紅茶の海
あるところに、ニルギリ王国という紅茶の国がありました。この国は茶葉の交易で栄えた国として世界的に有名でした。王国最大の都市、ペコーの港には、良質の茶葉を求めて世界中の人々が集まっていました。
ニルギリ王国の国王、ダージリンも、紅茶をこよなく愛す者の一人でした。彼の懸命な努力の結果、この国に住む者は、裕福であってもそうでなくても、誰もが紅茶を飲むことができるようになりました。
しかし、ダージリンがその地位を退き、息子であるアッサムに国王の座を譲ったことから、事態は一変しました。彼はしだいに、紅茶を独り占めしたいと考え始めたのです。そして、とうとうアッサムは、王様以外は紅茶を飲んではいけないというお触れを出しました。
「さあ、早く積荷を降ろすんだ!」
水夫は傲慢きわまりない態度で言いました。
アッサムのお触れにより、港に持ち込まれた茶葉はすべて、城に運ばれるようになっていました。そして、そのために町民が無償で駆り出されていたのでした。
「なにをぼさっとしている!さっさと積荷を降ろせ!」
水夫は男の背中をどんと押しました。
急に背中を押された男は、誤って持っていた木箱を海に落としてしまいました。
「なにをやってるんだ!のろま!」
そのことばに、男はとうとう我慢の限界に達しました。男は、近くにあった木箱を次から次へと海に投げ込みました。
「こ、こら!なにをしている!」
そのようすを見ていた他の町民も、いっせいに木箱を海に投げ込みはじめました。これには水夫も、ただ呆然とながめているより他ありませんでした。
一部始終をお城の窓からながめていたアッサム。結束した町民の勢いに恐れをなしたのでしょうか。あわててお触れを撤回しました。
こうして、ふたたび紅茶はみんなのものになりました。けれど、あのとき海に投げ込まれた茶葉はすっかり海の底にしずんでしまって、回収することはできませんでした。
そのため、いまでもニルギリ王国の海は、紅い、紅茶の色をしているのです。
(おしまい)
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