18話 二人いる
太陽が照っていてとても暑い。子供の子守りをしていた時にはすごい冷風が吹いていたが、今は髪を
ラザルーさんの着ている白いローブを見ているともっと暑くなってくる……。
「あの、ラザルーさん」
「ん? なに?」
「その、白い布は取らないんですか? すごく暑そうですけど……」
「え? もしかしてヒロさん、私の下着見たいの?」
「ええ!?」
まさかその下は肌着さえも着けていないというのか。何かあってローブがはためいたりしたらどうするんだろう? もはや事件。
「いやいや! そんなつもりじゃないですよ!」
「……見たいなら、別にいいよ?」
「はああああああああああああああああああああああああああああああああああ!?」
「冗談よ。そんな大声出さないで」
いくら冗談とはいえ、今のは完璧な爆弾発言だ。その上萌え声で。ビックリしすぎて呼吸止まるかと思った。
「ラザルーさん……冗談でも言っていい事と悪い事がありますからね。特にそのような……」
「ねぇ! お菓子買ってくれない? とりあえず何か食べたいの!」
ラザルーさんはそう言って駄菓子屋へ突っ走っていった。まだ話の途中だったのに……。ぼくはしょうがないなぁとラザルーさんを追いかけた。
「ねぇ、ヒロさん! これ買ってくれない?」
ラザルーさんはナーハススティックを三本ぼくに見せた。
「しかたないですね……良いですよ。いくらです?」
「3S」
それはぼくの全財産だ。ナーハススティックってこんなに高かったのか。それほどこの食べ物には栄養が含まれている事が分かる。
「……ちょっとぼく的には痛い額だけど、買いますよ」
「わーい! ありがと!」
ぼくはレジに行き、銀貨三枚を支払った。これでまた一文無し。(僕的に)結構苦労して得たお金をこうも容易に無くなるとは。
しかし考えてみるとまだラザルーさんは成長期の子供のはず。そんな成長期が空腹をガマンするのは良くない。なにより、逆らうと殺されそうだし。ここは元々お金なんか無かったという事にしておこう。さっきの子守りはただのボランティア活動。
「あの、食事中すみませんが、歩きながらではだめかな? ぼく、地味に急いでるんだけど……」
口いっぱいに含んで声を出せなかったのか頷いた。
時間があればゆっくり出来たけどぼくは任務をこなしていかないといけない。放置して溜め込んでおいたりしたら後々休む暇もないくらい忙しくなるかもしれない。そんな事になっては堪らん。ぼく達は再び城を目指して歩き始めた。
歩く事数分、やっと城の大階段の前まで来た。汗で襟がびっしょりになっている。今すぐ着替えたい……が、ガマンだ。やる事がまだある。
「着きましたよ」
そう言ってラザルーさんの方を向くとちょうど食べ終わったようで、ハンカチで口を拭いていた。
「ここがラミレイさんの城。話には聞いていたけど、すごい大きいねー!」
その発言と同時に、ある疑問が思い浮かんだ。
「あの、ここのお城に来るのは初めてなんですか?」
「愚問ね。来たことないから道も分からないのよ」
「え、でも、ラザルーさんさっき城の中で見ましたよ?」
「えー。そんなはずないよー。見間違えだと思うよ」
ぼくは深く首を傾げた。この白いローブは間違いなく彼女のものだと思ったのだが。本人が違うと言うのなら、違うのだろう。
「ね、早く行こ!」
と、ラザルーさんはぼくの手を引いて階段をかけ登った。ラザルーさんは身長が低い為、握られた手の位置を合わせるために腰を曲げないといけない。その状態で階段を走って登るなんて、なかなか負担がかかる。
「待って! ラザルーさん、速い!」
足がもつれた。そのまま前のめりになり、大理石の階段の角に
「いでーーー!! ちょっ……これ、ガマン出来ない系の痛みじゃん……」その場で悶絶する。
「あっ、ごめん! つい、私のペースに乗せてしまって……」
「いいよいいよ。気にしないで……痛っ」右脚の脛をさすりながら立つために体重をかけていく。
しばらく立っていたら、しだいに痛みは消えてきた。
「ふぅー……もう大丈夫だよ。行きますか」
今度は二人横に並んでゆっくり登る。
登りきると金のアーチをくぐり、城内へ入った。
「ラザルーさんはここに何しに来たんですか?」
「任務を受けに来たんだよ! お姉ちゃんが私もラミレイさんに遣えるように言っておいたみたいだから、今日から任務を受けれるの! これであの怖そうな人達と協力して悪い事するのしなくて済むよー」
ぼくからすればラザルーさんの力の方が怖いんだけどね。
「へぇー。ラザルーさんのお姉さんも任務をしているんだね」
「だから、受託室ってどこにあるのか教えて欲しいの!」
「分かりました。たしか、あの階段を登っていくんだったかな?」
ぼくが歩みを進めるとラザルーさんもぼくについてきた。
階段を登り、受託室についた。相変わらず人は少ない。カウンターに受付嬢がいて、任務ボードのまえに白い布を纏った人……ん?
「あ! お姉ちゃん!」
「へ? あの人がお姉さん?」
やっと分かった。先ほどぼくがラザルーさんと見間違えた人はラザルーさんのお姉さんだったのだ。
「あら、一人で来れたの?」
「あのヒロさんって人に案内してもらったの!」と、ぼくを指差す。
「あ、あなたは」ラザルーさんのお姉さんはフードを取った。
その瞬間、ぼくは自分の目を疑った。そこには、ラザルーさんが二人いた。ショートの茶髪に小柄な体型。ワインのような赤い瞳の色までも全くそっくりだった。
「あの時は無視してすみませんでした。私、重度の人見知りでして。私はラザルーの姉のアザリヤといいます。よろしくお願いします」
「あ、ヒロです。改めましてよろしくお願いします」
「あれ? 珍しいですね。クライガー姉妹じゃないですか。ラザルーさんに会うのは初めてですが、相当強いと聞いてます」
ラミレイさんが階段の方から現れた。クライガーというのは、恐らくラザルーさん達の苗字かなんかだろう。
「あのあのあの、ラザルーさんが二人いるようにしか見えないのですが、どっちがどっちなんですか?」ラミレイさんに聞いてみる。
「金のネックレスをつけてる方がラザルーさんよ。銀の方がアザリヤさん」
「なるほど。ありがとうございます」
「では、私達は任務があるのでまた後でお話しましょう」
アザリヤさんはそう言うとラザルーさんを連れて受託室を出ていった。
「では、私も顔を出しに来ただけなのでこれで」
ラミレイさんも一礼して受託室を出た。
ぼくも任務を受けるため、任務ボードと向き合った。
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