第13話 天敵現わる

稽古のある夕方、自宅を出る時に

東の空に輝いていたひときわ明るい星は

日脚が延びるに従って見えなくなってきた。


 体育館の倉庫から、打ち込み台を出して来て

若い先生が、激しい面打ちをしている。


足運びと踏み込み、速やかな面打ちを

会得するには格好の練習台である。

これがあれば、一人でも

かなりの稽古が出来る。

 

 傍で見ていた広志に

「やってみたら」と勧めてくれたのは

みんなに大作先生と呼ばれている40歳くらいの

学校の先生で、真面目な方である。

あまり喋らない。

タイミングを身体に覚えこますには

絶好の道具である。

 一汗かいて、2人で倉庫に台を収納する。

もうそろそろ皆が集まる時間だ。

大きくて重い台なので片づけが大変である。


 稽古着に着替えた背の高い方が入って来て

倉庫の中の2人に

「何しよんなら」と声を掛けてきた。

「こんばんわ」とすかさず挨拶をする。

大作先生は、無言で台を倉庫の奥側に押し込んでいる。

「あんたか、還暦で、稽古始めたんは」

「はい、益田と言います。よろしくお願いします」

「めくら、蛇におじずじゃのう」

あんまり感じの良い方ではないのう・・・・・。


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