たんぽぽ

 あるところに、アネモネ王国という、お花の国がありました。この国では、季節ごとにさまざまな色のお花を見ることができます。

 今は春。

 この国の小高い丘の上に、女の子のたんぽぽが二輪、仲良く並んで咲いていました。

 二人は毎日、いろんなことについておしゃべりしました。鳥のこと、虫のこと、星のこと……。いくらしゃべってもしゃべり足りませんでした。

 今日も二人はわいわいおしゃべりをしていました。


「みてみて!あんなところで猫がお昼寝してる」

「ほんと!くすくす……あんなに大きな口を開けて」

 その猫を見ていたたんぽぽはふと、あることを思い出しました。

「そういえば、昨日の夜、お空にライオンがいたよ。あなたはすっかり眠っていたから見なかったでしょうけどね」

 たんぽぽは得意気に言いました。

「ライオンは地面を歩いているのよ。お空にいるわけがないじゃない」

 たんぽぽは馬鹿にしたように言いました。

「だっていたんだもの!」

「うそつき!」

 とうとう二人はそっぽを向いてしまいました。


来る日も来る日も、二人はそっぽを向いたまま、一言もしゃべりませんでした。

 ときおり、あちらがどうしているか気になってちらりと隣を見たりしましたが、どちらも話しかけることはありませんでした。


 ある朝、目を覚ましたたんぽぽは、また、あちらに気づかれないようにちらりと隣を見ました。しかし……

「どうしたの、それ!」

 今日は思わず声をかけてしまいました。

「えへへ。ど、どうかなぁ?」

 たんぽぽの顔は、たくさんの綿毛で覆われていました。

「すてきすてき!」

 たんぽぽは、興奮して言いました。

「ありがとう!」

 たんぽぽは、照れくさそうに言いました。ふたたび、二人のあいだに沈黙がおとずれました。

「あのね!」

 二人は同時に言いました。

「なあに?」

 たんぽぽは先をうながしました。

「ずっとずっと謝ろうと思ってたの。嘘つきだなんて言って、ごめんね」

 たんぽぽは少しうなだれました。

「こっちこそ、つまらないことで怒って、ごめんね」

 たんぽぽは決まりが悪そうに笑いました。

「また、たくさんお話しようね!」

 たんぽぽは笑いました。

「うん!だけど……」

 たんぽぽは急に寂しそうな顔をしました。

「もうお別れみたい。あなたの隣で一生を過ごせて、本当に楽しかったよ」

「え!それってどういう…」

 たんぽぽが聞こうとしたとき、二人の間を勢い良く春の風が吹き抜けました。

 その瞬間、たんぽぽはたくさんの綿毛となって空に舞い上がりました。たんぽぽには、その綿毛のひとつひとつが「ありがとう」と言っているように見えました。


 その夜、たんぽぽは寂しさのあまり一人でしくしくと泣いていました。

 そのときふと、たんぽぽが言っていたことを思い出して、たんぽぽは夜空を見上げました。

 そこには、たしかにライオンがいました。

 そう。春の星座、しし座です。

「本当にいたんだ!」

 たんぽぽは、飽きることなく、いつまでもいつまでも星座を見続けました。

 そのたてがみは、毎日隣で見ていたたんぽぽの顔に、少しだけ似ていました。

(おしまい)

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