第5話 新スレ

 俄かに2ちゃんねる上に龍三叩きのスレが登場し、早いペースで書き込みが乱舞していった。


 早々に後援会の嶋田と杉渕、そして三大パワフルマドンナたちが、スレの魚拓を持参して龍三の自宅を訪れていた。三大パワフルマドンナとは、千葉在住の伊藤啓子・埼玉在住の川村和子・東京在住の山城蒔子ら三人で、後援会に於ける中心的な龍三の防人たちだ。重箱の隅が大好きなアウトドア派で、国内外問わず怖さ知らずの秘境好きである。今、彼女たちにとって “特撮オタ ”というのは、 “秘境 ”なのである。その摩訶不思議に映る生態に、彼女たちは徒ならぬ興味を持ったのだ。一同はそのプリントアウトの資料をスクリーンで流し、談笑しながら今後の対策をじっくり練ることにしていた。

 レス内容は、龍三を劇団勧誘の熱心な人間と皮肉り、特に特撮ファンの勧誘は恐怖を覚える程のイメージと喧伝していた。しかし、龍三が受け入れた特撮ファンは後にも先にも3名しかいなかった。一人は、女部田のイベントにスタッフとして参加した折、予算面での建設的な意見を述べたことで敵視されるという憂き目に遭った人物だ。龍三は彼のHPを見てその才能を知り、脚本で参加してみないかと誘った。案の定、女部田はその人物の劇団加入に強い難色を示したが、龍三は無視した。その後間もなく彼にフィアンセが表れ、劇団を離れて結婚生活を真剣に考えることを勧めた。あとの二人は前述のとおりである。それぞれ女部田及び鍋島推薦の特撮ファンたちだったが、住民票不提示で劇団を去ってもらった。次第に女部田介入が濃厚になりつつある状況に、劇団員はもとより後援会も疑問を持っていた矢先だった。徐々に龍三たち本来の活動目的の趣旨にもそぐわなくなってきていた。龍三は後援会との綿密な脱女部田計画を立て、実行に移していた。


 遡ること、鍋島を代表にして迎え入れて間もなくに、伏線を張ったのが女部田との共催の『手料理の会 2DAYSイベント』だった。これに女部田が前向きに喰いついて来たら、劇団を自サイトの広告塔にするための介入であることはまず間違いないだろうと踏んだ。


 一日目の第一部は、参加した女部田サイトファンのために、女部田お気に入りヒーローの鍋島を中心とした手料理の会。龍三にとってこれは特別の意味があった。対人関係に於いて、これまでにも龍三が交流を絶つ相手に決まって行ってきた儀式、料理で持て成す『最後の晩餐』である。第二部は新作発表会。鍋島に花を持たせて鍋島を主役にしたショート劇に、女部田サイトファンは歓声を上げた。龍三は、女部田が難色を示した元女部田サイトファンの彼を、敢えて重要な役割に就かせていたのも、女部田と距離を置く伏線だった。


 二日目は女部田側主催のボーリング大会と飲み会。案の定、女部田が難色を示した彼は、定員オーバーという理由で参加メンバーから除外されていた。


「このイベントを慣例にしても宜しいという事ですよね」


 そう言って女部田は龍三にほくそ笑んで来た。龍三は笑顔で応えた。…逆だよ…昨日の私の手料理が最後の晩餐だよ、女部田さん…龍三は心の中でそう答えていた。


 この一連の経過が、レスでは女部田が劇団に投資家になるよう駄々を捏ねられた、援助という名目で金銭要求をされた、更にはオフ会の席でしつこく現地公演を要求されたという表現になっていた。また、女部田は過去三度程、発表会の会場に花束や駄菓子と共に祝電を送り、会場で読み上げてくれるよう求めてきたが、龍三はその要望も無視した。


「龍ちゃんが靡かないのが相当腹に据えかねてんだろうね」

「本人以外がスレ立てもせず、レスもしてないとすれば、こんなに本人の気持ちを語ってもらえて、スレを立てた人間は実に幸せ者だよな」


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●それにしても、こんな下品極まる嫌がらせで代表降ろされたら、人間ウツになるぜ?

 オフ会の企画なんて、できなくなるぜ?

