第11話 情報Ⅱ
女部田が2ちゃんねるに龍三叩きのスレを重ねてから、怒涛の勢いで悪口雑言の限りを尽くして伸べ十年の歳月が経過した頃、事態がさらに急変した。龍三や杉渕の十年前の予想は的中した。
ついに女部田叩きのスレが散発的に立ち始めたのだ。所謂ブーメラン現象とでもいうのか、女部田が誹謗中傷を投げ掛けた各分野からの反撃スレである。特撮イベンター、過去の共催者、トラブった女性、開示要求をされたスレ管理人らの反撃スレが相次いで立った。火消しに躍起になる彼の脳内変換の自己正当化に付いていける外野がいなくなり、念願の健全なる特撮ファンのカリスマには程遠い事態になってしまった。既に2ちゃんねる中毒になっていた女部田は、その火消しだけで忙しくなった。参集していたはずの女部田擁護派は一気に気配を消した。孤独なカリスマは立ち位置があからさまな自己擁護レスのあまり、外野からはその都度本人認定がなされ、女部田叩きのスレはどれも大炎上となった。反比例して龍三叩きは急激に下火になって行った。
龍三は後援会から送られたその後の2ちゃんねるの魚拓資料を劇団員に見せていた。
「みじめなものだな。誹謗中傷メニューがワンパターン化してる。ついに焼きが入ったな」
「2ちゃんに入り浸って松橋さんを叩いているつもりが、結局、自分自身を叩いていたようなものだな」
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●女部田カワイソ全員からシカトwwww
●自分をカリスマとか名乗って
昭和特撮界隈で暗躍してるつもりの気持ち悪いオッサン、てかオナ豚
●近づく相手には下心丸出しで
ヘラヘラと口先だけの美辞麗句を並べ立てるところから
“おだてのオナヘラ ”と揶揄されるお調子バイセク
●粘着はなはだしいし陰湿だし陰険だし、オナ豚って濃杉
●あなたに良心があるなら、これ以上オナ豚さんを誹謗中傷しないでください。
オナ豚さんにだってどうでもいいような一丁前のプライドだけはあります!
●名誉回復のために、頭の弱い特撮ファンを下僕にしては結局うざがられ
現実には2ちゃんでの情報撹乱しか手もない
気の毒なほど無力すぎるチキン豚ナゲット
●チキンなの、豚なの
●両刀だろ W
●本人は否定してるけど女部田ってかなりの2ちゃんねらー
架空ハンドルを使っての自作自演は特技
他人名義の無断代筆を頻繁に行っているらしいという噂もあり、
匿名系の攻撃手段は職人肌
●私は、ブログ、大型匿名掲示板、仲間内で
根も葉もない嘘を喧伝し、誹謗中傷を繰り返す輩を確認次第
徹底的に追求します。逃げも隠れもしません。
●このスレ他多数の書き込みをしてるヲタは
実は『女装』で男買うのが趣味でもある正真正銘変態
●また女部田が連投www
●被害妄想キチガイがこのスレ荒らしはじめたなw
これって荒らしとしてアク禁とかにできないの?
●こいつ、どうしようもないな!
●私は、ブログ、大型匿名掲示板、仲間内で
根も葉もある事実を喧伝し、誹謗中傷を繰り返す輩を確認次第
徹底的に凹みます。逃げたいし隠れたいです。
●キチガイが騒げば騒ぐほど特撮ファン全員に迷惑が掛かるってのが
分からないのかねw
●今日も朝からスレ立て狂ってる人=オナブー
HN量産及びタレントや特撮ファンへの粘着経験豊富
●女性特撮ファン粘着レイプ経験豊富
●某特撮ヒーローとのホモ関係疑惑あり
●疑惑ではない。事実だ。
●主催イベントで毎回女性特撮ファンをレイプするやつは
早く逮捕されれば良いのにね。
●女部田というのをググったら
シャドーヒーローに粘着するキチガイのように、
アニアイザーに粘着する別のキチガイでもあるようだ
●キチガイは本人断定が好きだねw
自分と揉めた人の名前を出せば当たるってか?
●誹謗中傷や犯罪行為を繰り返しているのはキチガイお前だろ
●また女部田が連投www
●妄想と現実の区別も付けられないボケは
早く病院へ行け。社会のためにもなw
●逃げも隠れもしませんつってんだから
ツイートで確信を付かれても逃げないで戦えよ
●何で必死なの?
