別れ


翌日の朝、不知火は王の元へと来ていた。


ここには不知火と王、王女、貴族達がいる。教師や生徒達はそれぞれ分かれて訓練と勉学をしている頃だ。


不知火が来たのは王との相談、いやお願いをしに来ていたのだ。


「して、シラヌイよ。貴殿は『勇者』達と共に……」

「いや、俺はここから出たいんだが……」

「なぬ?」


一国の王に対しての言葉遣いは悪いがそこは多目に見ていたが、不知火の要求に微かに眉を動かした。


「『勇者』でもない、何の力も無い俺がこんな所にいても金の無駄使いだろう。ならここから出て何処かで働いたりした方がいいと思ってな。」

「むぅ……しかしだな」

「そうです!私達の……」

「あぁ、安心してくれ。俺は『勇者』とか『勇者』達の仲間だとか言って犯罪バカはしないから。約束するぞ。」

「そう言う意味で言ったわけでは……!」


王女は不知火を引き留めようとするが貴族達は横から口を出してきた。


「ほぅ、よくわかっている若人だな。」

「この者の言う通りだ。王よ、彼の判断は正しいかと。」

「彼の決断を無駄にしてはなりませぬぞ!」

「(へぇ~、この貴族達ひとら使えるな)」


意外にも順調にこの王宮から出られそうになってきた状況でその大きな後押しとなってくれたのは貴族達だ。

だが彼等からしてみれば邪魔で無力な金食いを排除したかっただけだが、それをわかっていても不知火は心の中で感謝していた。


「……わかった。貴殿の要求を聞き入れよう。」

「御父様!?」

「感謝する。エルディンテ国王。」


不知火はそう言うとその場から離れようとするが、その前に王が呼び止めた。


「待つのだシラヌイよ。少し待つのだ。」

「……わかった。」


王は何やら側近に紙と筆の様な物を貰い何やら書いていた。

そして最後に判子?にしては大きな物を押すとその紙を封筒に入れる。


「(……何だ?)」

「これを冒険者ギルドと呼ばれる場所に持っていくとよい。場所は……ここから南に向かった場所だ。あと、これを持っていくとよい。中金貨20枚が入っている。」


通貨価値はこの様になっている。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


(日本円※だいたい)

小銅貨1枚 1ゼル(100円)

中銅貨1枚 5ゼル(500円)

大銅貨1枚 10ゼル(1000円)

小銀貨1枚 50ゼル(5000円)

中銀貨1枚 100ゼル(10000円)

大銀貨1枚 500ゼル(50000円)

小金貨1枚 1000ゼル(100000円)

中金貨1枚 10000ゼル(1000000円)

大金貨1枚 100000ゼル(10000000円)

黒金貨1枚 1000000ゼル(100000000円)

白金貨1枚 10000000ゼル(1000000000円)



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


今貰った総額はで20万ゼルだ。


日本円でいうと約2000万円だ。


かなりの額になる。


王の側近からその中金貨20枚が入っている袋と冒険者ギルドへの招待状を渡された。


とりあえず御礼を言うとその王宮から出たのであった。



~~~~~



「不知火君!」


王宮の門へと出ようとしていた所に朝比奈が息を切らしてやってくる。

どうやら訓練が終わった後だろう。

身体には中世のヨーロッパで僧侶が来ていそうな白いローブを来ていた。

見た目完全に美少女しか見えなくなってしまった。


「朝比奈か、どうした?」

「どうしたって、不知火君は何処に行くの?まさか……」

「あー、うん、そうだ。これ以上御世話になるわけにはいかないからここから出るわ」

「何で……」

「『勇者』でもない、力も無い俺がいても仕方がないだろ?」

「でも……っ」

「いいんだよ。俺は何処かでのんびりと暮らすから」

「僕……はぁ……」

「はぁ……朝比奈、もうすぐ勉強がはじまるだろ?速く行かないと遅れるぞ」

「でもぉ……」

「俺はここから……おい、朝比奈?」


町へと向かおうとするが朝比奈は不知火の袖を摘まんで離そうとしない。

それに朝比奈の瞳は今にも泣きそうな程潤ませていた。


「朝比奈?」

「……また、会えるよね?」

「わからん」

「……うぅ」

「あ゛~、わかった。また会えるから、な?わかったか?」

「絶対だよ?」

「わかったから」

「……うん、じゃぁ……またね?」

「あぁ、またな」


朝比奈が手を離すと不知火は離れていく。


不知火の後ろ姿が見えなくなるまで朝比奈はずっとそこから見ていた。


そして不知火の姿が見えなくなった後、彼は心が締め付けられる様に辛く悲しんだ。


「(辛い……な。『勇者』じゃない……か。不知火君、僕にとっては君が『勇者』なんだよ?『あの時』不知火に助けられなかったら僕は……?)あ、あれ?」


気づいた時には自分の両頬から涙が流れていた。

それを拭っても拭っても涙は止まらない。


「あっ、あれ?何で……何でぇ……涙が……うっ……うぅ……」


彼はその感情をわかっている。

わかっていたが、それを認めると怖くて、不知火との関係が崩れてしまうと思っていた。


その感情の名は『愛』。


でも、わかっている。

自分は男で、好きな相手も男だ。


同性で愛なんて実るわけがないと。


何度も自分が女性だったらと思うことはよくあった。


「(……せめて)」


せめて、彼の傍にいたい。


また会えると約束してくれた。


だから、その時は一緒にいたいと朝比奈は願う。


その彼の願うかどうかはわからない。


だが、彼は成長する。


いずれ愛しの彼の傍に立てれるように……。





~~~~~




「ヘクチッ!……ん?誰か俺の噂でもしてるのか?」


彼が想いを寄せる当の本人は全くその想いを気づいてはいなかったのだった。





















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