第1章 情報を精査する



─情報の波に呑まれないように─



 まず、指揮官に必要な要素は、「情報を精査すること」にある。

 情報というものは我々に素晴らしいヒントとアイデアを与えてくれる一方で、我々を混乱の中に陥れることがあるからだ。

 指揮官となれば、自分に集まってくる情報というものはカテゴリを問わずかなりの量であり、中には先ほど述べたように、我々に素晴らしいヒントとアイデアを与えてくれるものがある。だがその情報量は比較的少ない。大部分が正直に言って不必要なものであり、我々を混乱に陥れるものである。

 それをどうやって区別するのか、私も悩んでいた。今も悩んでいる。

 それでも、情報を区別しなければ話は始まらない。そこからがスタートだからである。

 私は、情報の精査というものは「コーヒーを淹れるようなもの」だと考えている。つまりは、私という指揮官は「コーヒーを受け取る人間」でいいのだ。




─コーヒーのフィルター役に適任者を当てる─



 先ほど、情報の精査とは「コーヒーを淹れるようなもの」と述べた。コーヒーを淹れるには何が必要となるだろう?当たり前の話ではあるが、コーヒー豆とフィルターとお湯である。

 コーヒー豆を情報として、フィルター役の人間を用意したとしよう。これも当たり前の話で、コーヒー豆とフィルターだけではコーヒーはできない。お湯を注ぐ必要があるからだ。だから、お湯を注げば、フィルターを通し香り高いコーヒーが生まれる。


 ここまで説明して納得できない人が多数だと思う。


 私は「コーヒーが飲みたい」わけであって、コーヒー豆を食べたいわけでも、お湯を飲みたいわけでもない。そうすると、コーヒーを淹れるために、フィルター役の人間を用意する必要がある。私の場合に、その人間というのは親友のロコー(ファシベ・ロコー前監督、現AC BlackBird戦術ディレクター)であったり、ルボー(カルボーチェ・ルボー前GM、現AC BlackBird戦術ディレクター)であったりする。彼らは人によって、淹れるコーヒーの濃さが違ったりする。だから必要なときは、違う濃さのコーヒーを二つ用意してもらう。もちろん、豆もお湯も同じものだ。

 そして、フィルター役の他に、情報源となるコーヒー豆を保管しておくキャニスターが必要になる。それは私の場合、ユッティ(ロバーツ・ユッティAC BlackBird戦術ディレクター)なのだ。


 つまり、指揮官が自ら情報を精査することはあまりない。それどころか、私は情報を精査すべきでないと考えている。人というものは不思議な生き物で、明らかに嘘だ。明らかに虚構だというものも、信じてしまうことが出来る生き物だ。私の場合、それは大きく固定観念と呼ばれるものであったりする。

 だから、私がコーヒーのフィルター役をすると、苦味しか残らないか、酸味だけしか感じることのできない、偏ったコーヒが生まれてしまうのだ。




─正しいと思う情報を、解析する─



 信頼できるフィルターを通して私の元に上がってくる情報量は、最初のものに比べればとてもスリムになっている。一切の蛇足が無いわけではないが、それでも私のようなものでも扱いきれるサイズのものが多い。

 そうなれば、次に行うのは情報を解析することだ。解析というものは難しく考えがちであるが、全ての情報を解析するわけではない。たとえば、「最近ロングレンジでのシュートが多い。なぜ選手たちはロングからシュートを放ち、その結果はどうなのだ。」とか「この試合はクロスの数が少なかった。なぜ少なかったのか、それは上げることができなかったのか、それとも選手たちがそれを選択しなかったのか。」のように小さくカテゴリを分けることができる。それくらい小さくまとめられた情報ならば、私個人でも解析することが可能だ。


 ここで問題が発生するとすれば、個人で抱える情報量が多すぎるか、根本的に自らに与えられた情報が間違っているか、どちらかでしかない。


 そういう時は、コーヒーの飲み過ぎに気をつけるか、フィルターを変えるしかない。

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