第3話 萩谷さん
彼の名は、
弟に理英、理央という小学校2年生の双子を持つ。
僕が知っているのは、雨音さんは哀さんと同級生でずっと一緒にいる幼馴染だということくらいだ。
雨音さんは理英達を連れて、毎週日曜日に此処へ来る。
哀さんも雨音さんも18歳、高校3年生で…僕は中学に入った頃から逃げてしまったけど、大学受験という勉強の鎖がじりじりと近付いているのだ。
学生の本文は勉強。
そんな現実に必死に立ち向かうように、哀さんと雨音さんは毎週此処で受験勉強に励むのだ。
雨音さんの両親は共働きだそうで、図書館とかに雨音さんが勉強しに行こうものなら可愛い弟達が二人ぼっちで寂しくお留守番になってしまうんだとか。
こんなシステムは、僕等が此処に来た時に既に始まっていた。
「じゃあ寧妬君、よろしくね」
「うっす!」
目の完全に覚めた兄さんは、笑顔で返して理英達を和室へと連れて行った。間も無くげらげらと楽しく賑やかな声が襖越しに聴こえてきた。
哀さんと雨音さんは勉強するために二階へと上がり、居間には僕と愁さんだけが残った。
徐にテレビをつけると流れてくるワイドショーをBGMにしながら、僕は食器洗いを始めた。
こんな平凡な日曜日を、既に何十回、何百回と繰り返している。
この幸せを、わざわざ壊すなんてしたくないとずっと思っている。
父さんが帰ってこないことを、兄さんは知らない。
僕だって、詳しくは教えてもらっていない。
だけど。
知らなくても済むのなら、
もし事実を知らぬだけでこんな平穏な日が続くなら。
僕はこれで構わないと思っている。
そんな僕の、捉え方によっては捻じれ曲がった考えなんて露知らずただただ時が流れていった。
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