●この一流劇団のミッションって、人に精神的苦痛を与えて喜ぶことですか?

●オナブタとトラブった俳優って、

 セクハラ問題で斬られた他番組の某特撮俳優と、

 タカリ問題で斬られた三龍俳優の二大イタタ巨頭だけだよね?

 他いたらソースきぼんぬ!

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「他番組の某特撮俳優って誰の事だろ?」

「多分、シャドーヒーローの加藤氏のことじゃないかな?」

「ファンの女性とかにセクハラやったのかね」

「セクハラなのか、思惑があって誰かがセクハラということにしたいのか…糞黙りだからね」


 龍三は冷ややかに笑った。


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●三龍俳優は、反オナブタのサイト常連集めて、

 君達をメジャーにしてやるから、と説得したんだろうなw

 しかし、三龍自身がいつまで経ってもメジャーになれてないのに、

 劇団の人達をメジャーにできんの? 弟子の将来に責任取れるのかな?

 公民館で千円舞台もいいけど、マスコミから全然御呼びが掛かんない状態、

 早くなんとかしないと。司会業だけじゃ弟子を売り込めないでしょ?

 しかし弟子が先にメジャーになったらなったで、

 弟子をデマで陥れて叩くんだろうなあ。

 三龍俳優は異常にプライド高そうだし。

●三龍俳優に心酔する諸氏に問う、

 君たちが求めて止まない「知的興奮」が、

 三龍俳優のもとにはあるのか?

 三龍俳優はそれを与えているのか?

●三龍俳優がオナブタ氏に「ぼくたちの劇団をメジャーにするため、

 (資金)援助してくれ」と大勢の前で迫った。

 それをオナブタ氏が大勢の前で慄然と “NO! ”と言ったため三龍俳優が恨んだ。

 ・・・と、いうことなのでちゅか?

 オナブタ側っぽい人たちの発言読んでいるとそんな印象なんでちゅけど。

 それが事実だとしたら裁判ものでちゅな。

 でも違ったとしたら相当やばいでちゅよ・・・。

●オナブタ氏は絶縁の機会を待っていたのかもしれません。 そんなとき、

 > 三龍劇団掲示板で「Nが三龍劇団を退団した」と三龍俳優が発表。

 > Nの方に非があるかのように受け取れる内容。

 > それを見たオナブタが「Nの退団の理由とその経緯をきちんと説明しろ」

 とカキコ

 オナブタはこの件に関する詳細を知っていた上で書き込んだと思われる。

 「絶縁の時 到来」、とオナブタ氏が思ったのかは知りませんが、

 説明を要求したのは、三龍俳優がNに非があると「嘘」を書いたからなのでしょう。

 ただでさえ「納得しかねる」人間が、「嘘」をついて退団する人を攻撃した。

 これは事実の提示要求をしなければなるまい、と行動したところ、宣戦を布告した。

●オナブタ氏が詳細を知っていたとしたら、三龍俳優は嘘をついている。

 追求されて逆ギレしているのだから。

 オナブタ氏が詳細を知らないとしても、三龍俳優は嘘をついている。

 Nの非道を証明すればよいのだから。

●三龍劇団の稽古場見学するのに、三龍俳優にメール申し込みが必要とか

 書いてあったが、三龍俳優にとって「都合悪い質問をする人は全員荒らし」

 なわけで、実名晒しは日常茶飯事だと分かったよ。

 三龍俳優が言う「個人情報尊重」が空念仏なら、

 年末舞台の受付で個人情報を記入するのは危険行為だな。

●「三龍劇団に所属する或る役者が以前ファンを恫喝したという噂」は、

 前からあった。

 三龍俳優が深夜に某特撮サイトの女性管理人に電話をかけたという話で、

 三龍俳優が劇団サイトの トップにそれを否定する談話を載せていた。

 しかし、その女性管理人の友人は、

 彼女から「深夜1時過ぎに三龍俳優さんから電話をかけられて困惑してる」

 と聞いていた。(その女性管理人は、三龍俳優と名刺交換したそうだ。)

