第36話 横合いからの邪推者

 剣道界というのは、一種特異な世界のようで

年長者といえども、自分より段が下の場合には

極端に対応が変わる。

特に若い者にその傾向が顕著である。


 広志が入門した頃には、高齢者が多く

何かと教えをいただき、感謝の毎日であったが

彼女が入って来てからというもの

若い剣士が増え、正直、着替えにも

気をつかう有様。

自分の居場所がなくなりつつあるような

変な感じがした。


 そんなある日、地稽古で順番待ちの

広志の横に、彼女が居た。

珍しく相手が居ないようで

手持ち無沙汰で寂しそうであった。


 広志は、彼女の入門当時、車座になった

稽古始めの席で、森先生から

「面打ちの相手になってやれ」と指示を受けていた。


 何度か、面打ちの相手をしたが

力任せに打って来る彼女の面は

正直、脳に響いた・・・。

痛いというものではない。

ズシン!!と頭蓋骨に響くのだ。


 壊されるというのが実感であった。

それやこれやで、面打ちは久し振りであったが

それでも、彼女に声かけをして

道場の中央に進み出た。


 その時、横で稽古していた下司と言う

若者が、自分の稽古相手と鍔ぜり合いの

途中なのに、横向きに怒鳴った!

「何しよんならあ、やめえ、やめえ!!」

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