第2話 日咲さん
「おはようございます」
キィ、と木製のドアが開いた。
ソファーに座っていた僕はその音に気付き、居間に入ってきた彼にそう声を掛けた。
「おはよう
ぴょこぴょこと寝癖のついた瑠璃色の髪。ぶかぶかの部屋着は小柄な彼が着た所為か袖が余ってしまっている。
「…今日は、朝飯手伝おうと思って」
時計の針は未だ朝の6時を指している。
朝食はいつもこの
此処に厄介になってから早4年。
不登校気味でずっとぐうたらしている僕と、部活で疲れ果てて帰宅した途端死んだように眠る兄。
海外出張に伴い父さんの友人だった哀さんのお父さんが僕達を引き取ってくれたのだ。それが4年前の出来事。
当時は10歳だった僕等も、既に14歳。
…どう考えてもお荷物でしかない。
そう思って最近は家事を手伝うようにしているのだが。
台所に目を向ければもう哀さんは四人分の朝食づくりに取り掛かっていた。
まったりしているようで何気に仕事早いんだよなぁ、この人。
慌てて駆け寄り手を洗うと、仕事を請うた。
「うーん、それじゃあサラダをお願いしようかな!」
はい、と笑顔で渡された器に、丁寧に野菜を盛る。
隣から魚の焼ける香ばしい匂い。それと同時に、とんとん、と包丁と俎板が合わさる音。
此れが、朝。
僕が盛り付け如きに戸惑っている間に哀さんは朝食を全て作り終えていて、何だか逆に足手纏いな気がした。
「
食卓に彩り豊かな食事が並ぶ中、階段の下から哀さんが叫んだ。
今日は日曜日。だけど、平日だろうが休日だろうが規則正しい生活を送る決まりというのは健康面に大変気を配っている証拠であって、本当に哀さんには頭が上がらない。
のそのそと起きてくる兄と愁さん。
僕と兄さん…寧妬は双子だけれど、寝起きの雰囲気で言えば正直兄さんと愁さんの方が似ている。なんかこう、どんよりというかなんというか。まぁ年中根暗な僕が言えたことでもないが。
「おぉ、鮭…!!」
「ふふ、今日は笑也君も手伝ってくれたんだよ~」
兄さんは魚が好きだ。肉も好きだけど、同年代には珍しい魚派なのだという。
そして、哀さんの一言で二人の感心の目が僕に向けられる。手伝った、なんて。
哀さんが作ったのは3品、僕はたった1品で、然も食材を盛り付けただけだというのに。こんなので称賛されるのは何だか申し訳ない。
まぁ、でも。
褒められるのは、嬉しかった。
「さてと、んじゃいただきます!」
「「「いただきます」」」
それぞれもぐもぐと皿の上のそれらを頬張り出した刹那。
ピンポン、と呼び出し音。
「はーい…?」
インターホンに駆け寄り対応したのは哀さん。
「哀ちゃ!!」
元気な小学校低学年くらいの男の子の声。
其は、其処で朝食を食べている全員に聞き覚えがあった。
「おぉ
哀さんの声のトーンが上がる。
インターホンの画面には、ぴょこぴょこと飛び跳ねる少年。
栗色のふわふわとした髪は、少年がジャンプする度に柔らかく揺れた。
更に横には全く同じ格好の男の子と、背の高い爽やかな青年が立っていた。
「よぉ哀」
ひらり、と隻手を翻した青年は、白い歯を見せてカメラに向かいこれまた爽やかに笑ってみせた。
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