 そこで、三龍俳優の否定談話を読んだ女性管理人の友人は、

 「三龍俳優さんは、深夜1時過ぎという非常識な時間に、

 女性管理人に電話した事は、本当に一度もないのですね?」と、

 メールで説明を求めようとした。だけど、それを知った周囲から、

 「義憤にかられてメールしたって、

 三龍俳優に個人情報を晒されるだけだから

 やめておけ」と止められた。

 三龍俳優は、「深夜1時過ぎに女性管理人に電話をかけた事は一度もない」と、

 再釈明しなければならない機会がくるだろうな。

●自分に都合悪い証拠を隠滅しながら、こそこそ暗躍する・・・それが三龍俳優クオリティ。

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「夜通し2ちゃんねるに張り付いてる連中が、1時を深夜だと認識してるのは意外だね。彼らにも、1時は深夜だって認識することはできてるんだね、一応」

「あたしにとっちゃ、1時は明け方だよ。3時に起きるからね」

「啓ちゃん、もう少し寝とけよ」

「昔の農作業の習慣が身に浸み付いてんだよね」

「あんたの御姑さんはきつい人だったからね」

「いびりがうまくてね。言葉がグッサグッサ、全身に刺さって来るんだよ」

「死んだ人悪く言うのはやめとけよ」

「まだ生きてるわよ」

「あれ、そうだったかい?」

「今年で90歳かな? 元気だよ。元気に徘徊だよ」

「ボケちゃってるのかい?」

「ボケちゃってるのか、とぼけちゃってるのか…自分に都合のいいことには頭が機能するんだよ」

「そしたらこの糞黙りの連中と同じなんじゃないか」

「そうだよ! 嶋田はうまいこと言うねー…」

「うまいこと言ってないでさ、早くこの不愉快な資料、見終わろうよ」

「それにしても随分話が歪曲してるね。恫喝したとか、資金援助とか」

「 “糞黙り ”だからね。真実なんてどうでもいいんだよ、叩ければね」

「劇団を潰しにかかってるのかしら?」

「光栄じゃないか、“ 劇団 ”にまで格上げしていただいて 。ここは俳優の自主トレの場だというのは、一般の人には理解できないんだろう」

「でしょうね。あたしらだって後援会員でもなければ、芸能界のことなんてチンプンカンプンですからね」

「三龍って、一流二流の三流に掛けてんでしょ?」

「でしょうね」

「向かっ腹立たないの、龍ちゃん?」

「三流で留まって良かったよ。この先、どこまで下がって行くのやら」


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●三龍俳優のやり方は、単純明快。

 不確定情報でもなんでも、さもオナブタが関わったように報じる。

 風向きが悪くなってきたら、こっそり削除。

●オナブタには “広く付き合うのも結構だが、

 ヒーローを演じた役者が皆精神までヒーローと思うな”といいたい。

 三龍俳優の一件で教訓を得ただろうが。

●この人の側に留まる者より、この人を忌み嫌い関係を絶ち、

 去っていった者の方が圧倒的に多いのではないだろうか。

 だがそれもこの人の激情の性分に起因することであるからもう仕方ない。

 女性を恫喝したりして・・w

●彦麻呂「これは恫喝の無限連鎖やぁ~~」

●三龍俳優さんは子供たちにお芝居で防犯を啓蒙するとか

 劇団のサイトで言っていなかった?

 この言行不一致ぶりがまさに三龍俳優クォリティ!

●しかし、防犯劇の演出家がリアル犯罪者だったなんてマジで洒落ならんな。

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「今度は犯罪者にされてるぞ」

「叩く相手を “犯罪者 ”とか “異常者 ”にするのは、彼らのお決まりらしい。早瀬くんが、いろいろと2ちゃんねるの決まり事をレクチャーしてくれたよ」

「昔、教室にいたね。何でも尾鰭を付けて先生に告げ口する嘘吐きが…」

「志奈子にはほんとに参ったよ」

「いたいた、志奈子ね! 根性腐ってたよね」

「先生もひどかったな。志奈子んちからの豪華な盆暮れで、嘘と分かってても俺たちを廊下に立たせるんだ。毎日誰かが廊下で筋トレだったよな」

「杉ちゃんはしょっちゅう先生に頭叩かれてたね」

「おかげで頭の骨が強くなったね。耕運機に撥ねられて電柱に頭打ったけど何ともなかったから」

「あれだね…人間は叩かれれば、どっかは強くなるね」

「志奈子が早死にしたのは、腫れ物に触るように育てられたからじゃないの?」

「自殺だよ、男に振られて…」

「気の毒だよね」

「元を質せば、豪華な盆暮れのせいだろ」

「女部田氏も龍さんのところに豪華なバラの花束を贈ってきたそうだな。盆暮れもまめに送ってよこしたんだろ。尤も、龍さんのところだけじゃなく、主催イベントに参加してほしくて俳優陣にはばら撒いてんだろうとは思うけど」

