麗しのサルミアッキ

 ここは、きのこたちの住むマタンゴ王国。

 この国のお姫様、アンズタケのジロール姫はある日、召使いたちがおしゃべりしているのを立ち聞きしました。

 そのなかに《サルミアッキ》という耳慣れない言葉が聞こえ、ジロール姫はそれが気になってしかたありませんでした。

 とはいえ、ハパンシラッカの一件(『愛しのハパンシラッカ』を参照)で懲りたジロール姫は、サルミアッキについて、念入りに調査しました。

 その結果、どうやらサルミアッキというのはキャンディのようなお菓子であること、炭のように真っ黒であること、慣れない者にとっては摩訶不思議な味がすること……などが分かりました。

 しかし、変わった味と言われると、却って食べてみたくなるのが菌の性。

 ジロール姫は父であるポルチーニにサルミアッキを強請りました。

 可愛いジロール姫の為なら、どんなことでもしてやりたいポルチーニ。さっそく国中に使いを出してサルミアッキを探させました。

 その結果、森に住む物知りのかたつむりがサルミアッキについて知っているということが分かり、かたつむりは城に呼び出されました。


 「ええ、あれはアタクシも大好物です。以前はよく自分で作ったものですが、近頃では、材料であるリコリス草が手に入りにくくなってしまって、とんと……」

 かたつむりは言いました。

 「ふむ。それでは、そのリコリス草とやらが手に入れば、サルミアッキを作ることができるのだな」

 「そういうことです」

 それを聞いたポルチーニは、さっそく王国中に遣いを出しました。

 さすがは世界一の大国。かたつむり一匹では見つけることのできなかったリコリス草はすぐに発見されました。かたつむりは再び城に呼び出されました。


 「リコリス草は手に入った。さっそくサルミアッキを作ってくれまいか」

 「それはいいんですが、アタクシにも食べさせていただけるんでしょうね」

 「もちろんだ。好きなだけ食すが良い」

 それを聞くと、かたつむりは背負っていた殻のなかから何かを取り出しました。それは、猫の姿をした小便小僧の置き物でした。

 「水と火、それに鍋を用意して戴けますかな」

 かたつむりの前に水と火が運ばれてきました。

 かたつむりは、猫の置き物の頭のところをカパリと開けると、なにやら白い粉末と水を流し入れました。

 しばらくすると、置き物から液体が流れ出てきました。

 かたつむりはそれを鍋で受けると、その鍋を火にかけました。

 液体が沸騰すると、かたつむりは其処にリコリス草をパッと落とし入れました。

 ぐつぐつぐつぐつ……。

 しばらく煮込み続けると、鍋の中には真っ黒でデロリとしたものが出来上がっていました。

 「あとはこいつを固めれば出来上がり」

 そうして、その日はかたつむりは帰っていきました。

 次の日。

 再び城を訪れたかたつむりを、サルミアッキを手にした召使いと、目をキラキラと輝かせたジロール姫が待っていました。

 「お主のおかげでサルミアッキを作ることができた。礼を言おう。さあ、まずはお主が食すが良い」

 「へっへっへ。それじゃお言葉に甘えて」

 かたつむりはサルミアッキをひょいと一欠つまむと、ぱくりと口に放り込みました。

 それを見ていたジロール姫。

 「ねえねえ。もう食べてもいいんでしょう」

 朝早くから起きてかたつむりを待っていたジロール姫。もう我慢の限界のよう。

 「ああ、お前も食べなさい」

 ポルチーニは嬉しそうに言いました。

 召使いがサルミアッキの入った箱を差し出すと、ジロール姫はそれをのぞき込みました。

 ――その時。

 凄まじいアンモニア臭がジロール姫の鼻を襲いました。

 その匂いを嗅いだジロール姫は、ぱたりと気絶してしまいました。(おしまい)

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