誰かさんの方がよっぽど犯罪行為を繰り返しているが?
その証拠晒されたいの?
●また女部田が連投www
●証拠は保存してあるんだよなー、オナブー
●無理があり過ぎる。オナブーってばれてんだからもう居直れば?
●証拠があるなら2ちゃんだけで暴れてないで
お前も自サイトで堂々と投稿しろよ。
●頼まれもしないのに他人の名義を借用して他人の宣伝をしている女部田は
感謝されるとでも思っているのか?
●三顧の礼で協力を申し出てもらえるとでも思っていたんだろうな。ププッ。
●オナブーがまた新しいダミーを産んで自サイトに自画自賛レスしました(呆)
いい加減にしなさい
●「私は難病と闘って6年になりました。24時間、精神的に耐えられなくなりました。そんな時、女部田様にご紹介いただきました。峰岸様のご出演なさった作品です。その作品を拝見して救われた気がしました。叶うことなら、峰岸様にお会いしたいです。でも、最近、体が不自由になってしまい、それは夢のまた夢です。完治の目途も立たず、私は夢を見ているだけです。いつか峰岸様の住んでいらっしゃる秋田に観光に行く夢です。峰岸様もご闘病生活とのこと、なのに常に前向きに頑張っておられると、女部田様から伺いました。私も峰岸様を見習って、少しでも前向きに一日一日を送ります。こうした思いのたけを申し上げられる場を提供してくださった女部田様には、心より感謝しております。お時間があれば、また峰岸様のお話を聞かせていただければ嬉しいです。女部田様のお話でこんなにも苦しみから解放されるなんて、ありがとうございます! 女部田様のお話の全てが私の大切な宝物です。
心より感謝いたします。ありがとうございました。」
だとよwwwwwwwwwwwww
●クソ妄想なげえよ
●峰岸譲司さんは簡単には騙されないぞ。
いい加減あきらめろ。
●重症だな、妄想がwww
●バレバレ杉
●女部田よ!
お前への愛を込めて警告する。
他人を巻き込むのはいいが、峰岸譲司さんはお前の今の活動とはまったく無関係だ。
くだらねぇ難病ダミーなんてこしらえて
クソ美談騙って同情買おうとしているが何のつもりなんだ?
称賛に飢えて自画自賛か?
みっともねえ真似はもうやめろ
●痛いやつは相手にされないと2ちゃんで狂うしかねんじゃね?
そんで頭弱いやつが煽りくって小沢みたいに三龍劇団の工作員で投入されるわけだな。
●新しいアカはマダー?
●女部田がまたスレ作ったな、完全に逝ってる(呆)
●図星をつかれて黙り込んだようだな。
●2ちゃんねるの他スレでも必死に荒らしてるみたいだけど
皆が相手にしない理由知ってるか?
オナブーが書いてるって知ってるから相手するだけ時間の無駄なんだよ
●しかも少し調べれば嘘と分かることばかりw
お前の妄想には誰も興味がない
●営業妨害、名誉毀損など既に警察沙汰を起こすキチガイだから気にしてないかw
●オナブーが自サイトで産んだ新しいダミー教えて
●女部田は特撮界で誰にも相手にされていないなw
●そりゃ自分の願望や思いつきばかり書いてたら誰も相手にしなくなるわな
●ワンパターンなわめき散らしを真実だとか誰が信じるんだよ
●自分の文体や思考特徴をチェックしている人間などいないと思ってんのか?
