第67話 搬送

 周りの山々は、見事な紅葉である。


 そんな、のどかな一角に

時ならぬパトカー、救急車が駆けつけた。


 付近の農家の人々や

昨夜の建築会社の面々が

腕組みしながら囁きあっている。


 「喧嘩やないで。猪にやられたみたいや」

 「恐いねえ、いのしし。こんなとこまで来てるんや」

「あの人 死んでるん? どうなん?」


 遠巻きに見ている人達の間を縫って

由紀が到着した。

もう、半狂乱状態である。


「なんで?なんで?」

「車は、うちの車やけんど・・・」


しばらく覗き込んでいた由紀が叫ぶ!


「おとうさん!おとうさん!! 起きて! 目あけて!!おとうさん!!」


警察官が由紀をかばって必死に押さえている。


救急隊員が広志を搬送する。


 かなりの重症か、重体か

もう手遅れなのか・・・・。


現場から最短距離の

東かがわ市総合病院に、広志は緊急搬送された。


 事件は、地元の早朝ニュースで放映され

改めて猪の恐さを地元民が思い知る事となった。


緊急の輸血が必要!


 剣道の先生方が直ちに動いてくれた。


 若手の剣士達が、平日であるにも関わらず

二人、三人と病院に駆けつけ

輸血が始まった。


何と9人もの若者が集合し

その内、4人が輸血をしてくれた。


病院の血液保管量は、当日極めて

少ない状況下にあったので

この輸血は、貴重であった。


 手術の医師は、同じ剣道会の愛甲先生であった。

まさに剣道会をあげて、広志を救おうと必死であった。


手術は成功した。


が、しかし、予断は許されない状況であった。


 長時間にわたり、出血状態のまま、倒れていたのが

仇となり、3日3晩に渡り、危篤状態が続いた・・・。


本人の意識も、まだ回復していなかった・・・。









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