こけしかマトリョーシカ

 あるところに、パペット王国という、人形の国がありました。王国には、世界中のありとあらゆる種類の人形が集まっていました。

 これは、そんな国のできごとです。


 ある日、青年が沼へ行くと、きれいな女性が溺れていました。青年は いそいで丈夫そうな木の枝を見つけてきて彼女を助けてあげました。

「ありがとう、助かったわ。お礼にこれをあげる」

 そういって彼女が差し出したのは、とてもかわいらしい、二体の人形でした。

「こけしか、マトリョーシカ。どちらか好きな方をあげるわ」

 青年は悩んだすえに、マトリョーシカの方を選びました。

「私はあの家に住んでいるの。こんどまた遊びに来てちょうだい」

 彼女は去っていきました。

 家に帰った青年が、なにげなくマトリョーシカをなでていると、真ん中からパカっと開いて、中からマトリョーシカが飛び出してきました。

 少しすると、出てきたマトリョーシカは、元のマトリョーシカとおんなじ大きさになりました。そしてそれを開くとまた……。

「こりゃあいいや」

 青年はこのマトリョーシカを使って、ひともうけすることを考えました。

 マトリョーシカは、そのかわいさも手伝って飛ぶように売れました。

青年の財産はどんどん増えて行きました。なにせ売り物にこまることはありません。

 そのうちに、青年は美しい女性と結婚しました。二人のあいだには、たくさんの子どもができました。

 青年は子どもたちを育てるために、さらに商売に身を入れました。


 ある日、お店の在庫が少なくなっていることに気がついた青年は、また、マトリョーシカを開きました。

 そのとき、嫌な音とともにマトリョーシカが破裂して、なかからおびただしい数のマトリョーシカが飛び出しました。

 そして、マトリョーシカたちはお互いを開けっこして、どんどん増えていきます。

 マトリョーシカは子どもを捕まえると、自分のなかにどんどんしまっていきました。そのようすに怯えた妻は、押し入れに隠れてしまいました。

 青年は家を飛び出しました。


 青年が駆け込んだ先は、シーモン老師のところでした。老師はこの国の賢者で、人形のことならなんでも知っています。

 青年がすべてを洗いざらい打ち明けると、

「それは、マトリョーシカのたたりじゃな」

 とシモン老師は言いました。

「一体どうすれば……」

 青年がたずねると、シモン老師は少し考えて言いました。

「昔、聞いたことがある。こけしという人形には子消し……つまり、増えすぎたものを消すチカラがあると」

 それを聞くと、青年は家に帰り、全財産を持って、沼の、あの女性の家に行きました。

 彼女はまだそこに住んでいました。青年は、全財産と引き換えに、こけしを売ってもらいました。


 家に帰ると、マトリョーシカはさらに増えて、いまにも家から溢れ出そうになっていました。

「マトリョーシカども!これを見ろ!」

 青年が、だいじに抱えてきたこけしを高くかざすと、ポンッという音とともに、マトリョーシカたちは消えてなくなりました。青年は胸をなでおろしました。

 青年ははっと気が付き、押し入れに駆け寄りました。

「もう大丈夫だよ」

 青年が押し入れを開けると、妻が出てきました。

「子どもたちは?」

 妻は尋ねました。

 青年ははっと気が付き、家中を探しましたが、子どもたちはどこにもいませんでした。


 その晩。

 青年は妻に、沼で会った女性の話、老師から聞いたこけしの話……そして、こけしを買うために全財産を使ってしまったことを打ち明けました。


 翌朝、青年が目を覚ますと、妻の姿も消えていました。

(おしまい)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る