第22話 狙い撃ちされたんや・・・。

 一礼した後、退がって休もうかと思ったが

すぐに思いなおして、別の地稽古組の

順番待ちに加わった。

右脇が燃えるようだ。

すぐにでも、胴をはずして、垂れをはずして

見てみたいが、それも気が引ける・・。


 何とその後、3人の先生に稽古をつけて

いただいた。

 稽古の後の清掃でも普段通りの

モップ掛けをした。平然と。

倉庫の入り口で、掃除の終わったモップを

次々と受け取り、奥に収納する。

 横山というおっさんは、掃除にも加わらず

いつの間にか姿を消した。

誰も広志が、そのような胴打ちを受けたことに

気がついていないようである。

 着替えの間も何事もなかった顔で

広志は道場を出た。


 帰宅後、右脇下を見てみたら

何も痕跡がないのである。

あれーーっ、なんで?

しかし、痛いのは痛い。

昔、医者でもらった湿布薬を張って

早々と布団に潜り込んだ。

これは、悪夢だ・・・・。

打たれた時の事を思い出す。

・・・・・・

相手は、胴を打たず最初から下側を打ってきた。

竹刀は、竹で出来ているが

これが、思いの他、痛いのである。

1発は、垂れの上から思い切り腰の骨を

しばきあげて来た。

あとの、2発は、いずれも、垂れと胴の間の

ほんのわずかの隙間を思い切りたたき上げている。

広志の身体を守ってくれていたのは

稽古着だけであったのだ

右の腸部分を打ち込まれている・・・・。


 最近広志は、喉に隙があるとの指摘を受けていて

胴をかなり上に着装していた。

少し下がった垂れと、上に引き上げていた胴の

間隙を狙われた・・・・。

 7段の腕前の者が、打ち損じるはずはない。

広志は、竹刀を持ち上げて、じっと動かずにいるわけだから

・・・・・・故意に打ち込んで来たのだ・・・・。

広志は、すれ違いざまに見た、相手の

薄笑いのような表情を思い出して

薄気味悪くなってきた。

 なんで?なんで?

なんで?どうして?

広志は、稽古疲れも重なり

いつのまにか漆黒の闇に落ちた・・・・。





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