だったらネットに向いてないキチガイだな
●長文、意味不明、立ち位置入れ替えとくればオナ豚
●筋が通る説明などできないのだから、こんなところで暴れてないで、
自分の立てた三龍叩きの板の矛盾でも検証してろ
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後援会の嶋田が一同の居る劇団事務所に入って来た。
「龍ちゃん、興味深い情報が…」
沙世が嶋田に椅子を出した。
「コーヒーでよろしいですか?」
「ああ、ありがとう! 龍ちゃん、やはり女部田は主催イベントで女性特撮ファンをレイプしてるね。それも一度だけじゃない」
「ウラが取れたのか?」
「被害者本人から聞いたから…」
「被害者本人! …よく話してくれたな」
「知り合いの弁護士が告訴のお手伝いをすることになったんだ」
「となれば、個人情報は聞けないよな」
「いや、彼女から松橋さんに伝えてほしいと言ってるんだ」
「私に?」
「2ちゃんねるで龍ちゃんが執拗に叩かれているのは彼女も知っていたそうで…松橋さんにご迷惑を掛けた責任は特撮ファンである自分にもあると…」
「どんな責任?」
「無関心でいた責任だと言ってる」
「その人だけじゃないよ」
「でも彼女は、声を出さなかったことで自責の念に駆られていたそうだ」
「その人に限らず、一般の特撮ファンに罪はないよ」
「彼女にはいろいろと事情もあるようで…」
「私が知っている特撮ファンか?」
嶋田はちらと劇団員たちに目をやった。察した劇団員たちは席を外した。沙世もコーヒーを入れてすぐに出て行った。嶋田は再び話し出した。
「HN・チャキ…伊崎祥子さんは知ってるよね」
「彼女か…彼女はミニオフで会ってる。レズだという噂は聞いているが?」
「伊崎さんは、友人のHN・空蝉の浜野愛海さんという人に女部田のことで相談されたんだ」
「浜野さん? …記憶にないな」
「龍ちゃんは一度も面識がない人だ。彼女は伊崎さんの親友なんだ」
「親友って…その…」
「いや、彼女はレズじゃない。彼女は、劇団が疎遠になって久しい5年ほど前の女部田主催のオフ会に出席してるんだ。伊崎さんが手伝う予定だったけど急に出席できなくなって、浜野さんに代わりを頼んだそうなんだ。そのオフ会終了後の夜、彼女は女部田に、明日の朝早くに部屋に寄ってほしいと。お手伝いのお礼に、残った特撮グッズを差し上げたいので、起こしに来がてら部屋に来てほしいと言われたそうなんだ」
「起こしに行ったわけね?」
「浜野さんはそこでレイプされたんだよ。浜野さんにとって、女部田が初めての男性経験だったんだ。半年後の女部田主催のイベントの時、相談を受けた伊崎さんが親友の浜野さんの件を抗議したんだそうだ」
「半年もしてから?」
「後で話すが、浜野さんのほうに事情があったんだ。それまで浜野さんは誰にも打ち明けられずに女部田に話し合いの場を持ち掛けてたんだ。しかし、女部田はのらりくらりと交わしていたそうで、今度のイベントが終了したらじっくり話そうということになってたらしい。ところが、イベントが終了して話し合いをする段になって、今夜はお酒も入って疲れてるから明朝話し合おうということになって、起きられないかもしれないから部屋まで起こしに来てほしいと…また言われたそうなんだ」
「それで、また起こしに行って…」
「そういうことなんだ」
「…不注意だね」
龍三は憮然と溜息を吐いた。
「双方、哀れなものだ。我々が関わるべき方々じゃないね。精々、良い弁護をしてやってほしいね。女部田氏は赤字イベントを開いても気にしない御方のようだから、大枚の慰謝料を弾んでくれるんじゃないの?」
「実は大枚の慰謝料を払わなければならない理由が他にもあるようで…」
「どういうこと?」
「浜野さんのお父上は、あの前進国民党の党首で衆議院議員の浜野賢造なんだ」
「何だって!」
「半年前の娘の愛海さんが女部田にレイプされた時期は、丁度選挙の真っ最中で、娘の不祥事は伏せておく必要があったらしいんだ」
「それで半年も…」
「しかし、今は違う。女部田はキツいお灸を据えられることになる」
「キツいお灸ね。議員さんなら攻めどころに事欠かないでしょ。同業者組合からでもネットからでも。それに女部田自身のスキャンダルは山ほどある。さて、お灸のどの辺から火を点けるのかな?」
「お灸に点けるなら、助かるに足る時間稼ぎもできるだろうけどね」
「怖い話になってきたな。それ以上は聞かないでおこう」
「もう一つの情報は、霧子女史の件だ。例の龍ちゃんが招待されたあのオフ会の途中で、彼女から電話があって応対をさせられたと言っていたけど、実は女部田からの指示だったというウラが取れたよ」
