第33話 「みんな、待ちゆうぜ」

 春の終わりまで広志はボーッと過ごした。

仕事も電話依頼分だけを粛々と済ませた。


 古本屋で時代小説の文庫本を買い

片っ端から読んだ。

江戸時代とかに自分を無理やり移し変えたかったのだ。


 人の死は、時に自分の心をも蝕む。

稽古もずーっと休んだ。

この感覚は、6年前の母の死に繋がった。

3年間の母の介護の記憶が

再び広志を苦しめる。


 元気を失くした広志を、由紀は心配するが

元々、剣道は辞めて欲しいと思っていたので

黙って広志を見守っている。

・・この際、やめてくれたら、安心や・・・。


 そんな折 

森先生から広志に電話があった。

鉄舟先生の快気祝いを、先生のご自宅でするらしい。

「出てきいよ。みんな待ちゆうぜ」

ありがたい連絡である。




 


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