第9話 恋のトラウマ

あれから栞から連絡はない

メールもしたし

着信も残しているのだから

あまりしつこくこちらから連絡するのも・・・・・・と思い

ただ連絡を待っている


悠長に構えているようにも見えるが麻耶子は内心不安になっていた

心に過ぎるのは

”向こうとしては

もう既に終わってしまっているのかも

あの時の失恋と同じように・・・・・・”


それが心のどこかでトラウマになって

追えない所もあった



今日は月に一度の実家の日


普段なら定時で帰るのだが

なんだかダラダラしてしまって少しだけ遅くなってしまった

麻耶子は20時過ぎの電車で実家へ帰った


「ただいま」麻耶子


麻耶子はそう言いながらリビングへ


「もう!遅くなるんだったら連絡できないの?」母


母は21時を過ぎた時計を見ながら言った


「ごめんなさい」麻耶子


面倒くさそうに言いながら食卓テーブルに座る

みんな食事を終わらせた後のようで麻耶子の食事はワンプレートに乗せて置いてあった


「パパは?」麻耶子


「パパも今日は帰れないって!突然なんだから!!ママ困っちゃうう

だけど悠介が栞ちゃん連れてきてくれたから良かったんだけどね」母


”栞”

その言葉に口に含んだお茶を吹きそうになる


「麻耶ちゃん大丈夫?」母


母はティッシュを麻耶子に箱ごと渡した

麻耶子は口元を拭きながら


「っで?悠介たちは?」麻耶子


「いつも通り悠介の部屋にいるわよ

本当に仲がいいわね」母


麻耶子はそれを聞き若干 急いで食事を済ませる事に・・・・・・

今の状況でここで栞に会いたくない


もう少しで食べ終わる頃

二階から二人が降りてくる足音


”どうしよう”


二人はリビングに入ってきた


「母さん!ちょっと栞とコンビに行って来るけどなんかいる?」悠介


悠介は食卓にいる麻耶子に気がつき


「あっ帰ってたの?お帰り」悠介


「麻耶ちゃんご無沙汰!」栞


栞は目を合わせずに挨拶をする

悠介はスタスタリビングに入ってきて麻耶子の横に座る

栞はドアの前に立ったままで麻耶子の方を見る

麻耶子は栞のほうは向けづに居たのでどんな表情かは分からない


「どうなの?」悠介


悠介はニヤニヤしながら麻耶子に聞く

何を聞かれているのか?分からない


「どうだったの?お見合い」悠介


母が悠介のほうに近寄り肩をぺチンと叩く


「駄目よ!気軽に聞いちゃ!!今からおママが麻耶ちゃんに聞こうって思ってたんだから」母


「えっ!お見合いしたの?」栞


栞がそう言いながら悠介を挟んだ向こう側の椅子に座る


「そうそう

こないだ姉ちゃんお見合いしたんだよね」悠介


「・・・・・・お見合いじゃないし!って言うか

私は半分騙されて・・・・・・医局の親睦会だって聞かされて・・・・・・」麻耶子


動揺する麻耶子

悠介の向こうからじっと睨む栞

栞は”あの夜のことか!”と思う


「えっ?知らなかったの?姉ちゃん騙されたの?」悠介


おもしろがる悠介


「麻耶ちゃん嫌がるからって

パパが色々と考えて

自然に馴染めるようにって・・・・・・騙されたなんて言われたらパパが可愛そうよ」母


母がフォローする


「っで?どうだったの?」悠介


「どうって・・・・・・お見合いって言うけど

同じ医局の同僚だから別にどうもこうもないわよ」麻耶子


「へ~全く知らない人じゃないんだ~

じゃお見合いより先に行ってるじゃん

”君と君交際したらいいじゃないか?”みたいな感じ?」悠介


「麻耶ちゃんの縁談の話は各方面から戴いてるのよ

だけど本人が乗り気じゃないでしょ?

だからパパが庄内さん(医局長)と話をしていたら

いい人がいるって言うから庄内さんにお任せしたのよ」母


「庄内さんが関わってるんだ・・・・・・

姉ちゃんの直の上司じゃん なかなか変な返事はできないね

こりゃまとまるかもな~向こうが嫌がらなければ」悠介


「っで麻耶ちゃん

その人ってどんな人なの?」栞


栞はしっかり麻耶子を見つめて言った


「普通の人」麻耶子


「は?小学生の作文よりボキャブラリー無いな!」悠介


「麻耶ちゃん照れてるんでしょ?

悠介と栞ちゃんが聞きたがるから」母


母は悠介と栞の肩をポンポンと叩く


「照れないで教えてよ!

麻耶ちゃんが結婚するかもしれない相手のこと知りたいよ」栞


栞はニコニコしているけど

目が笑っていないように見えた

麻耶子は目をそらす


「もう!しょうがないわね

じゃ代わりにママが知ってる事だけ話すわよ

斎藤秀平さん33歳

身長が高くって細身だけどきっと筋肉質ね

細マッチョだと思う

趣味は

テニス・登山・キャンプ

秀平さんの様なお医者様に診てもらったら脈拍が上がっちゃいそうな感じかしら

お若いのにとっても優秀な方らしくって

パパもお気に入りなの

もちろんママも」母


「母さんがメロメロじゃん!本当にイケメン好きだからね」悠介


「どうしてママが斎藤先生を?」麻耶子


「麻耶ちゃんとお見合いする前に庄内さんに連れられてここに来たから」母


「そうなの?俺も会いたかったなぁ

会って姉ちゃんの変な所をしっかり伝えたかった」悠介


「麻耶ちゃん結婚するんだ」栞


栞が小さい声で言う


「結婚なんて・・・・・・まだ・・・・・・」麻耶子


「おめでとう」栞


栞はそう言って部屋を出て行った


「おめでとう」悠介


悠介は茶化すようにそう言って

栞を追いかけるように部屋を出た


麻耶子は気が気でなかった

どうして今日 栞が来ていたんだろう?

どうしてお見合いの話なんかになったんだろう?

この前の人が斎藤先生だって栞は気が付いたろうな・・・・・・

じゃ誤解なんかじゃなく

逢引していた様にみえたろうな・・・・・・


それからの麻耶子は心ここに在らず

母とどんな会話をしたか覚えていない


帰り際


「麻耶ちゃん具合悪そうだけど大丈夫?」母


「大丈夫・・・・・・お見合いの話は・・・・・・保留にしておいて

自分の中でまだ整理がついていないから

斎藤先生が答えを急ぐなら

無かったことに・・・・・・」麻耶子


曖昧な気持ちを伝えた

母にしっかり断ることができなかったのは

栞との恋の終わりがチラホラ見えていたから


この年齢で一人になりたくない


そんなずるい考えがあったから・・・・・・


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