大学の友人が集まってのパーティーだった。

春の卒業を前に各々が思うところがあったのだろう、その夜は特別の盛り上がりを見せた。

菜摘なつみも珍しく酩酊してしまう程、友と語ってはグラスを傾けた。

みんな時の経つのを忘れ、そしてやがて過ぎゆく時を惜しんだ。


菜摘なつみが自宅に帰った時には午前1時をかなり過ぎていた。

それからシャワーを浴びてベッドに入ったその時に、漸くテーブルの上に置いた携帯電話の着信ありを知らせる光の点滅に気づいた。

夜の11時から30分間隔で都合3本のメッセージが留守番電話に入っていて、全て航介だった。

内容は簡単に言うと、帰ってきたよ、クリスマスの乾杯をしよう、から次は怒ってるの?それとも出掛けてるの?に変わり、最後は今夜は会えないのかな、また連絡する 、と言うものである。

菜摘なつみは直ぐに電話しようとしたが、思いとどまり「勝手過ぎるよ」と呟いて携帯電話をテーブルの上に投げやった。

枕元の時計を見ると午前2時を過ぎていた。


そしてその6時間後の午前8時過ぎに菜摘なつみはサークルの仲間から電話で航介の事故を知らされる事になる。

早朝の金甲山きんこうざんを下っている時にスリップしてガードレールにぶつかった拍子に体だけ谷底へと転落したと言うものだった。

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