「龍さん、不器用なんだよ。終いには送り返したっていうから」

「あらー、どうしてまた」

「複数の特撮ファンらも競うように送って来るようになったんで、全員に送り返したんだよ、悪評立ってもいいからやめさせるために。私はそういう立場ではないんで。でも、ある俳優の言葉にはがっかりしたよ。先方の期待に応えるつもりは全くないけど、いただけるものはいただくって…平然と言うから」

「龍ちゃんは真意が分かってもらえるまでに時間が掛かる人なんだよね。あたしたちは小さい時から龍ちゃんを知ってるから分かるけど」

「龍ちゃんの人間味は、こいつらには一生分からないだろうね」


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●渦中の三龍劇団に入団して、俺が未来を救おうと思ってたのに・・・

●喫煙者は入団できないんだってさ。

●タバコ一本 火事のもと ちゅうことで、

●劇団を 火の車 にしたくなかったのかな。

●アニアイザーの貸しDVD全巻残ってますた。

 あんなんかりる人いないってこと?

 思いっきし三龍俳優さんのいきがってる表紙に笑ってしまった。

 結構小柄?

 準主役に見えんかった。

 893入って見えたけど w

●取り巻き以外は全員敵か他人という漢もいる。

 三流俳優の中の極めつけの三龍、漢の中の漢。

 直情は、平成日本が忘れた漢の文化だ。

 孤高の天災とは三龍にこそ相応しい。

●別に義理があるわけでもないサイトのために

 余裕の言葉を綴る人達と、

 一所懸命に居場所を守ろうと拙い言葉を取り繕う舞台俳優たち・・・

 このスレもこの辺まで進むと、舞台俳優軍団に同情しちゃうから不思議だ。

●偉大な変才・三龍は、このことを初めから見通していたのではないか。

 次作、それはブタ箱からの実験的な一人舞台である。

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 嶋田は憤った。


「こいつら何様なんだ! これだから特撮ファンはキチガイ扱いされても仕方がないんだ」

「それは危険な落とし穴だよ」


 龍三が静かに話し始めた。


「俳優仲間の噂を聞いて、最初はオレもそう思った。しかし、この2ちゃんねるの書き込みを見ると一目瞭然じゃないか」

「だろう、やつらはキチガイなんだよ」

「そうじゃなくて、ここに書き込みしている連中は、特撮ファンなんかじゃないよ」

「でも、ここには特撮ファンだから書き込んでんだろ」

「いや、特撮ファンじゃないよ。こいつらは自分で自分を傷付けてることに気付かない “自傷 ”特撮ファンだから書き込めるんだよ」

「この書き込みが龍ちゃんを傷付けているというより、書き込んでる本人を傷付けているということ?」

「そういうことになるだろ。だって、出演者を愚弄するのが特撮ファンの本分ではないだろ。本当に特撮番組を愛するなら、出演者のことよりストーリィ展開の醍醐味が優先するはずだ。キャスティングは二の次なはずだよ」

「でも、やっぱり主役が好きだから番組が好きということになるだろ」

「それはミーハーの領域で、特撮番組でなくてもいいことだ」

「じゃ、こいつらは何なんだ?」

「欲求不満連中だよ。欲求不満連中が偶々特撮番組に興味を持ってるだけなんだ。特撮ファンというのを一種類にしたら危険な落とし穴に落ちる。こいつらは欲求不満で心の腐った連中なんだよ」

