第21話「廃校」

澄み切った 硬き日差し


その日差しに どこまでも穏やかな海


そんな光と海を見ながら


腕いっぱいに溜めた光を蹴散らせ


ショベルカーは 首を振った



ドス ドス ドスン


雨に打たれ 朽ち果てた板壁


辛うじて生き延びた横木たちは


撃たれたように


声もなく 崩れ落ちていく



もうもうと舞う 砂埃


赤錆が浮くほどに 


打ち捨てられた 校舎が


今 開かれた



ぽっかりと空いた 穴 穴 穴


真昼の陽射しが うなりをたてて


奈落の底に 落ちていく


時がきしみ


そして つまずいている



ああ わたしの耳に


チャイムが ちらほら


彼方からも こちらからも


薄暗い廊下を


小さな悪たれどもが やって来た


油引きの 床がきしみ


格子で区切られた窓が 光っていた



重き時は 飛び散り


ちっぽけな 校舎は


シャベルカーの 唸りと共に


悲鳴を上げて 崩れさった



故郷を出で 郷愁の中で 


立ちつくした 私たちに


空は どこまでも青く


丘は 鮮やかな緑を抱く


そして 


綿雲が 一つ


何も言わずに


春の風と共に


砂埃を 掃いていった



時を溜めた 老いたる胸に


ちらり ほらりと


穴 穴 穴が開くと


そんな胸を 


春の風が 


黙って 吹き抜けていた


何も言わずに 


ただ 吹き抜けていった

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