第19話 「半時間早う、出てきまい」

  7本の剣道形には、打太刀と仕太刀の役割分担があり

稽古の始めに、双方いずれで動くかを決める。

原則的には

打太刀の動きに仕太刀が追従するような流れとなる。


7本ではあるが、役割が代わると、相手の7本を

受け持つので、計14本となる。

この14本がきちんと出来るようになれば

剣道が更に面白いものとなる。


 教わる方も大変だが、教える方も大変である。

特にこの道場は、地稽古を主としており

道場中央にて車座になった全員の黙想が済むと

すぐに面付けが始まり

選ばれし2人が、中央に進み出て

雄叫びをあげる。

「ええええーい、面!!」

これが始まりの合図であり

そこから1時間以上、道場狭しと

剣士の戦いが始まる。

稽古終了後は、体育館なので

地元の婦人会のバレーボールが始まる。

従って剣道形の稽古時間がとれないのである。


「益田さん 稽古の始まる半時間まえくらいに来まい」

*来まい(きまい)と言うのは讃岐言葉で

 おいでなさいと言う意味)

広志の稽古時間は、30分増えることとなった。

それでも、広志は剣道形が好きであった。

どちらかといえば、他人の頭を叩くことよりも

形でゆっくりと進む稽古が自分に合っていると

感じていた。

稽古はゆっくりと進むが、季節の進みは早い。

もうすぐ12月である。





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