「確かにこの陰湿な文章は、腐ってなきゃ書けないよな」

「そして、こいつらの存在には深刻な弊害がある。オレが誹謗中傷されたところで、オレだけの問題だが、実は、特撮ファンにとっては寧ろ大迷惑な連中なんだよ。さっき嶋田が言っただろ … “これだから特撮ファンはキチガイ扱いされても仕方がない ”って」

「…確かに」

「一種類にするとそういう結論に至ってしまう…今後の対策を誤ることになりかねない」

「だね」

「ここの連中は特撮ファンではなく、単なる腐った欲求不満連中だと位置付ければいい」

「そう考えると対策を絞れる気がするわね」

「やつらには、見ようとするものしか見えないんだよ」

「カエサルの言葉か…ぴったりだね」


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●オナブタ擁護派の人たちのログをツーッと読み返してみると、

 余裕どころか超ムキになっているようなのだが・・・。

 特にある種のキーワードの後は、画面を占領せんかの勢いなのだが。。。

 特に鍋ネタの後は、必死・・・。

●朧月子、頑張れよ。

●芸能事務所は、仕事が出来る使える役者しか置かないよ。

 失礼だけど、特撮俳優諸氏も他の事務所も、

 三龍俳優さんを使える役者として見ていないし、必要としていない。

 三龍俳優さんだってそれが分かってるから、

 反オナブタで一致した素人を集めて、お遊戯演劇に執着するしかない。

●芸能界の仕事がないから、結婚式の司会とかやっているんでしょ、三龍さん

 食べていけないから、会う人会う人に

 「援助してくれ。」とか

 「劇団の公演をやらせてくれ。」とか、

 無理難題を吹っかけては退かれている。

 オナブタ氏は、三龍さんとトラブる前に

 三龍さんの狙い=援助ねだり、を見抜いて離れるべきだった。

 そこの所はお粗末だった。

●ひとりぐらい破天荒な人がいても良いんじゃないか?

 この人が死のうと生きようとオレには全く関係無いし・・・w

 彼と関わってしまった人は敵味方問わず可哀想だから最後まで付き合ってあげなよ。

 イヤな言い方だが犬コロなら手に余れば保健所に連れて行けば良いけれど

 一応人間だからなぁ・・・(w

 関わってしまった人はとにかくご愁傷様です。

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「今度は一端の芸能評論家気取りか…」

「いや、この知ったかぶりはどこぞの雑誌編集社でクソ記事しか書けないうだつの上がらない万年編集員かもよ」

「恩着せがましく援助、援助って…何ですかね? 龍ちゃんの劇団のスポンサー面して裏切られたとかほざいてますね」

「この連中は、龍ちゃんたちが通常の劇団活動をしていると思い違いしているようだな」


 一般に劇団というのは定期公演を “行 ”または “業 ”としている。 小舞台の場合、少なくとも一回の公演に300万から600万の予算が必要となる。そのために第三者の “援助”が必要となる。しかし、龍三のグループは公演を目的としていないので一切の “援助”を必要としていなかった。「脚本研究」が目的なので、新作が完成すれば稽古を公開にして観客を無料招待し、作品の感想を乞う方式を取っている。その資料によって作品に磨きをかけ、仕上げた脚本は、必要としている演劇サークルに提供する事が最終目的だ。劇団員の稽古も脚本の進化過程に乗れるから普通以上に稽古のし甲斐がある。劇団のそうした活動目的を知らないネット上の龍三叩きは、根本から的外れで空振りをしていた。


「支配者目線だな、どいつも。自分が正義だと信じ込んでやがる」

「他人様を叩くことで偉くなったとでも思いたいのね、この欲求不満連中は」

「この欲求不満連中と言ったって、恐らく二桁にも満たない数だ。いや、数名だけの可能性の方が高い。どの書き込みも、考え方が同じ過ぎて気持ち悪いじゃないか。下手すりゃ一人でも違和感のないほどの重複書き込みだ」

