けっとばさないで!

 マタンゴ王国には、オニフスベというきのこがいました。このきのこは、直径が二十から三十センチくらい。白くて、まん丸で、その姿は、あたかもバレーボールが転がっているかのようでした。

 オニフスベは、ときどき森にも姿をあらわします。しかし、わんぱくなくまや、意地悪なキツネに見つかると、間違いなくけっとばされてしまうのです。――もっとも、この姿を見たら、けっとばしたくなる気持ちもわからなくはないのですが……。

オニフスベは、どうしたら彼らにけっとばされずにすむのか考えました。そして、彼は、大きくなることを思いつきました。

 ――しかし、これは駄目でした。直径一メートルを超えた大きな彼を見つけた彼らは、大喜びで彼をけっとばしました。

 こんどは、仲間たちといっしょに、群れになることを思いつきました。

 しかし、これも駄目でした。

 地面に生えたたくさんのオニフスベを見つけた彼らは、これまた大喜びでかたっぱしからけっとばしていきました。オニフスベはあたまをかかえました。

 そうこうしているうちに時は過ぎ、彼は成菌になり、そして、老菌になりました。しだいに外皮がはがれて、茶色くなり、しぼんでいきました。

 こうなると、もう彼らは見向きもしませんでした。彼はやっと、心穏やかにすごすことができるようになりました。

 ある日、王国をさわやかな風が吹き抜けました。その瞬間、彼はたくさんの小さなカケラとなって、王国に散らばっていきました。


――そして、次の年。

 そこには、たくさんのオニフスベが生えていました。

 そうです。あのオニフスベの子孫たちです。

 そして、彼らもまた、くまやキツネたちにけっとばされる運命にあるのでした。

(おしまい)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る