボンのポケットから髪紐を取り出すと長い黒髪を後で結う。属に言うとポニーテールだ。
貞子の様に伸びていた癖っ毛の髪から現れたのは幼さが残っている美しい小顔だった。
目はパッチリしているが何処か強そうな雰囲気を出しており、長い睫毛は艶やかで女性が羨む程だ。肌は白くきめ細かで触ればマショマロの様な柔らかさがあるだろう。
美少年の天海や美少女の島崎、男の娘の朝比奈や一年のアイドルの河波でも敵わない程だ。
そして本当の不知火に変わっていく。
黒髪だったのが金髪へ、黒目の二つの瞳は右が碧眼、左が新橋色のオッドアイに変化した。
そして何もない場所からフード付の黒いローブを取り出した。
そのローブを上から着ると顔を深々とフードで隠す。まるで暗殺者の様な格好になってしまう。下に着ている学生服は見えない。
「……さて、行きますか」
不知火は扉を開けてその屋根へと登ると辺りに人に見つからない様に移動する。
「(目的地は、あの召喚された場所!)」
王女や騎士、兵達に頼んでも見せてくれなかったので直接この目で見ようと思ったのだ。
それに召喚された時は魔方陣を全体的に見ていなかったからだ。
不知火は建物から建物へと移動をし、静かに窓を開けて侵入へと成功する。まあ、不知火にとってはなんてことはないだろうが。
兵士達が見回りがある室内では天上から移動していく。
そして召喚された場所へと辿り着いた。
「……こんな魔方陣見たことがないな。一応写しておくか。」
不知火はローブのポケットから一つの紙とペンを取り出すと召喚の魔方陣を描いていく。
それが終わるとさっきと同じように帰っていく。
無事に自分の部屋へと戻るとある作業を行う。
それはこの世界でも自分の力が使えるかどうかだ。
両手から火を電気を、といった感じに能力の確認をしていく。
もちろん最小限に行っている。
その辺は抜かりない。
「……よし、なら次だな。」
確認を終えると次はローブを脱ぐとそのローブは一瞬にして消えてしまう。
入れ替わりに二本の剣と太刀が現れた。
その純白の剣は神剣、透明な太刀は神刀だ。
無銘なのだが敢えてつけるとすれば神剣はエア、神刀は空だ。
不知火はその二本の剣と太刀を確認するとまた一瞬にして消えてしまった。
今確認しているのは『空間庫』だ。
どうやら異常は無いようなので確認は終了する。
就寝前には髪紐を解き、髪と目を元の黒に戻すとあっという間に癖っ毛貞子に戻ってしまう。
誰もあんな超絶的女顔美少年が不知火だとは思わないだろう。
これは別に魔法等は一切使っていない。
「(さ~て、どうやってここから出られるかね?明日の相談で上手くいけばいいんだけな……)」
そう考えながら眠りにつく。
だがここから出るには大きな障害があることに全く気づいていなかった不知火であった。
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