第73話 講演者

 地域の商工会、商店街有志の連合で、講演会が開催されることになった。

テーマは、「地域を元気にする、よそ者、ばか者、若者」である。

広志の副題は、「たたかれても しばかれても 突かれても」である。


 講演要請が来て、「それだけは勘弁してほしい」の声は

皆の声援で、かき消された。


 困ったのは、開催場所が、以前、1級審査で、剣道形を失敗した

体育館であったこと・・・。

実は、内心、広志のトラウマになっていたのである。


あの時の、混乱、パニックは、尋常ではなかった。

普段稽古でやっていることが全て一瞬にして抜け落ちたのだ。

二度とあそこには、足を踏み入れまいと誓っていた。


 広志が、秘かに思っていたことを、言葉にすると・・

・・・あそこには・・・魔物がいる・・・・。


 子供達の指導をしていながら、情けないのだが

これだけは苦手で、どうしようもないのである・・・。


 出来るものなら逃げたいが、もう決まってしまった・・・・。


 それでも何とか理由をつけて

別の方に代わってもらえまいかなどと悶々としている間に

当日がやって来た。


 いつも子供達に心の重要性、気の修練をしていながら

自身、情けない気持ちで一杯になった。


 広志には子供の時から、妙な苦手意識があり

一度、苦手と思い込むと、そこからは

未来永劫抜け出せぬような暗い気分に落ち込む癖がある。


あがり症でもあった。


 それではいけない!自分は、指導者なのだ!と

自分に鞭を入れて会場に向かった。

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