「話し合って役割分担して誹謗中傷してるんじゃない?」

「話し合ってるんなら数人って線が現実的ね。こんな恥ずかしいことを何十人もで話し合えないでしょ」

「そういうことだな」

「じゃ、絞り易くなるわね」

「そこなんだよ。だから、対策のターゲットはひとりに絞ればいいと思うんだ」

「ひとりに!」

「主犯の協力者はオレに接触して来る可能性が高いと読んでる」

「そんな勇気あるかしら?」

「勇気じゃないよ、主犯格との関係に於ける何らかの理由で断り切れなくなって、オレに接触するしかなくなって来るんだよ」

「主犯はこのスレのお山の大将でいるしかできない屁垂れか」

「しかも、オレの刺客で来るのは女だね」

「なんで?」

「主犯は気位が高いようだから…ということは、同性に頼むのは抵抗があるはず」

「龍ちゃんらしいね。やんちゃな頃、龍ちゃんは喧嘩の相手が何人いても、攻める相手は敵ボス一人だけだったからね」

「小心者なボスほど、つるむ習性があるからね。そいつの取り巻きにはネカフェ住人とか人間関係に事情のある奴のほうが多いんだよ」

「しかし、協力者だっていつまでも見過ごしにはできないだろ」

「ボスとこっちの力関係をはっきりさせるのが先決だよ。特に、このスレの協力者は風見鶏が多い。自分たちのボスが敵より弱いかもしれないとなれば、ボスに義理立てしてまで協力をする連中かな? 匿名を盾にして推定と噂だけで燥いでる腐った連中だよ」

「協力者は見過ごす気か?」

「しつこい協力者には容赦しないつもりだよ。でも、まずボスだよ、ボス」

「ボスといっても、まずこのスレのボスが誰であるかを明らかにしないと話が進まないだろ」

「いや、それは今は困る」

「困るって…どうして? 取り敢えず開示請求すれば済むことだろ」

「いや、しばらくこのまま主犯には暴走していただいて、関係のないまともな特撮ファンたちにたっぷり迷惑を掛けてもらう。特撮ファンには、この腐った特撮ファンと称する連中に対してもっともっと嫌悪感を抱いていただく必要がある」

「龍ちゃんの腹はもう決まってるのね」

 龍三は後援会の一同にショッキングな決意を離した。

「決まってるよ…主犯には最後に死んでもらうつもりだよ」


 一同は言葉を失った。


「もう、計画も立てた。完全犯罪にしてやる。やつが死んだらオレが殺したんだ」

「よ、よしなよ龍ちゃん!」

「冗談だよな、いつもの強烈な龍ちゃん流の…」


 部屋の空気が真空になった。


「冗談と言ってくれよ、龍ちゃん!」


 龍三は微笑んだ。


「…ああ、冗談だよ」


 朧月子から抗議の電話があってすぐに龍三叩きの新スレが立ち、数日後に迫った試演会への妨害行為を臭わす脅迫レスなども投稿されたが、劇団のHPにその事実を晒し、屈強な防衛人員を準備していることを発表したのが幸いしてか、何事もなく無事に乗り切った。 


 試演会打ち上げ後、初めての稽古日になって早瀬慎次が劇団事務所に駆け込んで来た。


「松橋さん、ついにスレパートⅢが始まりました!」

「大盛況のようだね」

「え?」


 劇団事務所には既に後援会の嶋田と杉渕、そしてこの日も伊藤啓子ら三人のご婦人たちが揃っていた。龍三の机の上には、新たなスレの魚拓資料などが置かれていた。


「あ…ボクもそれ、プリントアウトして来ました。必要なかったですね」

「ありがとう、早瀬の分は壁に貼ってリボンでも附けて飾ろうか」

「松橋さん…」


 早瀬はこの深刻な事態を他人事のように言っている龍三が意外だった。


「私は劇団のホームページでこのスレの存在をもっとアピールするよ。彼らもそうしてほしいだろうから」

「松橋さん、それは火に油を注ぐようなものです! やめたほうがいいです!」

「2ちゃんねるに詳しい早瀬の助言だが、敢えて油を注ぐんだよ」

「そんなことをしたら、大炎上しますよ」

「大炎上させるんだよ。主演カキコを発狂させるんだよ」

「そんな…」

「 “主演カキコ ” か…いい命名だな」

「主演カキコって…」

「後援会の皆さんと話し合って、受けて立つ姿勢だけは明確に示すことにした。従来の常識では無視するのがよしとされてきたが、それは折角頑張っている糞溜りの連中に失礼だろうということになってね。もっと徹底的に炎上してもらうことにした。ただ、こちらの闘いの土俵は2ちゃんねるのスレッドではない。我々が闘うのは、舞台の上の己自身。面白い作品を発表することがこちらの攻撃」