「やはり女部田の差し金だったか。あのあとパワフル婦人連には活躍してもらったな」
「で、霧子女史を龍ちゃんに接近させようと、それも尋常じゃない接近をね」
「名前は言えないが、同じやり方で何人かの特撮ヒーローが落ちてるんだよ。私も甘く見られたもんだね… え? ウラが取れたって、どういうことよ」
「面白いことに、この情報も浜野愛海さんの提供なんだ」
「彼女がなんで女部田の差し金のウラを知ってるんだ?」
「SNSだよ。浜野さんと霧子女史はSNSで情報交換する仲間だったんだ」
「なるほど、そこで繋がっていたか…」
「浜野さんは女部田の件で、霧子女史に相談された事があるんだそうだ。鍋島氏の似非ファンとして近付いてほしいと言われてるけど、どうしようか迷っていると…」
「どうしてフランクに断れなかったんだろうね」
「フランクな関係は両方にその要素がないと成立しないだろ」
「そりゃそうだな」
「かたや人を利用することしか考えないギブギブの御方だからな」
「一旦は彼女も断ったんだ。ところがそこから女部田劇場の始まりだ。しつこいメールでの説得、グッズの贈り物作戦、意味の解らない花束の郵送。それでも靡かない霧子女史に決定的な情報を投げたんだ」
「まさか…」
「そのまさかの情報だ。鍋島はホモだから余計な心配はないという、特撮ファンには明かしてはならない情報だ」
「最低な奴だな。ついでに言ってやればよかったのに。自分たちは切っても切れないホモ関係にあると」
「鍋島自身は作られた人気だということは百も承知している」
「だから鍋島氏は、あのオフ会での霧子女史の電話の話をしても冷めてたんだな」
「鍋島はあの時既に、女部田とは更に深い関係になっていて、完全なる犬だったわけだ」
「どこからバレるか分からんものだね」
「龍ちゃんにとっては更に驚く情報だと思うが、一連の女部田叩きのスレは、浜野愛海女史が立てた可能性が濃厚なんだ」
「ひとりでか?」
「そう、ひとりで。それに同調する者が参戦してるという構造だ」
「なるほどな…いくら選挙があるからとは言え、自分の身に起こった人生最大のショッキングな出来事に、半年も我慢させられたんだ。自己崩壊になりそうな自分を匿名スレで女部田を叩くことで必死に耐えるしかなかったと思えば、無下に批判もできないか」
「そして、浜野議員の顧問弁護士が動き出したということだ」
「下手すりゃ、女部田…殺されるかもな」
「オレもそう思う」
「オレを叩いてる場合じゃなくなったってことだな。本人が事の深刻さに気付く頭があればの話だが…」
「そんな頭は100%ないだろうね。女部田はマイルールの塊で、もう糞溜り中毒だ。不安になれば龍ちゃんを叩くというのがやつの条件反射になってる。そして、浜野愛海女史もこの半年間で女部田叩きの中毒になってる」
「しかし、レイプ裁判に持ち込もうにも、女部田叩きのスレが彼女に不利に働くんじゃないのか?」
「それなんだよね。開示請求を出しても藪蛇だ。だから女部田に娘の件で報復する手段は限られる。要するに無関係の人間が、女部田を闇から闇に葬ってくれれば有難いわけだ。傷害ではない死に方…交通事故とか、水死とか…」
「そうなると…今年の秋田は雪が多いらしいから、女部田はイベント先で不慮の凍死ということも有り得るな」
二人は笑い出してすぐに真顔になった。
「有りそうで怖いな」
二人は沙世の入れてくれたコーヒーに初めて手を伸ばした。
「冷めちゃったな…コーヒー…」
「稽古、見てやらなくていいのか?」
「今日は自主稽古の日だから…」
龍三が窓の外に目をやると、ゴミ埃のような雪がちらつき始めていた。
「…初雪か?」
「東京の初雪は、なんかやる気がねえな。燥ぐのはお茶の間のテレビだけだ」
「うちはテレビがない」
「なんで?」
「嘘八百は2ちゃんねるで充分だ」
「今年は行くのか?」
「雪が多いらしいんだ。姉のうちの雪を寄せてやりたいと思って…おまえは?」
「こっちは来るんだ。スカイツリーに昇りたいって」
「おまえの両親は元気でいいな」
「息子がいいからね」
「そうだな」
「・・・・・?」
「おまえは善い息子だよ…いいやつだよ」
「おい! そこ突っ込んでくれないとさ」
「あ、そうだな!」
「大丈夫かよ、龍ちゃん」
龍三は何故かしんみりモードになった空気を、笑って誤魔化した。
〈第12話「共催者」につづく〉
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