35話 ルヴィーの頼み事
「ぼくに頼み事……ですか?」
「そうだよ。……って、なんだその顔は。アタシが頼み事したら悪いか?」
「いえいえ、そんな滅相もない! もちろん喜んで聞きますよ!!」
ルヴィーさんがぼくに頼み事なんて珍しい。しかし、頼まれたらどんな事でも承るのがぼくの流儀だ。頼み事というのは特に断る理由もないし、断って相手を残念な気持ちにさせるより、自分が少し手伝う事で相手が嬉しい気持ちになるのなら絶対に後者の方がいい。
「そうか! じゃあ、初めから色々説明するのも面倒臭いから、直球に言おう」
ぼくは唾を飲み込んだ。あのルヴィーさんからの頼み事……。一体どんなものがくるのだろうか。
「アタシのマネージャーになってくれよ!」
「…………へ? マネージャー……? なんのですか?」
「やっぱりそう言うと思ったよ。この質問の為にちゃんと説明できるように考えてきてあるんだ」
ルヴィーさんは腕を組みながらうんうんと誇らしげに首を上下に振った。この状況は思ったより反応に困る。ぼくはとりあえず苦笑いで返した。
「はは……そうなんですか……」
「ズバリ、明日の昼にブルーレイン一の美少女決定戦が行われるんだよ!」
「…………え? なんですか、それ」
「そのままの意味だよ! 三年に一度開かれる、この国ブルーレインの一番可愛いヤツを決める大会なんだ! アタシもやっと十七になったんだ。規定は十六歳以上だからやっとの思いで参加出来るんだよ!」
なるほど。という事はその大会に自分が出場するためには、マネージャーが必須になるみたいな感じなのかな? 大体話は掴めてきた。しかし、わざわざ美少女の一位を決めるのは何故なんだろうか。そしてルヴィーさんはそれに参加してどうするのか。そんな疑問が残ったが、敢えてツッコまない事にした。
「大体理解出来ました。それで、ぼくがマネージャーになると言っても、一体何をすればいいんですか?」
「アタシの手伝いをするだけでいいぞ。この大会は、何故かマネージャーがいないとダメなんだよな。まあ、ヒロがいて助かったぜ!」
「お役に立てて嬉しいです。でも、どうしてぼくなんですか? 会って一週間も経ってないですし、それよりかはぼくよりも付き合いが長いサイレンさんやガルートさんとかに頼んだほうが信頼性はあるんじゃないですか?」
「あんな理数バカに頼んだら絶対拒否されるに決まってんだろ! ガルートは逆にこっちから願い下げだ」
ガルートさんを否定するのはぼくも同感だ。ガルートさんを候補に入れたぼくの間違いだった。
「まあ、その中でも唯一普通なのがお前だからだ。アイツらにこの大会に出るからマネージャーになれって言ったら笑われるに決まってる。そうなりゃただ恥ずかしいだけじゃねぇか」
「ならどうしてぼくに笑われるとは思わなかったんですか?」
「…………それもそうだな。どうしてなんだろ……分かんねぇや」
ルヴィーさんは笑ったような顔をしながら頭を掻き、照れるような仕草を見せた。
「まあ、いいですよ。もう決まった事なんですし。ルヴィーさんが本気で一位を取る気力があるのなら、ぼくだって全力で応援しますよ!」
「すまねぇな。じゃあ、明日はよろしく頼むぜ。……そうだ。折角ここに来たんだし、話題のケーキ食べてみようぜ。奢ってやるよ」
「奢るって……そんな、悪いですよ」
「心配すんなって、明日手伝ってくれるんだから、これくらいしないと割に合わないだろ?」
「じゃ、じゃあ、お言葉に甘えて……」
ぼくが少し謙虚な気持ちで呟くと、ルヴィーさんは思いっきりニッと笑って、たまたま近くを通りかかっていた従業員を呼び止めた。
「『白奏の森ケーキ』を二つと、アイスコーヒー二つお願いします」
「かしこまりました」
従業員は手に持っていた手帳に注文の品を書き込み、それを尻ポケットに入れると厨房へ走っていった。
さりげなくアイスコーヒーも一緒に注文してくれた事はぼくは聞き逃さなかった。やはりルヴィーさんにも隠れた優しさがある。その優しさは言葉では表さないで、ルヴィーさんは行動で表すタイプだ。もしかしたら、周りに見せないだけで実際はやや内気な性格なのかもしれない。そう考えると彼女は模範となる人間なのかもな。
「ヒロ、何ボーッとしてんだよ。アタシの顔に、何かついてるのか?」
いきなりルヴィーさんが顔をグイッと近づけてきた。
「いやいや! そうじゃなくて、少し考え事してただけですよ!!」
「ふーん……」
そう言うと彼女は顔を元の位置に戻した。ルヴィーさんも結果大胆だな……今のはキスしてもおかしくない距離だったぞ。
「お待たせしました。こちら、ご注文の品です」
しばらくして、先程の従業員が戻ってきた。
「ありがとうございます」
目の前のテーブルに、ケーキ二つ、コーヒー二つののったお膳が置かれる。ぼくはそこから一つずつ取ってはテーブルの上に移動させた。
「では、ごゆっくり」
従業員は軽く頭を下げてまた厨房へと走っていった。人気店なだけあって、とても忙しそうだ。あれじゃあ休憩時間もロクにとれないだろう。
「じゃあ食べるか!」
ルヴィーさんは一緒についてきたフォークを使い、ケーキの先端部分を切ってそれを口に運んだ。
「お、うめぇ! こんな美味しいケーキ、今まで食べた事ないかも……」
彼女の幸せそうな顔を見ているとぼくも食べたくなり、フォークを手に取ってケーキを口に運んだ。その瞬間、口内に甘みが広がった。スポンジがとても柔らかく、すぐ溶けていってしまう。クリームは甘すぎず、丁度いい甘味をキープしている。
「ものすごく美味しいじゃないですか!」
「だろ? この風味は多分、ブルーレイン東部で穫れるスナーフの実を使ってるな。あれを使うなんて、頭冴えてるなぁ」
「よく分かりますね」
「これでも一応サイレンの助手だからな。アイツがよく木の実について教えてくれるんだよ」
そうか。ルヴィーさんはサイレンさんの助手ということをすっかり忘れていた。どうりで頭がよくキレるんだな。……別の意味でキレる時もよくあるけど……。
……さて、そろそろこっちの要件も済んできたところだし、またルミナさんの所に戻るとするか。
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