「しかし、悪評が立てば松橋さんの仕事に響くんじゃ…」

「覚悟の上だよ。2ちゃんねるで好き放題暴れる連中を信用する方々からお仕事をいただくつもりはないよ。向こうは自分らが暴れた分、自分自身の墓の土を深く掘ることになる。あそこは “糞黙り ”だ。いずれ主演カキコ自身が腐ってくる。その先には自身への無限のリンチが待っている。勧善懲悪の時代劇がなぜ長寿番組になったか…糞溜りの野郎どもが痛い目に遭うのが万民の快感だからだよ」

「 “糞黙り ”か…それもいい命名だな。糞黙りの主演カキコ…笑えるね。面白くなってきやがった。しっかり調べたる」


 探偵社を経営する杉渕はふてぶてしくにんまりした。


「匿名を盾の糞黙りのクソどもは、弱いものしか餌食にできない。うちの社を挙げて主演カキコのケツの穴まで調べ上げてやるよ。2ちゃんねるはいずれやつの拷問部屋と化す定めだ。時間を掛けてじっくり自滅させてやるよ」

「杉ちゃん、お若い早瀬さんが怖がってるじゃないのよ」

「趣味2ちゃんねるサーファーの早瀬くん、ひとりのバカが崩壊していく過程をしっかり観察しなさいよ。芸の肥やしになる相当密度の濃い糞溜り劇場が拝めるぞ」

「は、はい!」


 杉渕は大笑いした。


「杉ちゃん、それにしてもさ、これからどんな経過になるのよ」

「まず、主演カキコの裏切り者が現れるね」

「裏切り者は最初から居るだろ。主演カキコの裏切者は、そうしたバカなことを始めてしまった主演カキコ当人だよ」

「それはそうだが、当人は死んでもそのことに気付かないだろ」

「だろうね」

「というわけで、周囲の大勢が気付けば勝負ありだ。今のところ、やつに迷惑を蒙った関係者は極一部だ。彼らは面倒になるのを恐れて口を噤んでいるから、主演カキコのやりたい放題は野放しなんだ。情報を晒して主演カキコの悪質さを知る人間の輪を広げることが我々のやるべきことだ。糞黙りのレスでは龍ちゃんを叩いてるように見えるだろうが、他人を叩くという事は、己を蔑む最たる行為だ。叩く行為が長くなればなるほど、主演カキコの執拗な粘着質が晒されることになる。そのうち、主演カキコとトラブルのない関係者が警戒するようになる」

「主演カキコが女部田だった場合、女部田特異のイベント時の共催者がいなくなるということね」

「そういうことだ。そうなれば、女部田の共催者漁りが始まる。みんな逃げ腰の態度に女部田がブチ切れるのは時間の問題だ。そうなると、人気イベンターが目障りになる。龍ちゃん叩きの一方で、新たなイベンター叩きのスレを立てるだろう。龍ちゃんは2ちゃんねるの雄叫び無視を決め込んでいるが、叩かれたイベンターはそうはならないはずだ。女部田に反撃することはまず間違いない。となれば、過去に女部田に迷惑を蒙った連中が外野から続々参戦する可能背は高い。女部田は龍ちゃん叩きとイベンターの反撃で忙しくなるだろう。さらにスレ立ての犯人探しになる。結果、女部田が浮上し、名前とこれまでの行状に尾鰭が付いて晒されることになる。女部田はどうするか…犯人を自分以外の第三者に擦り付けようと必死になる。その時、やつは地獄の入り口に立つんだよ」

「龍ちゃん、今の杉渕の予測を舞台化したらいいじゃないか」


 嶋田はそう言って笑った。いつの間にか劇団員が全員、事務所入口に集まって杉渕の話を聞いていた。


「みんなも他人の足を引っ張ったところで、優れた俳優にはなれないぞ。そんな時間があったら稽古に勤しむことだな。さて、稽古を始めるぞ!」


〈第6話「偽装の助け舟」につづく〉

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