じゃんけんぽん
れこ
第1話
「滝さんおつかれさまでーす」
「はいはいおつかれさん」
今日も無事に仕事が終わり、後輩と別れる。
滝 あやか 28歳。独身 恋人無し。
婚活は辞めた。というより諦めた。
婚活よりもオタ活の方がやっぱり楽しいし、過去のこともあって少し面倒に思えるようになってしまった。
クリスマスには少し早いイルミネーションと、それを見ながら寄り添うカップルを横目に、いや、少しだけ睨みつつ足早に家へ向かう。
ハロウィンが終わってからというもの
一瞬にしてクリスマスムードになる街を見ると、毎年のことながら寂しくなる。
ハロウィンに思い入れがある訳ではないし、うまく説明ができないのだけれどなんだか寂しいのだ。
イルミネーションがなんだ。
恋人がなんだ。
私には、私にはなあ、家でこたつと二次元の嫁が待ってるんだから。
「……あの」
スーツを着た、少しかわいい男性に声をかけられた。
なんだホストクラブの勧誘か?
私は別に寂しくないぞ?
私にはこたつと二次元の、
「じゃんけんしませんか」
「……はい?」
なに、この人。
酔っ払い?新手のキャッチ?
詐欺か?ナンパか?
まあでも、じゃんけんくらいなら。
何か売りつけられそうになったらダッシュで逃げよう。ヒールだけど。
「いいですが」
「じゃあ、いきますよ。じゃんけん、ぽん」
同時に出された手は、私がパーで、彼がチョキ。
負けてしまった。まあいいか。
きっと彼にも何かあったのだろう。
じゃんけんだけれど、少しでもいい気分になってくれれば幸いだ。
「ひとつ、いいですか」
「……なんでしょう」
ほら、きたよきた。
負けたからうちの店寄ってけとか、そういうやつでしょ。知ってる。
「結婚してください」
「ん?」
「結婚してください」
「は?」
「結婚、」
「それはわかった、わかんないけどわかったから」
「じゃんけんに負けたじゃないですか」
当たり前だろ、みたいな顔してるけど
こいつなんで急に上からなんだ。
相手するだけ時間の無駄だ、と過ぎ去ろうとしたら
「まって、これ、これだけでも」
目の前で土下座されながら名刺を差し出された。
なに!?本当にこの人なんなの!?
「あの、ほんと迷惑なんで」
「怪しいものじゃありません」
「充分怪しいんだけど」
「なにあれケンカ?」右耳から聞こえた誰かの声。
やばい、私こわい人みたいになってない?
ネットに晒されでもしたらいろいろと終わりだ……!
「わ、わかった、わかりましたから、顔あげて、立ち上がって早く」
「結婚してくれますか」
「それは、あー……考える!考えるから早く立って」
そう言うと、半べそで立ち上がった彼は、私に改めて名刺を差し出した。
「これ、受け取ってください」
柳沢 宏 という名前と、電話番号のかかれた名刺を渋々受け取ると
柳沢は一礼して人混みに消えてしまった。
「なんなんだ、あいつ……」
じゃんけんぽん れこ @gomajiso
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